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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画の着実な実現に向けて

2019年4月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1. はじめに

わが国は依然として、極めて厳しい安全保障環境に直面している。加えて、急速な技術革新により、従来の陸、海、空に加えて、宇宙、サイバー、電磁波といった領域が、国民の安全確保に非常に大きな意味合いを持つようになった。一方、国内的には、急速な少子高齢化、厳しい財政事情といった社会的制約が、わが国の安全保障のあり方に直接的な影響を与えている。

このような中、政府は昨年12月、新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画を決定し、わが国自身の防衛体制の強化、日米同盟の強化、諸外国等との安全保障協力の強化を打ち出した。加えて、これらを支える産業基盤をより高度化・効率化し、強靭化するとの考えを表明した。

新大綱では、「これまでに直面したことのない安全保障環境の現実」の中、「これまで以上に多様な取組を積極的かつ戦略的に推進」するとしている。これを効果的・効率的に実施するためには、高度で独自の産業基盤が不可欠である。安全保障における技術の重要性がますます高まる中、外交・安全保障政策の中核として装備・技術政策を立案・実施し、時代に相応しい産業基盤の強化を図っていかねばならない。

そこで、経団連では、産業基盤の強化を通じ、新たな大綱・中期防の実現に貢献する観点から、下記の通り、意見を取りまとめた。

2. 防衛体制の強化に向けて

新大綱では、陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波の全ての領域において、常に柔軟かつ戦略的に活動できる真に実効的な防衛力(多次元統合防衛力)を構築するとの方針が示され、これに向け、従来と抜本的に異なる速度で変革を図る必要があるとした。加えて、厳しい財政状況の下、徹底した合理化を実施しつつ、防衛力を強化するとした。一方で、大規模災害への対応ならびに国際平和協力活動等の主体的な推進の観点から、自衛隊の役割の重要性が改めて指摘された。

これらの要請に応えるためには、技術・コスト両面における競争力を強化する様々な取り組みを推進する必要がある。とりわけ防衛サプライチェーンに不可欠な技術的役割を果す中小企業に対しては、近年、厳しい経営判断を迫られ得る状況となっていることに照らし、適切な支援策が求められる。

(1) 研究開発

多次元統合防衛力の構築には、幅広い分野における高度で先端的な技術力が必要となる。また、サイバーセキュリティや通信技術など、その中心的な技術は、国民生活の向上や経済成長の実現に大きな役割を果たしており、省庁、企業、内外の関係機関などにおいて、既に様々な取り組みが行われている。

このため、新領域を含む重要技術の開発には、海外の研究機関等との協力を含めて、防衛省と関係府省等の取り組みを有機的に連携させ、政府全体として研究開発の効率性・戦略性を高めるべきである。加えて、ベンチャー等を含む幅広い企業、研究者の積極的参加を得るよう努力する必要がある。

また、新大綱の指摘通り、研究開発の推進に当たっては、予見可能性の向上により、先行投資を含む企業の自発的取り組みを促進することが重要である。そのためには、研究開発ビジョンの策定や中長期技術見積りの見直しの機会等に、先進技術開発の方向性について官民の共通理解を深める場として、運用側を含めた重層的な官民対話の実施が求められる。一方で、民間活力の最大限発揮の観点から、企画提案方式や随意契約を活用し、研究・試作から量産に至る事業活動の継続性に配慮すべきである。

(2) 効率化

新中期防では、防衛力整備の水準に係る金額を概ね27兆4700億円程度とする一方、各年度の予算編成に伴う防衛費を概ね25兆5000億円程度とし、約2兆円の効率化の要請がなされた。これは、前中期防の効率化要請(約7000億円)の3倍弱の水準となっている。

現時点でも、複数年度に亘って装備品が調達される場合には、学習曲線の進行を前提に装備品の調達価格を低減させる仕組みがとられている。産業界としては、これに留まらず、これまで以上に積極的に効率化を推進していく。

政府側には、事業活動の実態を踏まえた適切な効率化策を期待する。例えば、長期契約は、一般的には、調達の効率化に資するとされるが、毎年の調達量にばらつきが大きければ、その効果は限定的なものとならざるを得ない。

同時に、企業として如何ともしがたいコストアップについては、発注側が合理的な負担を実施することとすべきである(設計変更、研究開発の技術審査における仕様等の追加、消費税の引上げ、素材や輸入品の大幅な値上がり、下請企業と調達実施部局が合意した経費率の上昇、為替レートの急激な変動、公的規定に基づく生産再開後再検査コスト等)。

(3) サプライチェーン

新大綱では、装備体系を見直し、重要度の低下した装備品の運用停止、費用対効果の低いプロジェクトの見直しや中止等を行うとした。防衛生産に数多くの中小企業が参画していることに照らし、かかる決定の実施に当たっては、時間的な猶予や関連負担の支援など、適切な配慮が必要である。

海外からの装備品調達の拡大等により、国内調達が減少傾向にある中、防衛生産に重要な役割を果す中小企業の事業継続、もしくは適切な継承を確保することは、今や喫緊の課題である。このため、主要装備品、ならびに重要コンポーネントについて、そのサプライチェーンの状況を把握するとともに、米国等における取り組みを参考にしつつ、中小企業等に対する支援措置等を実施すべきである。この際、様々なリソースを活用し、官民が円滑・効率的に協力する必要がある。

(4) 企業間連携

欧米に比し、わが国防衛産業は個社の総売上に占める防需比率や防衛ビジネスの利益率に関する構造的差異を抱えている。この中で、各企業は自らの強みを最大限活かし、国の安全保障に貢献するとともに、株主に対して明確な説明責任を果すよう、常に経営判断を進める必要がある。企業の再編・統合は、こうした総合的な判断のうえに、決断される。新中期防で期待されているわが国産業基盤の効率化・強靭化については、幅広くその方策を検討していく。

(5) 将来戦闘機

将来戦闘機については、わが国固有の運用に必要な能力・機能が要求されるとともに、次世代技術にもわが国として最適な対応ができる拡張性、ならびに高度化・改修の自由度を確保できる基本的仕様にしなければならない。新中期防において示された「国際協力を視野に、我が国主導の開発に早期に着手」を実現するため、まず最初に、こうしたわが国固有の運用要求ならびに機体の基本的仕様を明らかにする必要があり、その上で、わが国にとって最善となる国際協力のあり方を明確化し、関係国に具体的に説明することが肝要である。

産業界としても、持てる技術力と経験を結集し、将来戦闘機の開発・生産に最適な貢献を行えるよう、権限と責任を明確化・一元化した企業間連携を深めていく。

3. 日米同盟の強化、安全保障協力の推進に向けて

新大綱では、わが国が主体的・自主的に防衛力を強化することこそ、日米同盟の一層の強化に不可欠な前提とされた。これは、日米装備・技術協力についても同様である。この強化は既に防衛協力ガイドラインなどで度々強調されているが、わが国独自の取り組みにより技術力を高め、その成果を積極的に活用してこそ、同盟国であり技術大国である「日米ならでは」の先進的な協力が実現するのである。その成果は、宇宙やサイバー空間における安全、災害時の人命救助などを含め、国際的に幅広く活用され得る。今こそ、Win-Winな真の日米パートナーシップを発展させるべきである。

また、新大綱では、「自由で開かれたインド太平洋ビジョン」の下、多角的・多層的な安全保障協力の戦略的推進が明記された。東南アジア諸国に対して実施している能力構築支援などについては、これらを発展させるべく、産業界としても、積極的に貢献していかねばならない。

(1) 外交政策としての国際装備・技術協力

国際装備・技術協力は、あくまでわが国の安全保障に資するものであり、外交政策の具現化である。このため、政府主体の装備移転を含め、外交政策上、実施すべき協力のあり方・内容、具体的基準等につき、官民が認識を共有し継続的に確認することが不可欠である。また、能力構築支援の実施などに向けては、当該国における移転した装備品の維持・運用者教育支援の必要性などについて、政府が受入国の状況等を調査したうえで、官民が連携して、その有効性・持続性を高めることが必要である。

(2) 日米協力

2015年に改定された「日米防衛協力のための指針」には、装備品の共同研究・開発・生産等の協力を発展させること、互恵的な防衛調達を促進することなどが示されている。これらについては、官民の連携の下、これまで以上に前向き且つ柔軟に対応していかねばならない。米国がFMSの対象とする装備品に対しても、わが国の産業・技術的な貢献の機会を最大限、追求すべきである。

(3) 情報保全

技術情報の適切な管理は、日米を含む国際装備・技術協力に不可欠な基盤である。同時に、規模の大小を問わず、防衛サプライチェーンに参加する全ての企業にとり、重要なテーマでもある。既に、わが国においても、防衛省主導で米国の情報セキュリティ基準に則った対策が進行中であり、既に一部の日米共同プログラムにおいては、米国のセキュリティ・クリアランスが適用されている。

今後の国際協力の拡大に備え、わが国においても、米国ならびに友好国との間でも活用し得る情報保全制度を設けるべきである。同時に、中小企業に対しては、情報保全体制の確立に向けた各種支援を実施すべきである。

4. 官民連携の推進に向けて

新大綱は、国家安全保障会議が取りまとめた初の大綱であり、防衛省・自衛隊のみならず、政府一体となった取り組みの必要性が、数多くの点で強調されている。加えて、総合的な防衛体制の構築に向けて、民間等との協力を推進する旨も明記されている。政府の一体的取り組みと緊密な官民連携の実践無しには、新大綱が目指す防衛力の強化は達成できない

(1) 契約制度に関する官民協議

わが国防衛産業は、コスト削減、国際競争力強化、変化する安全保障環境への的確な対応を求められるなど、大きな転機にある。このため、効率化と技術力強化を両立する観点から、国内市場の構造的特性を踏まえて契約に係る様々な課題について、官民が改革案を持ち寄り、踏み込んだ意見交換する場の創設を期待する。その際、国際協力の円滑化の観点からも、防衛調達の国際デファクトとも言える米国をはじめとする諸外国の調達制度(官民のコスト分担、利益率・報酬のあり方)等について、十分、研究することが必要である。

(2) 新大綱・中期防の実現に向けた官民対話

新大綱の実現状況等に関する定期的・体系的な評価の一環として、民側の声が官側に届く仕組みを切望する。官民の関係者が定期的に対話する場を設け、新大綱・中期防の実現状況や官民協力の状況・推進策等について意見交換し認識を合わせることが、その円滑かつ着実な実現に寄与する。経団連としてもその運営に、積極的に貢献する。

以上

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