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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)の方向性」への意見

2020年1月20日
一般社団法人 日本経済団体連合会
デジタルエコノミー推進委員会企画部会
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1.現状と課題

(意見)

デジタル市場のルール整備を行ううえで、デジタル・プラットフォーム(DPF)事業者とその利用事業者との取引の透明性・公正性を確保することは重要である。しかしながら、具体的なルールを整備する際には、DPFがわが国のデジタルエコノミーの推進に向けて欠かすことのできない存在であり、過度な規制強化は、わが国デジタル分野全体のイノベーションの停滞につながりかねないことを銘記すべきである。

DPF事業者の事業分野が拡大し、そのビジネスモデルの劇的な変化により、将来のデジタル市場の成長を牽引することが期待されるなか、幅広いDPF事業者およびその行為が規制の対象とされることで、将来の日本発のDPF事業者出現の芽が摘まれてしまうことのないよう、慎重なルール整備を期待する。

2.方向性

(1)規律の対象

●「デジタル・プラットフォーム」については、下記のような特徴を踏まえ、定義。

  1. ① ネットワーク効果があること
  2. ② 多面市場であること
  3. ③ インターネットを通じてサービス提供を行っていること
(意見)
  • 規律対象が真に必要な範囲に限定されるよう、「デジタル・プラットフォーム」の定義を明確にすべきである。
(理由)
  • ①~③の特徴は、インターネット上で提供される多くの事業に該当する可能性が高く、曖昧な定義は事業者の予見可能性を低下させ、イノベーション創出を阻害する懸念がある。

●その上で特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いものを「特定デジタル・プラットフォーム(特定DPF)」として特定し、主要な規律の対象とする。分野・対象のメルクマールとしては、下記のような要素を考慮。

  1. ① 当該分野における、取引先保護の必要性(利用者のロックインの状況等)
  2. ② 当該分野の国民生活及び国民経済への影響の大きさ
  3. ③ 当該分野内において一定の規模があると認められること
(意見)
  • 特定DPF事業者の分野・対象について、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性及び透明性を促進するEU規則」(P2B規則)も参考にして、明確に定めるべきである。
(理由)
  • ①~③の要素は具体性に欠けており、特定DPFの範囲が際限なく広がることが懸念される。
(意見)
  • 「主要な規律の対象とする」の趣旨を明確にすべきである。
(理由)
  • 特定DPF事業者以外の事業者にもデジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)(以下、「本法」)の規律が及ぶとした場合、どのような事業者に対し、どのような規律が適用されるのかが明らかにされなければ、予見可能性が著しく損なわれる。
(意見)
  • 本法の規律の対象が、DPF事業者と利用事業者との取引(BtoB取引)に限定されることを明確化すべきである。
(理由)
  • 本法がDPF事業者と利用事業者との取引環境の改善を目的として検討されているため。

●具体的には、各種調査で取引実態が明らかとなっている大規模なオンラインモール・アプリストアを当面の対象とする。

(意見)
  • 大規模なオンラインオンラインモールとアプリストアを当面の対象とする理由を明確にすべきである。
(理由)
  • 公正取引委員会が2019年10月に公表した「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)」においては、オンラインモールとアプリストアの取引実態について、利用事業者と運用事業者双方のコメントが掲載されているものの、いずれのコメントが実態に合致するかについて事実認定が行われておらず、取引環境にどのような問題があるかの分析が不十分である。

●対象分野追加の検討や施策の見直し等を行うため、「デジタル・プラットフォーム」一般については行政庁が調査。

(意見)
  • 行政庁が調査を行う対象についての基準を予め明確に示すべきである。
(理由)
  • 今後、様々な分野において新たなサービスの台頭が想定されるなか、あらゆる分野について行政庁が適時に調査を行うことは現実的ではない。
  • 調査を行う基準(プライオリティ)を明確にすることで、事業者の事業遂行上の一定の予見可能性を確保するとともに、規律の対象が安易に拡大されないようにする必要がある。

(2)透明性・公正性向上のための情報開示と手続・体制整備

a)取引条件等の情報の開示

●利用者に対する契約条件の開示や変更等の事前通知の義務付け。

【開示項目の例】
契約変更の事前通知
出品の拒否・停止の理由
データの利用範囲
検索順位を決する重要な要素

●行政措置:開示がなされない場合、勧告・公表。是正されない場合に措置命令。

(意見)
  • 特定DPF事業者に取引条件等の情報の開示を義務付けるのであれば、「開示項目」やその程度を規定する際には、関係者との間で丁寧な対話を行うべきである。
(意見)
  • 行政措置については慎重に要件を定める必要があり、「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法の規定に反し、正当な理由なく開示等がなされない場合」などに限定すべきである。併せて、勧告・公表を行う前に、該当するDPF事業者が「正当な理由」について意見を表明する機会を保障すべきである。
(理由)
  • 取引条件等については、必ずしも開示等することが望ましくない場合がある#1。また、勧告・公表の対象となることは、特定DPF事業者の事業活動に大きな影響を及ぼし得る。

1. 消費者の安全を脅かす詐欺的な行為を行う利用事業者に対して、詳細な理由を告げずに出品の拒否・停止を行う場合等。

b)運営における公正性確保
(取引上の不当行為)

●上記に加え、法律上、一定の取引上の不当行為をしてはならないとの規定を定めるべきか、革新的な取組を阻害する恐れがあるとの指摘を踏まえ、真に必要性が高い類型を見極め、検討

【不当行為の例】
競合商品を拒絶
自社サービスなどの利用強制
自社の商品を有利に表示
事業の運営に重大な支障が生じる一方的な不利益変更
(意見)
  • 「一定の取引上の不当行為をしてはならないとの規定」を本法に定めるべきではない。
(理由)
  • 「不当行為の例」として掲げられている事例は独占禁止法で既に規制し得ると考えられる。
(意見)
  • 仮に本法に「一定の取引上の不当行為をしてはならないとの規定」を盛り込む場合であっても、下請代金支払遅延等防止法第8条の規定と同様に、本法により規制する行為については独占禁止法の適用・執行を行わないことを明確化するなど、独占禁止法との関係を整理することが最低限必要である。他の関係諸法令の規定、およびその適用・執行についても重複規制を避けるべく同様の整理が必要である。
(理由)
  • 本法で規律される「不当行為」について、独占禁止法等が本法と異なる基準で規制を課すことになると、事業者の事業遂行上の予見可能性を害し、イノベーションを阻害する懸念が強い。
c)特定デジタル・プラットフォーム事業者による運営状況のレポートとモニタリング・レビュー

●特定DPF事業者は、a)b)の運営事業についての自己評価を付したレポートを行政庁に対し定期的に提出。

【レポートの内容】
  1. ① 事業概要
  2. ② 情報開示の状況
  3. ③ 運営における手続・体制の整備の状況
  4. ④ 紛争等の処理状況 等

●レポートを受理した行政庁は、当該デジタル・プラットフォームの運営状況のレビューを行い、評価を公表。その際、行政庁は、利用事業者の意見も聴取し、関係者間での課題の共有や相互理解を図る。

(意見)
  • 特定DPF事業者による運営状況のレポートとモニタリング・レビューの仕組みは不要である。
(理由)
  • 本法では、取引条件等の情報開示と手続・体制整備を義務付けるとともに、必要な行政措置を講ずる方向で検討されており、その前提として行政庁が特定DPF事業者から調査・報告徴収を行えば、特定DPF事業者と利用事業者との取引の透明性・公正性を確保するために必要な措置としては十分である。
(意見)
  • 仮に特定DPF事業者による運営状況のレポートとモニタリング・レビューの仕組みを設けるとしても、モニタリング・レビューにおける「関係者間での課題の共有」にあたっては、特定DPF事業者、利用事業者、様々な立場の有識者等を含めたバランスのよい人選が必要である。

(4)その他の規律

c)国内外の法適用

●本法の規律は、内外の別を問わず適用。このため、現状海外事業者にも適用が行われている独占禁止法の例等も参考に、国内代理人の設置、公示送達等の手続の整理も含め手段を検討。

(意見)
  • 本法の規律を国外のプラットフォーム事業者にも執行するための手段を検討することに賛同する。
(理由)
  • 公正かつ自由な競争を促進するため。
以上

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