経団連は9月17日、提言「Science to Startup」(StoS)を公表した。
経団連は、提言「スタートアップ躍進ビジョン」(2022年3月15日)において、27年までにスタートアップの数・成功のレベルを共に10倍にするという目標「10X10X」を掲げた。政府と同目標を共有してから約2年が経過。政府施策の後押しも受けてスタートアップの数は着実に拡大傾向にある。しかし、ユニコーンの増加には至っておらず、さらなる打ち手が必要である(図表1参照)。
そこで、成功レベルの引き上げに向けて、日本の強みである優れた研究や技術に着目し、同提言を取りまとめた。概要は次のとおり。
■ StoSの意義
米国や中国ではユニコーンの半数以上をディープテック企業が占めている。日本の研究力の低下を指摘する向きもある一方で、日本にも世界で勝てる研究は多数存在する。
課題は、その強みをスタートアップを通じて社会実装する道筋(パス)が整備されていないことである。そのため海外の投資家にも、日本の研究や技術を評価するものの、「パスができたら投資する」と参入を見送られている。
そこで、スタートアップを通じた高水準な研究の社会実装、すなわちStoSのパスの構築に向けた施策を提言する。
■ 具体的な7施策
日本ではレイターステージにおける資金がいまだ不足しているが、StoSのパスが機能し、ユニコーンになり得るディープテックスタートアップが数多く生まれれば、おのずと海外からも資金が集まってくると期待できる(図表2参照)。そこで、研究を社会実装へつなげる部分にフォーカスし、七つのアクションに整理した。
- 大学の外部からの能動的なシーズ発掘が必須。有望な分野ごとにプロフェッショナルから構成されるチーム(イグニッションチーム)を組成し、全国体制で発掘すべき
- 大学もまた変化しなければならない。大学および教授・研究者の評価への社会実装に関する指標の導入、大学内の支援体制の抜本的強化、産学間の人材往来の増加を図るべき
- 市場ニーズを調査し研究の軌道修正を図るカスタマーディスカバリーは、スタートアップの最初期に行うべき必須の活動の一つ。支援プログラムにもカスタマーディスカバリーの実施とそのための費用を組み込むべき
- 米国では、ベンチャーキャピタル(VC)が自ら有望な領域を定め、世界的研究者を集めてスタートアップを組成し、資金調達も行うトップガンアプローチも拡大している。日本の優れた研究や研究者の存在を世界へアピールし、プロジェクト等への日本人の参画を増やすべき
- 日本政府もここ数年で多数の支援制度や補助金を整備してきたが、省庁間連携の不足や審査員の属性の偏りなど、課題がいまだ多い。施策の統廃合を含め効果最大化のための改革を行うべき
- 生まれたスタートアップをユニコーンに押し上げるために、より世界に開かれたエコシステムの形成が不可欠。日本の法制度について、英語による分かりやすい解説や見直しにより、海外の起業家・投資家が日本に進出するハードルを徹底的に下げるべき
- エコシステムを支える人材育成のため、博士人材の増加、留学の推進および海外の優秀な研究者・専門人材の受け入れなどを強力に推進すべき
■ 大企業が起こすべきアクション
StoSのパスが整備されることで、おのずと大企業が関わる局面も増えていく。大企業は、カーブアウト、未使用特許の売却、製品・サービスの調達、M&A、海外進出支援、人材の流動化等に積極的に取り組む必要がある。これらは経団連が22年度から実施している「スタートアップフレンドリースコアリング」の評価要素でもある。経団連では大企業の行動変容を引き続き後押ししていく。
【産業技術本部】