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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 SEC「気候関連開示規則案」に対するコメント

2022年5月31
経団連 金融・資本市場委員会
ESG情報開示国際戦略タスクフォース

US Securities and Exchange Commission(SEC)御中

経団連は、SECが公表した「気候関連開示規則案」に対するコメントの機会を歓迎する。

(総論)

経団連は、日本の代表的な企業1400社以上から構成される、日本最大の総合経済団体である。構成企業は、製造業、金融業、サービス業、流通業、建設業、運輸業など、あらゆる分野にわたり、その多くが国内外の市場において資金調達及び運用を行っている。米国市場に上場してSECに登録(SEC Registrant)する日本企業(以下、登録企業)は現在10社余りであるが、その多くは製造業・金融業を営む日本を代表する企業である。

気候変動への対応は日本においても喫緊の課題であり、国際的にコミットした2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、官民挙げて取り組みを進めている。気候変動問題を中心としたサステナビリティ情報の開示に対する投資家を含めた資本市場の要請は高まる一方である。こうした要請を踏まえ、IFRS財団は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設置し、本年3月末に気候関連開示基準案等を公表した。日本でも気候変動問題を中心にサステナビリティ情報を積極的に開示する企業が増えており、気候変動関連財務情報開示(TCFD)に対してわが国では843の企業・機関が賛同を示しており、これは世界一である(2022年5月17日時点)。また、コーポレートガバナンス・コードにより、わが国のプライム市場上場企業は、TCFDと同等の枠組みに基づく開示が求められている。さらに、金融庁は、有価証券報告書への気候変動を含めたサステナビリティ開示を制度化する方向で検討を行っている。わが国は、官民を挙げて、気候変動問題に関する開示に積極的に取り組んでいる。

こうしたなかで、世界的企業が多く上場し世界最大の資本市場を有する米国のSECが、「気候関連開示規則案」を公表したことは、時宜に適った取組みと考えている。SECが、この取組みで培った知見を活かして、ISSBにおける高品質でグローバルなベースラインとなる基準の策定にも、貢献することを期待したい。経団連としても、ISSBの基準開発に対して、積極的に意見発信を行って参りたい。

SECの「気候関連開示規則案」の内容に関して、TCFD提言をベースとした内容となっている点や、企業のビジネスモデルの開示にも着眼している点、産業別の開示を提案しておらず企業の負担にも配慮している点等については、評価できるものと考えている。一方で、「気候関連開示規則」に基づく開示の実効性を確保するためには、SECが、開示のプラクティスの定着を十分に踏まえて、開示要求事項を定めることが重要である。

この観点から、特に、要望したい点は、(各論)に記載の事項である。

(各論)

1.開示内容

(A)シナリオ分析についての開示【質問19・21・28・30・31・32等】

  • 規則案では、企業が分析を行っている場合には、シナリオ分析に係る具体的な開示を求めているが、その場合のシナリオは、各社の実態に応じた内容とすべきであり、規則で、特定のシナリオの使用を強制すべきではない
  • シナリオ分析は、多くの将来予測や不確定要素を含んだ分析を行うことから、企業としては、罰則を伴う法定開示書類での開示に懸念を持っている。よって、シナリオ分析の開示を求める場合には、セーフハーバールールの適用を認めるべきである。
  • また、シナリオ分析に関する開示は専門的・技術的な内容となることが想定されることから、他の開示書類の参照を認めるべき#1である。

(B)気候変動に伴う財務的な影響の注記【質問53・59・60・66・68・77・87等】

  • 規則案では、気候変動に伴う財務的な影響(気候リスクが、登録企業の財務諸表の表示科目・関連する支出・財務上の見積及び仮定の開示に与える影響)を会計年度毎に連結ベースで計算し、財務諸表の注記として開示することを求めている。
  • 以下の観点から、現時点で、登録企業に気候変動に伴う財務的な影響の注記を求めることは時期尚早であり、法定開示として求めるべきではない
    • 気候変動リスクは超長期的スパンで変動し、その直接的間接的影響を把握するのは困難である。影響を計算するとしても前提を僅かに変えるだけで、結果が大きく異なることが想定される。同一条件での他社比較は困難である。
    • 財務への影響は複数の要因によるものが多く、気候変動要因に絞って定量化することは困難なケースがほとんどである。
    • 会計の専門家である会計監査人が、自然災害がビジネスに及ぼす影響の妥当性を評価することは困難である。
    • 財務的影響を開示する際の閾値が、表示科目の1%と低く、連結全体における影響を集計するには多大な負荷が予想される。
    • 気候変動に伴う財務的な影響の開示の連結の範囲を財務諸表と同一とすることを提案しているが、データ制約等により、こうした対応を行うことは困難である。

(C)GHG排出量(Scope3)の開示【質問98・100・125・133・136等】

  • 規則案では、重要性がある場合や、登録企業がScope3の排出量に係る目標を設定している場合に、Scope3の開示を求めている。
  • しかし、全登録企業が、Scope3の開示を行うために必要なデータを計測・収集する仕組みを構築し、信頼性や網羅性を担保した情報開示を行うことを要請するためには、相当の時間と労力を要するものと考えている。また、バリューチェーン全体のGHG排出量の開示が求められるScope3では、ある企業(A社と言う)が様々な企業のバリューチェーンに属している場合に、A社の排出量が様々な企業のScope3のGHG排出量にカウントされることから、GHG排出の責任関係が曖昧になるといった指摘もあり、開示の意義(投資家にとっての有用性・活用方法)についても十分に整理することが必要である。
  • よって、全登録企業に対して、Scope3の開示を求めることは控え、当面は任意での開示を進め、Scope3の開示の実務が醸成されてきた段階で、開示のコスト・ベネフィットを分析の上、法定開示を求めるか判断すべきである
  • なお、法定開示を求める際にも、Scope3の開示については、セーフハーバールールを設けるべきである。また、「重要性がある場合(if material)」に開示を求める考え方は、維持すべきである

(D)GHG排出量(Scope1~3)の開示【質問94・105・107・114・116】

  • GHG排出量の開示を求める際には、開示のコストとベネフィットの観点、登録企業の実務の実行可能性確保の観点から、次の5点を要望する。
    • 規則案では、温室効果ガス毎の排出量の開示を求めているが、開示の重要性の観点から、全てのガスをCO2換算した排出量の総計を開示すべきである。【質問94】
    • 連結対象の排出量のデータについて、タイムリーにGHG排出量の情報を計測・収集する仕組みが整っていない企業も多い。国内外の多数の拠点からデータ収集を行うことにも鑑み、財務情報と同一の会計年度ではなく、前年度の情報を使うことも許容すべきである。【質問105】
    • いわゆる、Location Dataは、投資家の投資判断に有益な活用がなされる段階にはない。【質問107】
    • GHG排出量につき、規則施行前の過年度データを報告することは、登録企業に相応の困難となるため、開示を義務付けるべきではない。【質問114】
    • 規則案では、登録企業に対し、連結子会社には全てのGHG排出量を、持分法適用会社には持分割合に応じたGHG排出量を含めることを求めているが、特に、全ての持分法適用会社等に対してタイムリーにGHG排出量のデータの提出を求めることは容易ではないことから、重要性の判断により、排出量算定対象から一部を除外することも許容すべきである。【質問116】

(E)指標及び目標の開示【質問168・169・174等】

  • 比較可能性を担保しつつ、登録企業の負担を軽減するために、指標及び目標について、開示を義務付ける項目は最小限とすべきである。開示目的を特定したうえで、最小限の指標及び目標の開示を求め、それ以外の項目については、企業が自ら選択できるようにすべきである。
  • また、開示対象となる指標及び目標に関して、開示を義務付ける内容も限定すべきである。「目標達成に向けた方策」の開示については、詳細な規定を設けずに、登録企業による自由度を持った開示を認めるべきである。
  • 「目標」の開示は、将来予測的な要素を含む場合があるため、セーフハーバールールを適用すべきである。

2.保証【質問135・136・144等】

  • 規則案では、Scope1・2の開示について保証(attestation)を求めている(段階的に限定的保証・合理的保証を求めている)が、登録企業への負担が大きく、さらに、現時点では、Scope1・2の保証についての実務が十分に醸成されているとは言えないため、現時点では、保証を求めるのは時期尚早である。投資家への有益な情報提供の観点からは、まずはGHG排出量の測定・開示の実務が確立されることが優先課題であり、それにより、投資家の需要は相当程度満たされるものと考える。
  • なお、Scope3の開示の保証についても、同様の理由から、保証を求めるべきではない。
  • データの正確性を担保する方法は、保証に限らず幅広く検討されるべきである。

3.適用時期【質問198・199等】

  • 適用時期について、規則案では、大規模早期提出会社(Large Accelerated Filer)には、2023会計年度からの開示を求めているが、開示を行う登録企業としては、このスケジュールは現実的ではない。膨大な法定開示を行う準備期間を想定すると、規則の成案化から1年以上の準備期間は必須であり、適用時期について再考を求めたい。
  • なお、上記の通り、我々は、Scope3の法定開示、Scope1・2の保証については、時期尚早と考えているが、仮に今回の規則で求める場合に、他の開示項目に比べて適用時期を遅く設定することには、賛成する。
以上

  1. 登録企業の負担を減らす観点から、シナリオ分析の開示に限らず、他の開示項目についても、任意開示書類や年次報告書の他の箇所からの参照を、幅広く認めるべきである。また、任意開示書類等からの参照を行う際に、追加的な手続きを要することの無いよう配慮してほしい。

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