経団連(十倉雅和会長)と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、企業と投資家との建設的対話を促進し、アセットオーナーと投資先企業の相互理解を深めるべく、「経団連・GPIFアセットオーナーラウンドテーブル」を設置した。
10月3日に東京・大手町の経団連会館で初回会合を開催し、政府が8月に公表した「アセットオーナー・プリンシプル」に対するアセットオーナーの取り組みを聴くとともに意見交換した。同会合には、GPIFはじめ年金や共済事業の資金を管理するアセットオーナーと、経団連金融・資本市場委員会の委員ら約80人が参加した。
髙島誠副会長・同委員長および日比野隆司同委員長のあいさつ、GPIFの宮園雅敬理事長のビデオメッセージの後、各アセットオーナーから説明があった。概要は次のとおり。
■ GPIF(泉潤一理事、塩村賢史ESG・スチュワードシップ推進部長)
GPIFは、厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用し、その収益を国に納めることによって、年金事業の運営の安定に努めている。GPIFは250兆円近い運用資産の4分の1を国内株式に投資している。これは、被保険者である国民がGPIFを通じて、市場の時価総額7%にも相当する日本企業の大株主になっているともいえる。その「声なき期待」を担っていることを忘れてはならない。
アセットオーナー・プリンシプルの受け入れに当たり、(1)大規模かつ精緻なリバランス(資産の再配分)を含む、基本ポートフォリオに沿った運用(2)日本株アクティブ運用機関の追加選定(3)長期的な収益を確保する観点から、財務的な要素に加えてESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮した投資――を推進している。運用会社に建設的な対話を促し、最終的に長期的なリターンの向上を目指すことで、スチュワードシップ責任を果たしていきたい。これらの取り組みをESG活動報告書やホームページ等で積極的に発信し、情報を見える化していく。
■ KKR(松元崇理事長)
国家公務員共済組合連合会(KKR)は、国家公務員等の年金を裁定・支給している団体である。受益者の最善の利益を追求しつつ、資産運用を行っている。
アセットオーナー・プリンシプルに対する取り組み方針として、(1)運用に関する投資原則の策定と公表(2)最高投資責任者(CIO)の設置による運用担当責任者の権限の明確化(3)適格機関投資家の届け出(4)委託先を選定する際の採用基準における規模や業歴に関する要件の撤廃(5)スチュワードシップ活動の質的・量的充実と、委託先金融機関を通じたモニタリング――の五つに取り組んでいる。
■ 地共連(植村哲理事)
地方公務員共済組合連合会(地共連)は、地方公務員の相互救済の一環として年金給付事業をしている。総資産額は国内の公的年金ではGPIFに次ぐ規模である。
長期的な投資収益の拡大に資するべく、運用受託機関を通じた企業との対話など、運用受託機関を間に介することで、投資先企業の状況に即した議決権の行使を行っている。その他、ESG投資やコーポレートガバナンス改革の推進に注力し、アセットオーナーとしての責務を果たし、企業との建設的な対話を深めている。加えて、運用体制の強化も進めており、CIOの設置やデジタル化による業務執行の効率化などを検討している。今後、情報発信を強化するとともに、オルタナティブ資産の運用を推進するなど、資産運用力のさらなる向上を図っていく方針である。
■ 私学事業団(福原紀彦理事長)
日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)は、アセットオーナー・プリンシプルの受け入れ表明に伴い、運用資産においてガバナンスリスク管理を強化し、組織価値の向上を図るとともに、エンゲージメント活動や議決権行使の適切な実施を進めている。
スチュワードシップ責任を果たすため、投資先企業への深い理解を持った対話を重視し、ESG要素を考慮した投資活動も強化している。さらに、責任投資原則(PRI)にも署名し、ESG投資やSDGsへの積極的な取り組みを通じて、リスク管理とリターンのバランスを追求している。
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意見交換では、企業側からアセットオーナーに対して、「運用委託先が、議決権行使助言会社等による形式的な基準のみに依拠して議決権を行使していないか、モニタリングを強化してほしい」「運用委託先と企業との対話が過去の結果や形式に捉われたものではなく、未来志向で今後の経営を問うものとするよう、運用委託先に働きかけてほしい」といった意見が出された。アセットオーナーからは、「議決権はエンゲージメントの一環であり、対話の結果、合理的であれば基準と異なる行使も肯定的に見ている。投資家なので過去の結果を見ることも重要である一方、未来志向と結果責任のバランスは非常に難しい。日頃から対話により相互理解を深めることが重要」との回答があった。
経団連は、引き続き同ラウンドテーブルでの継続的な議論をはじめ、企業と投資家との建設的対話の実施等を通じて中長期的に企業価値を向上させることで、金融・資本市場の発展に努めていく。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】