今回は、前回に引き続き、職務発明制度全般についての留意点について解説します。
1.新入社員・中途社員(以下「新入社員等」)との「協議」
Q 新入社員や中途社員についてはどのように対応すればよいでしょうか。
A 職務発明規程を整備した後に入社した新入社員等は、当然のことながら策定時の協議の相手方に含まれていませんが、規程策定時と同様の「協議」を行うのは現実的ではありません。そこで、指針では新入社員等との「話し合い」を推奨しています。「話し合い」の形態としては、当該社内ルールをそのまま適用することを前提に使用者等が新入社員等に対して説明を行うとともに、質問があれば回答するという方法が考えられます。また、「話し合い」は異なる時点で入社した新入社員等に対してまとめて行うこともできるとされています。また、これは新入社員等に限ったことではありませんが、職務発明規程を社員がみたいときにみることができるようにしておくこと(「開示」)が重要であるのは、これまで説明したとおりです。具体的な開示の仕方については、指針をご参照ください。
2.派遣社員への職務発明規程の適用
Q 派遣社員についてはどのように対応すればよいでしょうか。
A 職務発明を自身に原始的に帰属させることができるとともに、発明者に対して「相当の利益」(ないし「相当の対価」)を支給する義務を負うのが、特許法35条における「使用者」です。かかる意味での「使用者」に該当するかどうかは、給与を実質的に負担するとともに、職務発明がなされるにあたって当該従業者に対して指揮命令をなし、また中心的な援助をしたものが基準となるのであって、必ずしも雇用契約上の使用者に限定されないとする立場が有力です。
派遣社員にはさまざまな実態があるため、派遣社員が派遣先で発明をなした場合、誰が35条の「使用者」なのかの判断が一概にはつきにくいケースも起こり得ます。そこで、派遣期間中に発明がなされる可能性がある場合には、指針が推奨するように、派遣元企業、派遣先企業および派遣社員の間で職務発明の取り扱いを明確化しておくことが望ましいと考えられます。なお、出向社員についても、必要に応じて派遣社員のときと同様に出向期間中の職務発明の取り扱いを明確化しておいた方がよいでしょう。
3.退職者への対応
Q 退職者についてはどのように対応すればよいでしょうか。
A 指針では、退職者に対し、特許登録時や退職時に相当の利益を一括して与えることおよび退職者に対して行う意見の聴取を退職時に行うことは可能である旨が規定されました。これを踏まえて、こうした配慮をすることなく、退職しなければ継続していたはずの支給を退職を理由に止めるといった制度については、労働法の観点からもその適法性が問題となり得るため、導入の是非を慎重に判断した方がよいのではないかと考えます。
4.グループ企業内における職務発明規程
Q グループ企業内では職務発明規程の内容は一致させた方がよいでしょうか。
A グループ企業内において人事交流や共同開発により発明がなされた場合、どの企業に在籍したかによって報奨の内容が大きく異なることは、発明奨励の観点からは必ずしもふさわしくない場合もあるでしょう。もっとも、その相違が、各グループ企業の発明奨励策に関するポリシーや給与体系に根づいている場合もあるため、統一した規程にするかどうかは広い視野に立った検討を要するところでしょう。発明者に混乱を与えないようにするために、必要に応じて、適用される職務発明規程を事前に明確にしておくことなどが考えられます。
5.まとめ―指針に従った手続きが重要
これまで説明したとおり、平成27年改正法では、経済産業大臣が指針を定め、「相当の利益」を決定するための社内ルールについて、その策定や改定にあたっての従業者との「協議」、従業者に対する「開示」、個別の利益付与における従業者からの「意見聴取」というプロセスにおいて、使用者が気をつけるべきさまざまな事項を公表しています。平成27年改正法下におけるこの指針に従った手続きを踏んでいくことが重要となります。