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月刊 経団連  巻頭言 トランジション白書3.0

亀澤 宏規 (かめざわ ひろのり) 経団連副会長/三菱UFJフィナンシャル・グループ社長

日本の金融機関として、日本あるいは日本企業のトランジションの取り組みや思いをまとめた『MUFGトランジション白書』を発刊し、それを携えて欧米の政策当局者や金融機関との対話を続けてきてはや3年になるが、ここにきてカーボンニュートラルをめぐる内外の状況は大きく変わってきた。

欧米では、政策支援のもとで民間投資が順調に進んでいる領域と、近年のインフレもあって民間投資が進まない領域にはっきりと分かれるようになってきている。それに伴い、日本にとっては、かねて言い続けてきたトランジションの重要性がようやく認識され、アジア、特にASEANとの協調にも戦略的な意味が増してきた。

この情勢の変化は、「外部不経済の内部化」に係るコストをいかに負担するかという根源的な課題を改めて突き付けており、「価格転嫁の壁」が今後、世界が直面する共通課題になることをうかがわせるものである。日本も決して手をこまねいているわけではなく、政策支援の枠組みを着実に整えつつ、他の地域に比べて遜色ない排出削減を実現してきたが、この先、様々な資源制約の強まりを免れないわが国としては、具体的な対応を急ぐ必要があろう。

われわれ金融機関としては、各国の地域特性に合わせた独自性や取り組みを理解したうえで、「責任あるトランジション」の実現に向けて、次世代技術の事業化、社会実装の支援という社会的使命を果たしていく所存である。これまで日本が追求してきた多様な選択肢を、個々の企業の取り組みから産業横断的な取り組みに昇華させていくために、官民の対話を通じて、サプライチェーンの構築や産業集積、政策支援のあり方などを議論する必要があると思われる。

いま一つは、欧米も含めた共通の課題となった価格転嫁を進めるための環境整備である。負担の受容性を高める前提として日本経済の安定成長が重要であることはもちろんだが、家計の行動変容やグリーン製品の価格転嫁には国民の意識改革が不可欠である。日本の消費者がこの問題を自分ごと化して捉えられるように、われわれ経済界も、この機を捉えて、国民に対する啓発活動に積極的に取り組んでいく必要があるのではないか。

2024年の「白書3.0」では、多様な選択肢の必要性、価格転嫁と国際連携の重要性といったアジェンダを世界に問いかけており、日本のトランジションに対する国際的な理解を高め、課題解決に貢献していきたい。

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