一般社団法人 日本経済団体連合会
経団連が提唱している「サステイナブルな資本主義」の実現のため、企業は、グローバルなサステナビリティ課題の解決に向け、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)といった社会変容を果敢にリードしていく必要がある。社会変容の実現には、官民あげた中長期の巨額の投資が欠かせないが、とりわけ、市場を通じて民間資金を持続可能な社会の実現に結び付ける「サステナブルファイナンス」を推進することが喫緊の課題となっている。そして、健全な市場機能の発揮や投資家との建設的な対話の実現には、企業によるサステナビリティ情報開示を充実させることが不可欠の要素である。
すでに、欧米各国を中心にサステナビリティ情報開示の充実に向けた取組みが急速に進んでおり、日本企業及び日本の金融・資本市場の競争力維持、強化に向けて、国際的な意見発信や国内基準の開発に係る日本国内の体制を、早急に整備する必要がある。
1.国際的な意見発信の必要性
国際会計基準(IFRS)の設定主体である国際会計基準審議会(IASB)の運営母体であるIFRS財団は、11月のCOP26に合わせて「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」を設置し、来年6月に国際的に統一された気候変動に関する開示基準を公表すべく、急ピッチで作業を進めている。各国ごとに異なる産業構造やエネルギー政策等を適切に踏まえた基準開発を促すためには、ISSBに対して、わが国からも、基準開発への積極的な貢献と強力な意見発信を行う必要がある。
その推進母体として、わが国の市場関係者の意見を聴取して、オールジャパンとしての意見集約、発信を担う体制整備が急務である。
2.高品質な国内基準の整備
わが国企業は、TCFD提言をはじめとする気候変動関連開示の自主的な充実に努めてきたが、こうした取組みに加え#1、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の法的開示の取扱いについて、金融庁で検討が開始されている。6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで示された通り、上場企業等が一定のサステナビリティ情報の開示を行うことは、内外の資金を日本の金融・資本市場に集めるための市場の要請でもある。その開示内容は、国内外の投資家のニーズ、急速に変化する国際動向、企業の実務負担等を的確に反映する必要がある。
そのために、民間の専門家の叡智を結集し、国際的な整合性がとれた、高品質な国内のサステナビリティ基準を機動的に開発する体制を整備すべきである。
3.サステナビリティ基準委員会(仮称)の設立
以上を踏まえ、国際的な意見発信、国内のサステナビリティ基準の策定の両方を担う民間組織を速やかに立ち上げるべきである。
その母体に関し、現在、会計基準の国際的な意見発信及び国内会計基準の策定を担う民間組織である企業会計基準委員会(ASBJ)の母体である公益財団法人財務会計基準機構(FASF)は、IFRS財団のカウンターパートとして強固な信頼関係を築いている。また、ASBJは企業や投資家等の市場関係者の意見を的確に捉えてバランスの取れた国内会計基準の開発に長年の実績があり、サステナビリティ基準についても、ASBJの母体として活動してきたFASFがその任務を担うのに相応しい。
よって、FASFのもとに、「サステナビリティ基準委員会(仮称)」を新たに立ち上げ、わが国の意見の積極的な国際発信、透明性のある国内のサステナビリティ基準開発を行うことが適当である。
なお、「サステナビリティ基準委員会(仮称)」の組織運営は、企業会計基準委員会(ASBJ)に準じた、公正・透明なものとすべきである。そのためには、「サステナビリティ基準委員会(仮称)」の委員等の人材は、企業・投資家等関係各界からバランスよく集め、特定の利害関係者からの独立性を確保することが必要である。また、充実した委員会運営を行うためには、相応の資金が必要になると考えられる。運営資金の調達についても、独立性及び安定性を確保する観点から、幅広く関係各界に協力を求めるべきである。
財務会計基準機構の設立時と同様、経団連として、民間の専門組織の設立運営に、積極的な支援を行っていく。
- TCFDに賛同する日本企業・機関の数は542で世界一である(10月27日現在)。