一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部
意見提出の機会に感謝する。
2022年12月公表の「セーフハーバー(SH)及び罰則緩和」、「第2の柱 GloBE情報申告」、「第2の柱 GloBEルールに係る税の安定性」の3文書を通じて、GloBEルールの実施に際し、納税者の実務上の対応に一定の道筋が示されたことを評価したい。他方で、納税者側にとって、前例のないGloBEルールへの準備を万全なものとしていく上で、依然として実務上の負荷が煩雑となると思われる論点や、明確化を要する論点が存在することも事実である。
以下では、これらの事項に対する日本企業・経済界の意見を述べる。なお、実施に向けては、今後Administrative Guidanceがシリーズで公表されると理解しているが、必要に応じて意見提出等の機会をいただき、GloBEルールの円滑な実施に向けて貢献してまいりたい。
1. GloBE情報申告(GIR)の法域間での取り扱い(パラ15、16)
最終親事業体又は指定申告事業体による単一の情報申告(a single point of filling)が検討されていること(パラ15)を支持する。他方で、後述の通り、GIRに包含される情報は、各法域に所在する構成事業体に渡る広範なものである。各構成事業体に係る情報は商業的に非常に機密性の高いものであることから、各法域への無秩序な拡散とGloBEルール実施以外の目的に利用されることは企業側として容認することができない。
このため、セグメンテーション(パラ14、18)に関連して、適格当局間協定がGloBEルールを導入する全ての法域間で締結することを必須とした上で、適切な機密保護に係る要件の下、GIRに包含される情報を分類化し、関係法域での執行に必要な情報のみを交換すべきである(範囲の限定)。言い換えれば、トップアップ課税が生じない法域への情報交換自体不要とすることを強調したい。例えば、Annex A1のsection 3の情報については、関係法域のみに限定した形で交換することが考えられる。
併せて、法域間で交換された情報自体、GloBEルールの実施以外の目的で使用されるべきではない(使途の限定)。なお、OECD/IFで合意される枠組みを超えて、単独法域の国内法等により、申告対象となる項目や、フォーマットを変更することは許容できない。
また、リスクアセスメント等のために更なる情報提供を求める可能性があるとされている(パラ16)。これは実務の混乱を招く可能性がある。まずは既存の国別報告書により、実効税率の確認を含むリスクアセスメントの実施を行うことを検討すべきである。
なお、最終親事業体又は指定申告事業体によるGloBE情報申告書の提出が行われる場合、各国税務当局からの問い合わせ先も最終親事業体等所在法域の税務当局経由で当該提出事業体に一元化すべきである(照会ルートの限定)。併せて、問い合わせを行う税務当局は、適格IIR及び適格UTPRの下でトップアップ課税権を持つ当局に限定されるべきである。
2. GloBE情報申告書に含めるべき情報(パラ5、Annex A1)
GIRについて提供すべき情報の標準化が図られていることを歓迎するが、数百から千の構成事業体を有するMNEグループも数多く存在する。例えば、構成事業体1つにつき7ページ程度の情報申告となれば、総数で7,000ページ前後の膨大な内容となるMNEグループもあると考えられ、情報申告書の提出先税務当局の電子申告の許容量を超過することも懸念される。
こうした状況の下で、各構成事業体の詳細情報(Annex A1 3.4)の記載を求めることは納税者の事務負担が過大となることに加えて、税務当局側の実務にも支障をきたしかねない。そこで、トップアップ課税の発生可能性に応じて、法域別に情報申告の単位及び情報の粒度を差別化すべきである。こうした観点から、トップアップ課税の発生しない法域に関してまで、GIR提出の段階で構成事業体単位の情報を包括的に要求することは実務上の負荷を過大とするものであり、容認が難しい。
そこで、恒久セーフハーバーの適用法域や、QDMTTが適用される法域、そして法定税率が明らかに15%を大きく超える法域については、基本的に、Annex A1 3.3を含めて詳細情報の申告を不要とするか、少なくとも法域単位での情報申告とすべきである。セーフハーバー、デミニマス除外に関する情報を2.2よりも前に記載し、これに該当する場合はそれ以降の情報を記入不要とすることも一案である。
トップアップ税額の発生する法域に関して、GloBEルールの下では、同一法域における内部取引を消去することが選択できる(モデルルール3.2.8条、コメンタリ第3章パラ133)。連結納税ベースで法域別実効税率計算を選択できる可能性がある以上、事務負担軽減の観点から、連結納税単位でのデータを情報申告・納税申告時のbasisとすることが適当であり、それ以上のものが要求されるべきではない。
また、構成事業体及びJVグループのメンバー(構成事業体等)に関する情報(Annex A1 2.2, 2.3)について、CbCR及びマスターファイルにおいてEntity Listを添付していることから、記載の省略を可能とすべきである。更に、(1)構成事業体等の情報に前事業年度から変更があった場合や、構成事業体等に該当しなくなった場合、(2)前事業年度に構成事業体等ではなく、当該事業年度に新たに該当することとなった場合の記載要領について明確化を図るべきである。なお、2.3については、後述の通り事務負担の増加につながる可能性もあることから、記載自体不要とすることも1つの選択肢である。
これらに加えて、軽課税構成事業体の持分を保有する親事業体が複数存在する場合、MNEグループの構成事業体分のみをフォームに記載することで良いかを確認したい(Annex A1 4.1.2)。
なお、MNEグループの企業構造(Annex A1 2.)については、図の提供は求められていないと理解している。
この他、Annex A1に関して、簡素化・明確化のオプションとして考えられる項目は、次の通りである。
- 2.2.1 Constituent Entities and members of JV Groupsについて、Entity毎ではなく、Entityの数とTIN番号のみの表示とする等、簡素化を行うべき。
- 2.3 Changes in the corporate structure that occurred during the Reporting Fiscal Yearについて、M&Aや、買収後統合(PMI)を実施している場合には、表形式での記載は表示工数が膨大となることを懸念する。このため、期首と期末時点の資本関係図の添付により表形式の記載に代替する、あるいは再編を別添の表にとまとめることを容認することも一案。
- 3.2.1 Safe harbour jurisdiction electionについて、第5欄を設けて、当該法域の簡易ETRの値を記入できるようにすべき。また、Routine profits testに関連して、3.3.1.3 (a)の値を参照可能とすべき。
- 3.2.2 Election for de minimis exclusionのb. c.の過去の各事業年度の数値を記入することは不要とすべき。少なくとも、GloBEルール適用初対象会計年度前のGloBE Revenue、GloBE Income (or Loss)は、記載対象とならないことを明確化すべき。
- 3.3.2.1 (b) Breakdown of the adjustmentsについて、表内の(b), (c), (g)は、実務上純額で集計していることが想定されるため、複数項目を集約した形で記載することを可能とすべき。
- 3.4.1 (a) Adjustments to the Financial Accounts Net Income or Loss、3.4.2 (a) Adjustments to the Current tax expense in the Financial Accounts、(c) Deferred tax expenseについて、加減算項目の記入が求められているが、事務負担の観点からは純額での記載とすることが適当。
3. セーフハーバーと情報申告の関係
経過措置としてのセーフハーバーが適用される場合において、Annex A1のSection 3における構成事業体等の情報を記入する必要はないことが示されている(Annex A2 Note 3.2.1)。ただし、Note 3.2.1における記入不要の説明が分かりづらいため、今後具体的な事例とともに補足的な説明を行うことを求める。これに加えて、上述の通り、セーフハーバー適用時には、Annex A1 2.2及び2.3の各構成事業体の情報記入の省略も許容されるべきである。
今後恒久措置としてのセーフハーバーが設計される際、GIRのフォーマットの変更を行うとともに、それに合わせた記載要領についても詳細かつ早期にガイダンスが提供されるべきである。事務負担の軽減の観点から、恒久措置としてのセーフハーバーについても調整項目を最小限に留めた上で、同セーフハーバー適用時に、GIRにおいて記入不要となる項目を明示するとともに、適用に係る判定プロセスに係る情報を最小化すべきである。また、追加トップアップ税額(Additional Current Top-up Tax)を零とするものではないとされているが(「SH及び罰則緩和」パラ82)、簡素化の観点からは、同税額の算定の免除を行うことが適当である。それが不可の場合でも、GIRにおける同税額の有無に係る記載要領を明確化すべきである。これらに加えて、ETRテストの簡易計算(「SH及び罰則緩和」パラ86)について、GloBE所得の計算上調整されるべき受取配当金(モデルルール3.2.1(b))が控除されることを確認したい。
なお、恒久措置としてのセーフハーバーは明瞭かつ客観的な適用要件が納税者及び当局双方に提供されるべきであり、要件が充足される場合には、全ての関連法域がその適用に対して異議を唱える余地を残すべきではない。
4. その他
QDMTTについては、財務会計基準及び税額のみがGIRの記載項目となっているが(Annex A1 3.3.1.5.)、この欄に記入する値は、当該法域でのQDMTT税額の確定値なのか見積値なのか明確なインストラクションが提供されるべきである。また、各法域におけるQDMTTの申告に必要な情報及び様式の標準化は、今後OECDから公表される予定なのかを確認したい。申告提出期限や、提出形式等、可能な限りGIRと一致させる方向で検討すべきである。
また、GIRの入力に際して、計算誤りの防止等の観点も踏まえ、多国籍企業グループの仮想数値例を設けて、計算事例を複数示すことが実務上の準備において有用である。とりわけ、セクションを跨いだ表間での数字連携については明記がないため、一致すべき箇所について明記をいただくことも重要である。
<例> 下記2点は一致するべき項目と考えられる。
<1> 3.3.1.2. Computation of Adjusted Covered Taxes
∟ 1. Aggregate Current tax expense with respect to Covered Taxes after allocations in Article 4.3 (All CEs in the jurisdiction)
∟ (P) Total Deferred Tax Adjustment Amount — Article 4.1.1(b)
<2> 3.3.2.1. Deferred Tax adjustments
∟ (a) High-level summary
∟ 6. Total Deferred Tax Adjustment Amount
また、実務対応の観点からは、エクセルや、ウェブサイトによる入力形式も準備いただきたい。併せて、情報申告時には、CbCRを参考に、XML形式での提出が念頭に置かれていると推察されるが、CSVファイル(エクセル様式を利用)での提出等、フォーマットについては納税者サイドの利便性等も勘案し、複数の選択肢を確保すべきである。