一般社団法人 日本経済団体連合会
コロナ禍でわが国の教育分野のデジタル化の遅れが顕在化し、デジタル化にいち早く取り組んだ学校とそうでない学校との格差が拡大した。他方、この事態を改善するためにGIGAスクール構想の実施が前倒しされ、本年3月末までに小中学生一人一台教育用端末の整備がほぼ完了した#1ことは、大きな前進となった。
しかしながら、これらの端末の本格的な活用に向けて、既に様々な課題が明らかになりつつある。
GIGAスクール構想の効果を最大限発揮し、Society 5.0時代に求められる自律的な学びを全ての児童・生徒に保障する観点から、数ある課題のなかでも教育現場にとって特に緊急性の高い施策に絞って以下を提言する。
1.高校生の一人一台教育用端末の整備
上述のように小中学校については一人一台教育用端末の整備がほぼ完了している一方、高校における端末整備状況は自治体・学校ごとに様々である。整備にあたって数年単位の計画を立てている自治体が多いが、今後新型コロナウイルス感染症の第6波が来ることも予想されるなか、対策は一刻の猶予も許されない。
このような状況も踏まえ、EdTechを活用した学びが小中学校の水準から後退することなく、Society 5.0で活躍する人材に必要なデータ分析、AI活用スキル等を高校在学中に習得できるように、高校においても小中学校と同水準の一人一台PCないしタブレット端末の整備、およびMDM#2などを含む端末のセキュリティ対策を、令和4年度の前半までに完了すべきである。
実現の手段として、BYOD(Bring Your Own Device)、地方創生臨時交付金の活用、GIGAスクール補助金の高校への拡充等が考えられる。その手段は問わないが、PC・タブレットなしに私用のスマートフォンのみを端末として利用することは認められない。スマートフォンは情報の検索には十分だが、資料作成やプログラミング演習には画面のサイズ、性能ともに不十分であることが多く、PCないしタブレット端末を整備する自治体との間で学習環境の格差が生じている#3。必要なスキルを学習するための十分な環境をすべての生徒に保障するため、PCないしタブレット端末の導入を必須要件として端末整備を進めるべきである。
2.教師用端末の整備
児童生徒一人一台端末をはじめとした学校におけるICT環境の整備が進む中、教師用端末については、整備が不十分であったり、古いものしかないといった声があがっている。また、新型コロナウイルス対策により新たな需要も生じており、オンライン学習を本格化させている学校現場では、授業配信のために複数台の教師用端末やその他のICT機器の整備が必要となっている。こういった現状を踏まえ、教師用端末の整備拡充を進めるべきである。
3.インターネット接続環境の整備
学校のインターネット接続環境については、既に国費による校内LAN整備への支援措置が講じられているが、学校外との接続も含め、依然として課題が散見される。まずは各学校のインターネット環境の状況と課題の所在を把握する必要がある。しかし、現状では半数以上の自治体がネットワーク環境のアセスメントを実施予定なしと回答している#4。
適切なインターネット環境を整備するため、国の財政措置により小学校から高校まで全ての学校でネットワーク環境のアセスメントを早急に実施し、その結果をもとに環境整備に向けた対応を検討すべきである。
4.ソフトウェア・コンテンツの充実
ハード面の環境整備は進んできているが、資金不足により、良質な教育アプリやコンテンツを使うことができず、十分な教育効果を上げられていない現状がある。まずは生徒と教師が質の良いアプリやコンテンツの操作性や効果を実感することが重要であり、また、その面的普及のために、全国の都道府県・市町村における活用実績・効果を得るための試験的導入予算#5を拡充すべきである。
- 全自治体等のうち1,742自治体等(96.1%)が整備済み。全国の公立の小学校等の96.1%、中学校等の96.5%が、「全学年」または「一部の学年」で端末の利活用を開始。(文部科学省「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」)
- モバイル端末管理(Mobile Device Management)。複数のモバイル端末を、管理者が統一したポリシー下で一元的に管理・設定する手法。
- 11自治体が高校一人一台端末100%整備済み、8自治体が2021年度中に整備完了予定、28自治体はそれ以降か検討中。(文部科学省「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」)
- 今後、事前評価を実施する予定がない自治体等は54%。(文部科学省「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」)
- 例えば経済産業省のEdTech導入補助金など。