一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会
資本市場部会長 松岡 直美
標記資料について、以下の通り、書面にて意見を申しあげる。
経団連はこれまで、コーポレートガバナンスは本来、それぞれの企業が自ら、企業の目的に即して主体的に構築すべきものであると主張してきた。その観点から、現在必要なコーポレートガバナンス改革は、コーポレートガバナンス・コード(以下、ガバナンス・コード)の細則化ではなく、これまでの改革の実効性を高め、企業自らが取り組む中長期的な収益性・生産性向上に資する経営を後押しすることである。したがって、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクションプログラム」の策定を通じ、コーポレートガバナンス改革の実質化を目指すとの事務局案に賛成する。
改革を実質化するうえで、改めてガバナンス・コードのプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレインの尊重を強調したい。企業それぞれの創意工夫、多様な取組みのエクスプレインを株主・投資家が受けとめ、建設的な対話を行うことを通じて、コーポレートガバナンス改革が企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上の達成に貢献するものとなることを期待したい。そうした観点から、アクションプログラムの各項目について以下の通り意見を表する。
1.収益性と成長性を意識した経営
企業が株主から託された資金を有効に活用し、付加価値を高めることが重要である。また、政府は、企業において、社会課題の解決に資する研究開発や人的投資等の持続可能な成長に資する投資が促されるような施策を展開すべきである。他方、コーポレートガバナンス改革推進に向けた政府の施策や市場ルールが、企業の短視眼的な取組みにつながっていないかについて、検証する必要がある。具体的には、企業においてPBRを意識するあまり、例えば自社株買い等に偏重した資本政策がとられるといったことは避けるべきである。
また、近年、経営陣・従業員にとって中長期的な企業価値向上への動機付けとなるとともに、経営陣・従業員と株主の価値共有に資することから、株式報酬の活用に対するニーズが高まっている。活用拡大に向けて、必要な制度上の措置を講じるべきである。
2.サステナビリティを意識した経営
企業のサステナビリティ開示を促進するうえでの好事例の公表等、企業がサステナビリティ課題へ取り組むうえで参考となる環境整備を歓迎したい。そのうえで、サステナビリティ課題は多様であり、解決に向けたアプローチや評価の手法等について定まっていないものが多いことを踏まえ、企業実態に応じた柔軟な対応を許容することが重要である。
また、各関係者は国際的な議論への参画を通じ、グローバル・ベースラインとなる国際サステナビリティ開示基準の開発において、日本企業の考え方が適切に盛り込まれるよう働きかけるべきである。また、今後本格的に開発が進むサステナビリティ保証基準の分野においても、日本としての意見発信を積極的に行っていく事が重要と考える。
3.独立社外取締役の機能発揮等
企業経営に貢献できる独立社外取締役が不足している現状の分析と対応が重要であり、実態調査がその一助となることを期待する。また、独立社外取締役への啓発活動は、形式的な研修機会の提供や制度の周知にとどまらず、企業実態の理解を深め、業務執行役員や従業員、株主との対話などに資する、実効性のあるものを期待したい。
4.スチュワードシップ活動の実質化
ガバナンス・コードとともに、スチュワードシップ・コードの実質化に向けた取組みも極めて重要である。スチュワードシップ活動の質を向上させ、最終受益者の視点を意識しつつ、企業と機関投資家の双方が納得できる双方向の対話を実現することを求めたい。現在、機関投資家によっては、スチュワードシップ活動が形式的なものに留まっていたり、運用ポートフォリオの規模と比較し、スチュワードシップ活動に携わる人員、体制が不十分だったりすることが指摘される。政府は、機関投資家が対話に十分なリソースを割けるようなエコシステム構築に向け、政策的な後押しを行うべきである。併せて、機関投資家へのインセンティブとして、アセットオーナーによるスチュワードシップ活動のコストの負担策や、優れたスチュワードシップ活動を行う機関投資家の表彰制度の創設なども検討されたい。
また、議決権行使助言会社(以下、助言会社)について、対話の質に対する不満や、そもそも対話が行えず評価の偏りが懸念されるといった声が多くの企業から寄せられている。助言会社による推奨意見は議案の賛否の結果に大きな影響を及ぼしており、助言会社において、企業との適切な対話に基づく妥当な推奨意見が導かれることは重要である。上述の通り、機関投資家のスチュワードシップ活動の充実を図るとともに、助言会社と企業の対話に関して金融庁として、少なくとも企業からの相談窓口を設置したり、企業との対話に丁寧に応じるよう助言会社に求めたりするなど、積極的に仲介役を果たすべきである。
5.投資家との対話促進のための法制度の見直し等
企業と株主の対話を促進するうえでは、株主側の透明性の向上も欠かせない。金融商品取引法等における現状と課題を整理しつつ、企業による実質株主の把握に資する制度の創設など、必要な制度整備を早急に進めるべきである。
6.情報開示の充実
情報開示の充実に関する施策を検討する際は、各関係者の十分な対話が必須である。施策がもたらす情報の有用性向上と、施策実行に必要な各関係者の負荷について、両者のバランスを十分に分析・検討する必要がある。
現行においても、企業は投資家にとって有用な情報の適時開示に努めており、例えば、期末日から45日以内に決算発表を行い決算説明資料を開示する、また、株主総会招集通知に関する情報を可能な限り早期にWebに公表する、といった取組みを行っている。
なお、「投資家が必要とする情報を株主総会前に提供」することについて、仮に「株主総会前に有価証券報告書を提出する事」で実現を目指す場合、企業側としては、役員人事や配当、税務申告等の現状の広範囲にわたる企業実務について、大幅な見直し、業務プロセスの再構築が必要となり、対応のために追加的に企業側が負担する実務負荷の大きさは計り知れない。投資家にとって有用な企業情報は有価証券報告書だけでなく様々な形で既に発信されており、効果的・効率的な情報開示の手段とは言えないと考える。
7.グローバル投資家との対話促進
グローバル投資家の期待に応えるコーポレートガバナンスに優れた企業群の「見える化」は検討に値する。ただし英文開示のさらなる拡充(例えばプライム市場における英文義務化)については、資金調達の状況や割当可能な人的リソースなど、各企業によって事情が様々であることを踏まえた検討が必要である。
8.市場環境上の課題の解決
市場環境の改善のために、取引所が独自に市場ルールの策定や上場会社への要請を行う際には、事前に上場会社と十分なコミュニケーションを行うことが求められる。
従属上場会社における少数株主保護のための情報開示・ガバナンスのあり方についても、企業の実務担当者の意見もよく聴いたうえで、現実的な施策を検討されたい。