一般社団法人 日本経済団体連合会
起業・中堅企業活性化委員会
1.基本認識
急速な技術革新にともなって経済・社会が激変する中、Society 5.0の実現に向けてわが国の産業界が発展し続けるためには、従来の延長線上にない革新的なイノベーションを起こさなければならない。そのためには、経営者の強力なリーダーシップのもと、大手企業に「起業家」精神を呼び覚まし、新事業創出に向けて「果敢に経営資源を投入」することが不可欠である。
昨今、イノベーションや新産業創造の担い手である「ベンチャー」に対する期待はかつてない高まりを見せている。大手企業もオープンイノベーションのパートナーとしてベンチャーを位置付けはじめ、CVC#1やM&Aなどの活動も活発化しつつある。今こそ、企業、大学、ベンチャー、ベンチャーキャピタル等が一体となって新事業を生み出す「ベンチャー・エコシステム」構築の好機であり、わが国におけるベストプラクティスを作り出すときである。
2.東大・経団連ベンチャー協創会議の発足と活動状況
このような認識のもと、東京大学と経団連は、革新的な技術や社会システムを提供するベンチャーを連携して創出・育成する「東大・経団連ベンチャー協創会議」(以下、協創会議)を2016年11月に発足した。
協創会議は、アカデミアと産業界が「組織的」連携によりベンチャー創出・育成を行う先駆的な取り組みであり、(1)双方の幹部層による対話、(2)ベンチャーの創出に向けた連携、(3)ベンチャーの事業成長に向けた連携、(4)起業家人材の育成に向けた連携を活動内容として掲げている。
これまで協創会議では、超小型衛星を用いた地球観測インフラの構築を目指す「株式会社アクセルスペース」を対象に経団連会員企業とのビジネスマッチングを行うなど、ベンチャーの「事業成長」の加速に向けた活動を展開してきた。今後も、革新的な技術を有する研究開発型ベンチャーとの連携を予定している。
また、東大が保有するベンチャーインキュベーション施設は2019年までに現在の3倍、1ヘクタール超へと大幅な拡張が計画されている。これは国内のインキュベーション施設としては最大規模になる。東大と経団連は協創会議を通じて早い段階から連携し、同施設での活動に向けて複数の企業が検討を開始した他、既に進出を決めた企業もある。協創会議では、同施設を企業、大学、ベンチャー等が集う国内最高のベンチャー育成環境とすべく、今後、活動内容を具体化していく予定である。
3.産学連携によるベンチャー「創出」の本格化に向けて
上述のとおり、協創会議では、これまでベンチャー「育成」を中心に取組みを進めてきた。今後はこれに加えて、ベンチャー「創出」に挑戦する。
ベンチャーへの出資やM&Aといった「既に存在する」ベンチャーを対象とする方策はもちろん重要ながら、他方で、「未だ存在しない」ベンチャーを新たに生み出すこともきわめて重要である。企業の経営資源(技術、知財、人材、資金等)の一部を切り出して事業開発・起業を行ういわゆる「カーブアウトベンチャー」も有望と考えられる。
協創会議では、企業の経営資源と東大の知的資産の融合を図り、革新的なカーブアウトベンチャーの創出を目指す予定である。
4.ベンチャー投資活動に対する期待
ベンチャー・エコシステムの構築に向けては、出資金の拡充をはじめとする投資環境の整備が不可欠であり、これまで、主に政府からの拠出によって大学発ベンチャー向けファンドが組成されてきた。
2016年1月設立の東京大学協創プラットフォーム開発株式会社は、ベンチャーキャピタル(以下VC)の育成に向けてVCが組成するファンドへの資金提供(間接投資)の他、ベンチャーへの直接投資を行ってきた(協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合、以下1号ファンド)。これは、東大を中心とするベンチャー・エコシステムの形成および発展育成に向けた重要な取り組みと評価する。
現在、同社は新たに「協創オープンイノベーション推進ファンド」の組成を検討している。同ファンドは大手企業との連携によるベンチャー創出を目指しており、VCとの連携に主眼を置く1号ファンドとは目的が全く異なる。「協創オープンイノベーション推進ファンド」は、わが国における新産業創造・新事業創出に向けた本格的な産学連携の推進・拡大に資するものとして意義深く、早期に組成されることを期待する。
経団連は、ベンチャー創出・育成の本格化に向けて今後も東大との協創会議を通じてベストプラクティスを追求していく。その取り組みを通じて得られた知見も活かしつつ、意欲ある他大学との連携拡大も推進していく所存である。
- コーポレートベンチャーキャピタル。事業会社が自己資金によって自ら出資を行うこと、またはそのための組織。