(社)日本経済団体連合会
知的財産委員会 企画部会
日本経団連知的財産委員会は、本年3月に「生物多様性条約における『遺伝資源へのアクセスと利益配分』に対する基本的な考え方」をとりまとめ、生物多様性条約(CBD)への期待と、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する懸念事項を表明した。
その後、コロンビアのカリにおいて、遺伝資源へのアクセスと利益配分の国際的枠組みを検討する国際会議(ABS-WG9)が開催された。同会合では、開催初日にWG共同議長が新たに提示したプロトコールを土台に議論が行なわれ、最終日には「議定書原案(UNWP/CBD/WG-ABS/9/3 ANEX I)#1」が作成された。議定書原案は、これに定められたことを実現するため、新たな国内法の制定・既存国内法の改正を締約国の義務とする拘束力を有する文書として作成されている。
今月、カナダのモントリオールにおいて政府間交渉が再開されることを踏まえ、議定書原案に関する具体的な意見を以下のとおり表明する。
1.遡及適用について
議定書の適用時期が過去に遡るとすれば、議定書の発効前に適法に行なわれていた各々の事業に対して追加の利益配分を要求されることになるため、その分を今後提供する製品やサービスの価格に上乗せしてこれを回収せざるを得なくなる。これにより、企業はこれまでと同じ価格で同じ質の製品やサービスの提供ができなくなるおそれがあり、場合によっては、製品やサービスの提供自体ができなくなる可能性もある。このことは、利用者の実質的な生活の質の低下を招き、国民生活に多大な影響を及ぼす可能性がある。従って、議定書において遡及適用を可能とする表現が盛り込まれないよう注視すべきである。
2.派生物について(議定書原案第4条第2項)
CBDで想定している利益配分の対象は「遺伝資源」であって、その「派生物」ではない。また、「派生物」は多様な解釈が可能な用語であり、議定書の対象に派生物が含まれれば、利益配分の対象範囲が際限なく拡大解釈される懸念がある。従って、派生物を利益配分の対象と記している条項(含:付属書Ⅱ)は削除すべきである。
3.遵守違反措置について(議定書原案第12条、第13条第1項(a))
遺伝資源へのアクセスは、資源提供国内において実施され、当事国の国内法によって規制されるべきものであり、各国主権尊重の観点から、他の締約国の国内法により拘束されるべきではない。また、資源提供国の国内法によるアクセスおよび利用の適法性を利用国で判断する基準も明らかでない。さらに、遵守違反の判断に際しては、締約国の合意の下に国際アクセス基準を確立し、資源提供国の国内法がこれに適合するものであるかどうか、慎重に検討される必要がある。従って、これら遵守違反措置の制定判断や、管理措置の内容に関連した12条、13条第1項(a)は削除すべきである。
4.伝統的知識について(議定書原案第8第2項、第10条第1項、11条第3項)
伝統的知識については、世界知的所有権機関(WIPO)において専門的な議論がなされている。ABSにおける扱いについては、WIPOでの議論の結果を尊重すべきであり、今回の議定書に盛り込むことには慎重であるべきである。