(社)日本経済団体連合会
I 基本的方向性
日本経団連は、1991年4月の「経団連地球環境憲章」の公表以降、廃棄物最終処分場の逼迫問題の克服や廃棄物の適正処理にとどまらず、資源制約の克服という観点からも、循環型社会の構築に向けてさまざまな取組みを進めてきた。取組みの成果は、「環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕2009年度フォローアップ調査」に具体的に表れている。景気後退の影響も一部あったが、2008年度の産業廃棄物最終処分量は 1990年度比89.1%減(約644万トン)となった。
一方、政府は第二次循環型社会形成推進基本計画(2008年3月)の中で、「2015年度の産業廃棄物最終処分量を2000年度比約60%減」という高い目標を掲げ、循環型社会のいっそうの進展を目指している。
これからも企業は、最終処分量の削減に向け取り組まなければならないが、これ以上の削減は限界に近いとする業種も多い。循環型社会のさらなる進展に向けては、廃棄物の適正処理を確保することで環境への悪影響を回避し、悪用防止措置を講じながら、次のような方向で、民間が取り組みやすい条件を整備することが不可欠である。
- 循環型社会の構築に向けた企業の技術開発を促進するとともに、生産工程で発生する副産物の新たな用途開発を推進する必要がある。
- 副産物の資源としての有効利用は、同一事業所・企業内、企業グループ内、同業種内、さらには業種の枠を越え進んでいる。こうした資源循環の輪をさらに広げていくために、さまざまなレベルでの連携を支援しなければならない。
- 副産物の再資源化には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、「廃掃法」)の許可が必要となる中間処理を経なければならない場合もある。再生利用認定制度など既存の特例制度を拡充するなど、廃棄物処理制度を見直し、資源の有効利用につなげていくことも必要である。
- わが国全体の資源循環の促進に向けては、一般廃棄物に含まれる資源の有効利用を進めていくことも検討すべきである。特に優れた技術を持つ既存の民間処理施設を広域で活用することが望ましい。
このような視点を踏まえ、循環型社会のさらなる進展に向け、以下、具体的に提言する。
II 具体的提言
1.循環型社会に向けた技術開発・設備投資の促進と副産物の用途開発
(1) 税制優遇・助成制度による技術開発・設備投資の促進
企業は、天然資源や再生資源を投入して、さまざまな生産活動を行っており、それに伴い、多種多様な副産物が発生する。循環型社会をさらに進展させるためには、副産物の発生抑制や再資源化などのための新たな技術開発が不可欠である。
しかしながら、新興国との国際競争の激化や少子高齢化の進展等により経済成長率が低下していくことが想定されている。こうした中、企業には、低炭素社会、自然共生社会の構築などバランスのとれた環境への配慮が求められており、循環型社会の構築のために投入できる経営資源に限りがあるのが実情である。
そこで、次世代の資源循環促進技術の研究開発費や資源循環の促進に資する設備投資等に対し、税制上の優遇措置や助成制度の拡充が必要である。現行の支援策は、主として廃棄物の再生利用や適正処理設備等が対象となっているが、生産活動の中で発生する副産物を原料として再利用を進めるための設備投資等も対象に加えるべきである。
(2) 副産物の用途開発と受け入れ産業の支援
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1. 安定的な副産物の用途開発
資源循環を促進させるためには、大量に発生する副産物の安定的な用途開発を進めていくことが重要となる。
そこでまず、汚泥や鉱さい、ばいじん等のうち生活環境の保全上支障がない副産物については、公共事業への優先的な利用を進めていくべきである。必要に応じ、グリーン購入法による特定調達品目への追加指定も検討すべきである。
また、鉄鋼スラグやフライアッシュを原料にし、優れた環境修復機能を有する新規リサイクル材が企業により開発されている。国や自治体がこうしたリサイクル材を積極的に活用すれば、新たな資源循環の輪の創造が進むほか、海水の浄化や珊瑚礁の造成など、自然共生社会の構築にも資することになる。
さらに、JIS規格の見直しにより、再生品の利用を進めていくことも有効である。たとえば、セメントやコンクリートの代替原料となるフライアッシュについては、JIS規格の見直し等による有効利用の促進も考えられる。
なお、生産工程で発生する副産物は、大量で同質かつ性状も安定している物もある。こういった副産物については、再利用が困難なのであれば、無理に循環利用させるのではなく、生活環境保全上の支障を除去することを前提に、適正に最終処分することも許容すべきである。たとえば、処分場に関する新たな基準を設け、生活環境の保全上支障がない副産物専用の受け入れ場所の設置を検討すべきである。これには、国民の十分な理解を得つつ国として取り組む必要がある。 -
2. 副産物・廃棄物の受け入れ先の支援
資源循環を進めていくには、受け入れ先の拡充が重要である。しかしながら、大規模な副産物の受け入れが可能な業種はセメント、鉄鋼などに限られている。
このような産業の一部は、資源循環に貢献しているにもかかわらず、実態に合わない廃掃法の規制を受けている。
たとえば、多くの副産物・廃棄物を受け入れているセメントキルンには、現行の廃棄物焼却炉の許可基準(維持構造管理基準)にある灰出し設備・貯留設備、助燃装置等は必要がないので装備されていない。廃棄物燃焼炉の許可基準をそのまま適用するのではなく、セメントキルンの実態に合わせた適切な基準を設ける必要がある。
2.「自ら利用」の促進と企業間連携による資源循環
(1) 副産物の「自ら利用」へのインセンティブ付与
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1. 生産工程における副産物の自ら利用の促進
生産工程で発生する多種多様な副産物については、企業努力により、工場等の生産工程において原料としての再利用が進んでいる。こうした副産物を「自ら利用」する場合には、廃掃法は適用されない。しかしながら、「自ら利用」のために新たな設備投資をする場合、その設備で利用する副産物を産業廃棄物とみなし、廃掃法の許可施設とするように指導をする自治体がある。
仮に、ある副産物が産業廃棄物と位置付けられると、生産拡大に伴い、「自ら利用」量を増やす際に、設備の改造や能力の変更等に許可が必要となる。また、本来原料である副産物の保管に廃棄物処理基準も適用されるなど、生産活動そのものが大きな制約を受ける。副産物の「自ら利用」拡大のために、同一の事業所において副産物を原料として使用する行為は、前処理工程も含めて廃掃法の適用とならないことを通達等により国が明確に示すべきである。
また、地理的に離れた事業所間で副産物を原料として利用しあう場合も、同様の扱いとする必要がある。
なお、同業種の企業間において、副産物を原料として廃掃法の規制を受けずに利用する行為が進めば、資源循環はさらに促進する。こうした取り組みを積極的に支援する仕組みも期待される。 -
2. 建設汚泥の自ら利用の促進
建設副産物の最終処分量の多くを占める建設汚泥は、掘削工事に伴って大量に排出される土砂等との競合により、有償譲渡できない場合が多い。現制度においては、有償譲渡でなければ「不要物」として廃棄物とみなされる。そのため、国は「建設汚泥処理物の廃棄物該当性の判断指針」を定め、有償譲渡でなくても「自ら利用」できる場合を示している。即ち、この指針に基づき、排出事業者が建設汚泥を適正に利用できる品質にした上で、汚泥が発生した工事現場、または、排出事業者の他の工事において再度建設資材として利用する場合に限っては、他人に有償譲渡できなくても「自ら利用」を可能とする取扱いをしている。
しかしながら、自治体が独自に、「有償譲渡できる性状のものでなければ、一律に自ら利用を認めない」という運用をしている場合がある。こうした運用により、廃棄物として最終処分されているケースも多い。国は「判断指針」の周知徹底を図り、自治体は独自規制を撤廃すべきである。
(2) 企業グループ内での資源循環の促進
昨今、企業経営の多様化が進んでおり、たとえば、商品を製造する部門と副産物を利用する部門が分社化されているケースもある。こうした中、グループ内で連携して、同一性状の製品等を有効利用しようとすると、法人が異なれば、廃掃法上の処理業の許可の取得が必要となるケースもある。事務手続きも煩雑となり、柔軟に資源循環を進めることができない。
したがって、グループの範囲を明確にした上で、同一敷地内のグループ内企業間で中間処理をしたり、滞留品・損傷品をグループ企業間で再生利用をしたりする場合は、グループを同一法人とみなし、「自ら処理」と位置づけることができるような選択肢を用意すべきである。
(3) 建設工事における発注者による資源の有効利用
建設工事に伴い生ずる廃棄物については、2010年の廃掃法の一部改正により、元請業者に処理責任が一元化された。これにより、元請業者、下請業者、孫請業者等が存在し、事業形態が多層化・複雑化している建設工事において、個々の廃棄物について処理責任を有する者が明確になったので、資源の有効利用、適正処理が進むことが期待されている。
しかしながら、大規模な工場内での建設工事では、工事の発注者が自らの工場の中で再利用等を行ったほうが効率的な場合もある。同様に、施工区間を区切って発注される大規模な道路工事やシールド工事等の公共工事も、発注者が廃棄物を自らの所有物として同一工事の施工区間を越えて再利用等を行うことにより、現場で発生するすべての廃棄物の有効利用・効率的処理が進む。また、資源の運搬も最小限に抑えられる。
このため、排出事業者責任は工事を受注する元請業者が負う原則は変えずに、発注者が再利用等をしようとする対象物を明確にし、その旨を工事請負契約において明示させることなどにより、発注者が排出事業者責任を一部分担できる例外を設けるべきである。元請業者と発注者の適切な役割分担により、副産物の資源としての有効利用が効率的に進む。
(4) 廃棄物該当性判断基準の柔軟運用
副産物の資源としての有効利用には、企業間での連携も必須となる。その際には当然、企業間での資源の取引が行われるが、現行の廃棄物該当性の判断指針によると、取引価値の有無の判断については、引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合、その取引は廃棄物処理と位置付けられる運用がなされていることが多い。それゆえ、市場価格の変動や輸送コストの多寡により、資源としての利用価値があるにもかかわらず廃棄物とみなされる場合が生じる。廃棄物とみなされれば、廃掃法に基づき、引渡し側には委託基準順守、受け入れ側には処理業の許可、輸送には産業廃棄物収集運搬業の許可と許可車両が必要となり、円滑な取引が進まない。
そもそも少しでも資源としての価値があり有償売却しうる副産物については、輸送先までの距離にかかわらず、安定的に有効利用することができるようにするのが望ましい。そこで、廃棄物か否かを決めるにあたっては、少なくとも輸送コストを含めずに取引価値の有無を判断するように、廃棄物の定義に関する廃掃法の解釈を見直すべきである。
この見直しによる効果は、輸送費が高額となる輸出の場合において特に大きい。たとえば、副産物として発生する硫黄は日本国内では利用先が限定されるが、肥料用の硫酸分が不足している発展途上国では有用な資源として利用される。輸出者と輸入者が廃棄物として処理する実態がないことが明らかであれば、輸入国での有効利用を促進すべきである。
3.廃掃法の特例を活用した資源の有効活用の促進
(1) 再生利用認定制度の拡充
再生利用認定制度は、廃棄物のリサイクルを推進することを目的とした廃掃法の特例制度である。再生利用の内容の基準(再生品の性状を適合させるべき標準的な規格の存在等)、再生利用を行う者の基準(5年以上再生利用を業として的確に行っていること等)、再生利用の用に供する施設の基準(生活環境の保全上支障が生じないようにするための廃棄物処理施設の技術上の基準等)に該当する場合に限って認定を行い、認定を受けた者については自治体ごとの廃棄物処理業及び施設設置の許可を不要としている。
このうち、再生利用の内容基準については、受け入れる廃棄物が再生品の原料として使用されること、再生品がJIS規格に適合していること、再生品の販売実績があることを求めている。しかし、資源循環を促進するためには、この基準を緩和し、再生品としての規格や販売実績がなくても、再生利用の用途が生活環境の保全上支障がないものであれば、再生利用認定制度を活用できるようにすべきである。
具体的には、採石場の埋め戻し材や海面埋立資材を再生品として認め、再生利用認定制度の対象とすべきである。
また、再生利用の内容基準に、製造プロセスにおける熱回収という概念を加えるべきである。セメントキルンは、熱回収効率が高く、単なる焼却を行う産業廃棄物処理施設とは異なり残渣物が発生しないという特長を持っている。既に対象となっている廃ゴムタイヤ、廃肉骨粉だけでなく、廃木材や廃プラスチックについても、熱回収として認定対象に加え、資源の有効利用を進めるべきである。
(2) 広域認定制度の拡充
廃掃法は、環境大臣が廃棄物の減量その他適正な処理の確保に資する広域的な処理を行う者を認定することにより、廃棄物処理業に関する自治体ごとの許可を不要とする広域認定制度を規定している。製品の性状、構造を熟知しているメーカー等に広域的な廃棄物処理を行わせることで資源の有効利用を目指している本特例制度を充実させれば、いっそうの資源循環が期待できる。
具体的には、広域認定を取得したメーカー等は、認定証に記載されている収集運搬業者にしか委託できないが、そもそも廃掃法の許可を受けている収集運搬業者に対しては認定証への記載にかかわらず、委託を可能にすべきである。また、宅配便は貨物自動車運送事業法で定められた安全管理基準を満たしていることから、梱包などに一定の基準を設けることを条件に、収集運搬の委託を認めるべきである。広域的な廃棄物処理を前提としている本制度にとって、効率的な回収、運搬システムの構築は必須である。
また、現在の運用では、同一性状の製品であっても他社製品は認定対象となっておらず、資源として有効利用されるのは、広域認定制度を積極的に利用しているメーカー等の製品にとどまる。一例として、情報通信機器等は、世界的に機器の標準化・規格化が進んでおり、ハードウエアについてはメーカー等による相違はほとんどない。効率の高い適正処理と資源の有効利用をよりいっそう進めるためには、同一性状の他社製品の処理受託を可能とすべきである。
さらに、一般廃棄物の広域認定制度の対象品目は現在10品目に限られている。たとえば、合繊メーカーは、経済的かつ二酸化炭素排出量の少ないケミカルリサイクルの技術ならびに設備を有しており、また、合繊から作られたユニフォームはすでに産業廃棄物として認定されている。したがって、合繊から作られた一般衣料等の繊維製品も対象品目に追加すべきである。
4.効率的な資源循環の促進
(1) 効率的な収集運搬による資源循環の実現
わが国全体でより積極的な資源循環を推進するためには、再利用可能な資源を効率的に収集運搬することが不可欠である。広域的流動や規模の効果により、効率的な循環物流システムの構築が求められる。
特に、公共岸壁での積替え保管については、規制を緩和して全国規模での大きなリサイクルの輪を構築することが必要である。すでに、民間企業等で構成するリサイクルポート推進協議会が、利便性の向上や必要コストの低減など、港湾を核とした広域的な静脈物流システムの構築に向けてさまざまな取り組みを進めている。国も問題意識を共有し、一体となって資源の広域移動を阻害する要因の除去に取り組むべきである。
(2) 区域外の民間処理業を活用した一般廃棄物からの資源回収
わが国全体での資源循環という観点からは、産業廃棄物だけではなく、一般廃棄物の有効利用にも焦点を当てる必要がある。自治体が集めた一般廃棄物には、国内の資源戦略に資する資源物のほか、有害な化学品(薬品類等)など、廃掃法の制定時には想定されていない廃棄物も増えている。優れた技術を有する民間企業の既存の専門施設を積極的に利用すれば、こうした廃棄物からも効率的に資源が回収でき、有害物処理も適切に進めることができる。
しかしながら、自治体が集めた一般廃棄物は、各自治体の一般廃棄物処理計画に基づき、各自治体の区域内で処理を行うことが原則とされている。区域外の自治体にある処理施設に処理を委託するためには、自治体同士で一般廃棄物処理計画を策定して合意を得る必要がある。優れた処理施設を持つ一つの自治体が全国から一般廃棄物を受け入れるためには、全国の全ての自治体とそれぞれ合意しなければならない。
そこで、自治体が集めた一般廃棄物のうち、有害な化学品等の処理困難物や循環が必要とされる資源を含む廃棄物については特例制度を設け、自治体間での合意を得ずに、広域での廃棄物の収集運搬・処分を可能とするべきである。これにより、区域外の民間処理業を活用し、自治体が集めた一般廃棄物から資源を回収することができる。