経団連は11月30日、「男性の育休取得促進セミナー」を開催した(基調講演は前号既報)。今号では、日経BP社執行役員の麓幸子氏のコーディネートのもと、育児休業を取得した企業・官庁の男性職員4名によるパネルディスカッションの模様を紹介する。
■ 新しいマジョリティー
冒頭、コーディネーターの麓氏は、「若年層では共働きが増え、中高年層は介護問題が生じており、時間制約・制限を有する人々が、職場の『新しいマジョリティー』として台頭している。男女がともに働きやすい環境を整備することが企業経営上の大きな課題であり、その1つの切り口として男性の育児休業の取得促進がある」と発言した。
■ ニッセイ版イクボスを目指す
日本生命保険総合法人第八部法人部長の吉田大輔氏からは「男性は子どもが生まれたら全員育休を取得すべきという風土が社内ですでに醸成されており、推奨取得期間も7日間と、業務の調整もしやすかった。今後は、育休取得の経験も生かし、部下の育成や職場環境の整備、組織・風土づくりのキーパーソンである『ニッセイ版イクボス』を目指す」との発表があった。
■ イクボスがイクボスを育てる
清水建設北陸支店建築部工事主任の坪田智公氏は「妻の職場復帰のために3カ月の育休取得を決断し、当時の上司に相談したところ、その上司は5児の父であり、育児期における柔軟な働き方を快く認めてもらったという経験がある。イクボスがイクボスを育てると強く実感している」と発表した。
■ 希望をかなえる環境整備
日立ソリューションズリシテア部技師の高間智明氏は「妻は会社の同期で、部署も同じであり、妻が次女を妊娠した際に共通の上司に報告したところ、今度は夫も育休を取得してはどうかとの提案があり、半年間の取得を決めた。当社では、育休の取得を一律に推奨するのではなく、働き方(ワーク・ライフ・バランス)や在りたい姿(キャリアビジョン)を働く一人ひとりが選択できる環境整備に努めている」との説明があった。
■ ブレない上司
全国健康保険協会本部企画部企画グループ長の坂本裕一氏(厚生労働省から出向中)は「育休取得直前に国会対応等で激務が続いたため、取得してよいか戸惑っていた。しかし、育休取得経験者である当時の上司が『仕事は代われる人がいるが家庭には代わりはいない』と、幹部に働きかけてくれたおかげで無事に育休を取得でき、代替要員も配置されることとなった」と発言した。
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続いて、コーディネーターの麓氏とパネリストのディスカッションが行われた。主なやり取りは次のとおり。
- ――職場復帰後、育休の経験は、どのように活かされたか
「育児の大変さを実感し、特に部下の女性たちに対する理解が深まった。今後はイクボスとして、部下の意識を変え、より効率的な働き方を促していきたい」(吉田氏)
「部下を評価する際、仮に3時間かけて70点(及第点)の仕上がりのAさんと、9時間で90点のBさんがいた場合、これまでは結果だけをみて、Bさんを評価していた。しかし、育休取得後は時間生産性も考慮するようになり、Aさんをより評価するようになった」(坂本氏)
- ――育休取得を含む働き方改革に関する今後の課題は
「幼い子を持つ従業員に対し、周りがそのような事情をまったく考慮しなければうまくいかないが、漠然と育児は大変だと思って過剰に気を遣うのもよくない。職場の皆が育児について知ることが重要である」(高間氏)
「制度を整えるだけでなく、その活用を促す環境整備が重要であり、例えば年次有給休暇の取得率向上のための取り組みなどが求められる」(坪田氏)
【経済政策本部】