前2回では、わが国スタートアップ(SU)エコシステムの形成過程と現在の課題を概観した。未来に向けてユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場企業)を創出していくには、国内のエコシステム強化に加え、海外エコシステムを活用したSUの成長モデルを描くことが非常に重要である。最終回は、インバウンド(海外から日本へ)とアウトバウンド(日本から海外へ)両面における取り組み、世界で活躍する日本のSUを創出するための所見を述べる。
■ 日本を世界有数のSU集積地へ
日本を世界有数のSU集積地にするためには、諸外国から日本が高い注目を集めなければならない。しかし、日本で最もエコシステムが進んでいる東京でも、世界ランキングでみると15位である。特に国内外市場におけるスケールアップやユニコーン輩出状況などに基づく「マーケットリーチ」が1ポイントと最低値となっている(図表参照)。
日本は、事業会社やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がSUエコシステムの資金循環を牽引した経緯があるものの、海外ベンチャーキャピタル(VC)等の入り込みが弱かった側面は否定できない。
では海外VC等の興味を引くような都市に変貌するには何が必要か。まず、SUの魅力を高めることである。日本の企業がSUの製品サービスをより積極的に活用する流れができれば、企業の生産性、効率性の向上につながる。同時に、日本のGDPは世界3位の規模を有していることから、SUのマーケットサイズの拡大が期待でき、ひいては海外VC等の関心を引くSUが増えると考えられる。
これに加えて、日本のSUと海外VCやエコシステムプレーヤーとの結節点となる仕掛けをつくることも重要である。例えば、2023年2月に海外からの東京への注目度を高めることを目的として、日本最大級のグローバルSUイベント「City Tech Tokyo」が都内で開催された。国内外のSUやSUエコシステムプレーヤーをはじめ、2日間の参加者は延べ2万6746人と、日本では最大級のイベントとなった。このような海外と国内をつなぐプラットフォームを整備していく取り組みも重要である。
■ 世界で勝負するSUの輩出
国内SUがいきなり海外展開をねらうのは、言語・文化などの障壁もあってハードルが高い。そのため、世界で勝負するSUの輩出には公的機関からのバックアップが望まれる。例えば、経済産業省は、起業家をシリコンバレー、欧州やイスラエルへ派遣する「J-StarXプロジェクト」を推進している。これは、海外市場展開を志す起業家を海外現地のエコシステムプレーヤーと連携させることで、新たな成長モデルを描くための施策である。
参考になる実例として、米国でFintech領域にて活躍している日本人起業家が挙げられる。日本で大学在学中に人材系SUを起業した後、M&Aで大企業にExit。その後渡米し3年間の英語学習を経たうえで、米国で新たに起業した。現在では、ボードメンバーも国際色豊かであり、資金調達にも成功し、米国以外の市場も虎視眈々とねらっているという。1回目の国内起業経験をもとに、大きなスケールで2回目、3回目を海外で起業することも面白い選択肢といえる。
■ ディープテックの領域に日本の勝ち筋あり
かつて市場を席巻した日本製の自動車や家電は、その高い技術力で勝負していた。技術力を基礎とした製品は、言語や文化などの障壁を越え、優れているものであれば世界中に広まっていくものである。
これからの世界進出を考えるうえでも、グリーンなど、高度な新技術が求められる分野は、言語や文化の障壁に影響されないことから、日本にも勝ち筋があると考えられる。核融合など、今のエネルギー問題を解決する技術を確立すれば、必ず世界中から大きな注目を集めるであろう。
■ 日本をSU大国へ
日本からSUがどんどん生まれ、さらに大きく成長し、グローバルで活躍するには、社会全体を転換する必要がある。SU関連施策を一元的に担う「SU庁」の設置や、SU業界で働く人を支援するための健康保険組合「VCスタートアップ健康保険組合」の新設が検討されるなど、わが国SUエコシステムの体制整備が官民問わずさらに盛り上がりをみせている。近い将来、日本も米国のように、時価総額トップ10が今日のSUに入れ替わる日が来ると確信している。
- わが国スタートアップエコシステムの過去・現在と未来への展望(全3回)
- 〈1〉スタートアップ振興の歩み
- 〈2〉「スタートアップ育成5か年計画」の背景とその実現に向けて
- 〈3〉海外を活用した日本の新たなスタートアップエコシステムの形成へ
- 〈2〉「スタートアップ育成5か年計画」の背景とその実現に向けて