一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会
今般提示された地球温暖化対策計画(案)では、わが国の掲げる2050年カーボンニュートラルの実現を見据え、2030年度46%削減という、従来目標(同26%削減)を大幅に上積みする極めて野心的な目標が掲げられた。
2030年度46%削減の達成は決して容易ではなく、官民の総力を挙げ、あらゆる施策や取組を総動員していく必要がある。その出発点となるものが、この地球温暖化対策計画である。
こうした観点から、下記の点について意見を述べる。
はじめに(p.1~2)
[意見]
気候変動対策を、産業構造や社会経済の変革、「経済と環境の好循環」の実現につなげていくという考え方や、産業政策の観点から、国として具体的な見通しを示し、民間企業が挑戦しやすい環境を作るという基本的方向性について、賛同する。
[理由]
地理的制約が大きく、エネルギー資源に恵まれているとは言い難いわが国が、2050年カーボンニュートラル、2030年度46%削減を目指しながら、豊かな国民生活を次世代に残していく上で、時間的な余裕はなく、今がまさに正念場にある。
政府は、産業の空洞化への懸念を払拭し、エネルギーコストの上昇をいかに抑え、産業競争力の強化につなげていくのか、持続的な成長に向けた明確な道筋を示していく必要がある。
第1章 地球温暖化対策の推進に関する基本的方向
第1節 我が国の地球温暖化対策の目指す方向
1.2050年カーボンニュートラル実現に向けた中長期の戦略的取組(p.11~12)
[意見]
改正地球温暖化対策推進法において、2050年カーボンニュートラルの目標は、「基本理念」として法定化されたことを明記すべき(p.11 24行目)。
[理由]
法律上の位置づけを明確にし、読者に誤解のないよう配慮すべき。
第3章 目標達成のための対策・施策
第1節 国、地方公共団体、事業者及び国民の基本的役割
1.「国」の基本的役割
(1)多様な政策手段を動員した地球温暖化対策の総合的推進(p.23)
[意見]
気候変動対策の観点のみならず、長期的な展望と戦略に基づき、国富の源泉たる産業競争力維持や雇用基盤の確保という観点も踏まえ、財政支援を含め、政府が政策リソースを総動員し、積極的にコミットする旨を明示すべき。
[理由]
欧米は、気候変動政策を国家戦略の重要な柱に位置づけ、かつてない規模で財政支援等の対策を講じてきている。とりわけ欧州については、国民生活の基盤となる産業の国際競争力と雇用の維持のため、脱炭素化に取り組む産業に対して、研究開発から社会実装段階までの各フェーズに応じ、EUおよび各国政府による周到な支援策を講じていることを直視する必要がある。政府は、欧米に劣ることなく、かつ短期あるいは単発的な効果の発現に留まらぬよう、長期的な展望と戦略に基づき、掲げた目標の野心度にふさわしい規模の政策リソースを確保し、効果的・効率的・戦略的に投入する必要がある。
(3)国民各界各層への地球温暖化防止行動の働きかけ(p.24)
[意見]
政府として、企業の脱炭素経営(p.33)が消費者から評価される環境整備や、脱炭素に貢献する製品への購買意欲を高める施策(広報等)に取り組む旨も記載すべき。
[理由]
政府としても消費者の行動変容を促すことで、企業の脱炭素化への取組が促進されるため。
第2節 地球温暖化対策・施策
1.温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策
(1)温室効果ガスの排出削減対策・施策
① エネルギー起源二酸化炭素
A.産業部門(製造事業者等)の取組(p.29~36)
B.業務その他部門の取組(p.37~42)
D.運輸部門の取組(p.46~53)
E.エネルギー転換部門の取組(p.53~58)
[意見]
産業・業務・運輸・エネルギー転換の各部門の取組として、「経団連 低炭素社会実行計画」(今年度より、「経団連 カーボンニュートラル行動計画」に改定)を対策の柱に位置付けている点を、高く評価する。
p.31 14~17行目の文章は、内容が明確でないため削除すべきである。あるいは、「政府の2030年度目標との整合性」については、BATの最大限導入による削減努力を着実に進めることで満たされる旨、また、「2050年のあるべき姿を見据えた2030年度目標設定」については、BATの最大限導入に基づき目標を設定することである旨を明記すべきである。
[理由]
低炭素社会実行計画(カーボンニュートラル行動計画)は、参加業種が自らの生産活動や技術見通しを踏まえた目標を設定し、BATの最大限の導入を行い、第三者の評価・検証を受けるPDCAサイクルを回すことで、これまで着実な成果を挙げてきた。経済界としては、引き続き、カーボンニュートラル行動計画を通じて、中期目標への貢献を果たしていく所存である。
他方、「政府の2030年度目標との整合性」とあるが、政府の2030年度目標は具体策の積み上げによって設定されたものではない。参加業種が自らの生産活動や技術見通しを踏まえて設定するカーボンニュートラル行動計画の目標と、積み上げではない政府の2030年度目標は、性格を異にするものである。「政府の2030年度目標との整合性」とは、経済界としてコミットできる、BATの最大限導入による削減努力を着実に進めることであることを確認したい。
「整合性」が求められる結果、仮に、カーボンニュートラル行動計画の目標の引き上げのために、BATの最大限の導入以上の取組が必要とされる場合は、経済活動量を制限せざるを得ず、「経済と環境の好循環」に反することになる。
また、「2050年のあるべき姿を見据えた 2030年度目標設定」とあるが、2050年カーボンニュートラルは、今後、革新的技術の開発を複線的に進めることによる、非連続な排出削減パスによって達成されるものである。いずれにせよ、「2030年度目標」は、BATの最大限導入に基づき設定するものであることを確認したい。
「共通指標としての2013年度比の二酸化炭素排出削減率の統一的な見せ方」については、各業種で置かれた状況は異なるところ、横並びでどちらが高い・低いとの判断に繋がらないよう留意すべきである。
② 非エネルギー起源二酸化炭素
〇 バイオプラスチック類の普及(p.59)
[意見]
生分解性プラスチックによる処理負荷低減を通じたGHG削減への貢献を追記し、バイオプラスチック普及策の一つとすべき。
[理由]
バイオプラスチック導入ロードマップでは、生分解プラスチックの導入についても記載があるため。
2.分野横断的な施策
(2)その他の関連する分野横断的な施策
〇 水素社会の実現(p.73~74)
[意見]
p.74 9~10行目「水素需要量の拡大を実現するためには、」と「水素の利活用が見込まれる各部門における取組を加速化する必要がある。」の間に「競争力ある潤沢な水素の確保と供給インフラの整備に国が責任を果たすとともに、」と一文挿入すべき。
その上で、水電解に限らず、次世代水素製造技術の開発も促す方向性も盛り込むべき。
[理由]
水素需要量の拡大に向けては、各部門のみならず、国の役割も明確にすべきである。
水素製造技術については、2050年も見据えて、人工光合成など次世代型技術の開発についても検討すべきであり、現時点で開発の方向性を限定することは避けるべき。
3.基盤的施策
(2)地球温暖化対策技術開発と社会実装(p.81~82)
[意見]
p.82 12行目「~想定している。」の後に「こうした支援策については、その効果、諸外国の支援策との比較などを踏まえ、不断に見直し、支援策の拡充が必要と判断される場合には躊躇なく実行する。」と一文挿入すべき。
[理由]
革新的技術開発から社会実装までを視野に入れた、より大規模な財政支援を行っていく姿勢を示すべき。
第6節 脱炭素型ライフスタイルへの転換
(国民一人一人の理解と行動変容の促進、p.96~97)
[意見]
「2030年度の目標の達成や脱炭素社会の実現のためには、国民一人一人が地球温暖化対策に取り組んでいく必要がある」、「国民の地球温暖化対策に対する理解と協力への機運の醸成」を図る、との趣旨に賛同する。
その際、2050年カーボンニュートラルや2030年度46%削減を目指す中で生じるコスト負担といった不都合な事実も含め、国民的な理解・合意を得た上で、行動変容につなげていく努力を尽くす旨、記述すべきである。
[理由]
2030年度まで残り9年を切る中、46%という極めて野心的な排出削減を進める中では、電力料金をはじめとするコスト上昇は不可避である。
こうした社会的コストの上昇を、国民全体でどう負担していくか、国民的議論ならびに合意を得た上で、行動変容につなげることが必要である。そのためにも、政府が責任を持って、コスト見通し等について国民への説明を尽くすべきである。
なお、その際には、あわせて、カーボンニュートラルの結果としての国民生活へのメリットについても説明することが求められる。
第8節 海外における温室効果ガスの排出削減等の推進と国際的連携の確保、国際協力の推進(p.108~114)
[意見]
わが国として、各国に対し、野心の向上や脱炭素に向けた取組の強化を積極的に働きかけていく旨も記述すべき。
[理由]
温室効果ガス削減は、途上国・新興国を含むすべての国が取り組まなければならない課題である。わが国としては、気候変動外交においてリーダーシップを発揮し、欧州・米国等とも連携しながら、各国の野心の向上や脱炭素に向けた取組の強化を積極的に働きかけていくべきである。
第4章 地球温暖化への持続的な対応を推進するために
第1節 地球温暖化対策計画の進捗管理(p.115)
[意見]
冒頭について、「積極的な気候変動対策の取組を、産業構造や社会経済の変革を通じた、次なる大きな成長につなげていく」とすべき。
[理由]
気候変動対策に取り組みさえすれば成長につながる訳ではなく、むしろ、能動的に成長につなげていく必要がある。