はじめに
日印のビジネス・リーダーは、今般、インド・グジャラート州ガンディナガルで開催された安倍総理とモディ首相の日印首脳会談により、両国の「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」が一層深化され、「日印新時代」が大きな飛躍を遂げたことを歓迎する。また、日本の「自由で開かれたインド・太平洋戦略」とインドの「アクト・イースト」政策の連携を一層推進し、インド太平洋地域と世界の安定と繁栄を主導していくとの両国首脳の決意に敬意を表する。同時に、「日印投資促進パートナーシップ」等の両国のイニシアティブの下、対印投資の拡大をはじめ両国間の経済・産業協力関係が一段と強化され、緊密で互恵的な経済関係が一層の発展を遂げていることを歓迎する。
日印のビジネス・リーダーは、引き続き、民主主義、法の支配など普遍的価値観を共有する両国が、自由で開かれた国際経済秩序の下で連携・協力関係を強化し、包摂的で持続的な経済成長を実現することを通じて、世界経済の牽引役を果たすことを強く望むものである。
日印ビジネス・リーダーズ・フォーラムは、2007年の設置以来、日印首脳会談に合わせて両国を代表するビジネス・リーダーが一堂に会して、両国間の経済交流の拡大に向けて真摯な議論を交わしてきた。その結果に基づき取りまとめた共同報告書を両国首脳に提出し、日印双方のメンバーが協力してその実現を働きかけることにより、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の実現を含め、両国間の多くの課題解決と連携・協力関係の強化に貢献してきた。
今般、第10回目となる本フォーラムでは、日印両国経済が様々な環境変化に直面する中、引き続き、両国経済が共に発展し、世界経済の成長エンジンとしての役割を果たすべく、経済連携の推進、ビジネス環境の整備、インフラ整備等の戦略的分野での協力等につき議論を行い、本共同報告書を取りまとめた。
日印のビジネス・リーダーは、両国首脳に対して、これら提言の実現を求めるとともに、ビジネスの立場から、インド太平洋地域と世界の平和と繁栄を主導する両国政府に協力していく決意を明らかにするものである。
1.自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化と経済連携の促進
日印のビジネス・リーダーは、安倍総理の下で進められている「未来投資戦略2017―Society 5.0の実現に向けた改革―」等の諸改革、ならびにモディ首相の「メイク・イン・インディア」、「デジタル・インディア」、「スキル・インディア」等の経済改革イニシアティブが、両国経済の着実な成長を牽引するとともに、日印双方の市場に新たな機会をもたらし、両国間の貿易・投資・技術・人的交流等を加速させるものとして、その強力な推進に期待を表明した。
同時に、日印のビジネス・リーダーは、両国の成長戦略の実現には、物品・サービス・資金・人材・技術・データ等のあらゆる資源が自由に国境を超えて行き交う環境整備が不可欠なことから、近年の世界的な反グローバリゼーションや保護主義の高まりに強い懸念を示し、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に両国が協力して取り組んでいくべきであるという共通認識を得た。
かかる観点から、日印のビジネス・リーダーは、両国が自由貿易の旗を共に掲げ、世界に対してその意義と両国の強いコミットメントを発信すべく、現在交渉中の東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)を物品・サービス・投資の3つの柱全てを包含する包括的な内容で、高水準なものとして早期に実現する必要性を確認した。同協定には、物品貿易、サービス貿易、投資の自由化に加え、原産地規則の統一及び累積制度の導入、各種ルールの整備等を含める必要がある。日印のビジネス・リーダーは、これらの実現に向けて、引き続き共同で主導的役割を発揮することで合意した。
2.ビジネス環境の改善を通じた貿易、投資等の拡大
両国間の貿易・投資・技術・人的交流等の加速には、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化とともに、両国における規制・制度改革等を通じたビジネス環境上の諸課題の解決が極めて重要である。
日印のビジネス・リーダーは、両国首脳のビジネス環境改善に向けた強いコミットメントとリーダーシップを称賛し、とりわけ、本年7月のインドにおける歴史的な物品・サービス税(GST)導入等を高く評価するとともに、企業の自由で円滑な事業展開を確保すべく、別表で示した日印双方から提起された要望の早期実現等、さらなるビジネス環境整備に向けた強力なリーダーシップの発揮に強く期待する。
これら諸課題の解決に向けては、インド工業連盟(CII)や日本商工会等の産業団体ならびに日印大使館と日印関連当局との協議を評価する。また、日印のビジネス・リーダーは、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の下に設置された「ビジネス環境整備に関する小委員会」が、本年7月に両国経済界の出席のもとで、昨年に続き開催されたことを評価する。
日印のビジネス・リーダーは、上記「ビジネス環境整備に関する小委員会」の定期開催はじめ、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)の下に設置された小委員会や各種の方策を通じて、両国のビジネス環境が一層整備され、貿易・投資等の日印経済交流が更に拡大・深化することを強く期待する。
インドのビジネス・リーダーは、日印の都市間の航空連結性の向上、原産地規則の簡素化、弁護士、会計士、看護師などの専門職に対する資格の相互認証協定の導入、医薬品分野における相互認証協定の締結を求めた。
インドのビジネス・リーダーは、日印包括的経済連携協定(IJCEPA)のレビューが開始され、二国間の貿易・投資を拡大する方策の検討が進むことに留意した。
また、インドのビジネス・リーダーは、日本の国内法あるいは日印租税条約を改定し、配当金、特許権使用料、技術サービス料に対する10%の源泉課税を廃止することを改めて求めた。これら事項の詳細は、別表に記載する。
3.インフラ、エネルギー等戦略的分野における協力拡大
日印のビジネス・リーダーは、両国の「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の更なる強化に向け、インフラ、クリーンエネルギー等エネルギーセクター、科学技術イノベーション、情報通信、スマートシティ、バイオ技術、製薬等の戦略的分野における連携と協力が重要であるとの認識を共有した。
また、日印のビジネス・リーダーは、日本政府の政府開発援助(ODA)の供与がインドの貧困削減や社会資本整備に果たしてきた役割を高く評価するとともに、日印首脳が、日本の「質の高いインフラパートナーシップ」とインドの「アクト・イースト」政策との間の相乗効果を目指しつつ、インド国内等において強靭なインフラ整備を一層進展させる旨合意したことを歓迎する。
とりわけ、「日印新時代」の象徴であるムンバイ・アーメダバード間高速鉄道(MAHSR)が起工式を迎えるなどの具体的成果を歓迎するとともに、インドの産業競争力及び連結性の強化、持続的で包摂的な成長と国民生活の向上に向け、貨物専用鉄道(DFC)建設計画、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)構想などの回廊計画とその関連プロジェクトはじめ、引き続き、道路、鉄道、港湾、空港、電力・スマートグリッド、水処理、工業団地等のインフラ整備が推進されることを求める。インドのビジネス・リーダーは、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)に関わる日本の産業界の投資に期待を表明した。
日印のビジネス・リーダーは、官民連携による質の高いインフラ整備を促進する観点から、その重要性に対する理解の促進を図るとともに、インドのインフラ・プロジェクトの入札手続きにおいて、ライフサイクル・コストの低減と技術を適切に評価する総合評価落札制度の導入・拡充、官民パートナーシップ(PPP)における政府保証の付与等の官民のリスク・役割分担の合理化・適正化などをインド政府に強く求める。
産業活動及び国民生活の基盤である電力の安定供給と環境保護との両立の観点から、原子力発電に関する日印協力は戦略的に重要であり、日印のビジネス・リーダーは日印原子力協定の締結・発効を高く評価するとともに、原子力協力の具体化を歓迎する。同様の観点から、高効率かつクリーンな石炭・ガス火力発電の推進、再生可能エネルギーの大規模導入に伴う系統不安定化への対策及び省エネルギー対策にかかる日印協力が強化されることを強く期待する。また、防衛ならびに安全保障分野においても、首脳間の合意に基づき両国間におけるハイテク分野の協力強化を求める。
こうした分野での協力を推進する上で、有能な人材を育成し確保することが欠かせない。こうした認識の下、インドのビジネス・リーダーは、技術研修、大学並びに大学院の学生交流プログラム、企業研修及び語学プログラムなどから成る人材育成イニシアティブを強化することの重要性を強調した。
インドのビジネス・リーダーは、防衛分野に関して、日印防衛協力及び交流に関する覚書の下での最近の両国間の協議を歓迎すると共に、防衛装備・技術協力に係る合同作業部会に両国の民間部門を含める決定を評価した。
新しい革新的な製品やソリューションが必要とされる中、インドのビジネス・リーダーは、両国が科学的視点を踏まえた産業調査を進めるためのメカニズムを検討すべきと考えた。日印間の共同研究を支援する上で、充実した助成制度が必要となる。助成対象範囲をより拡大し、インド企業が日本の学術機関や企業との協働を進めやすくすべきである。助成額の規模も、ブレークスルーをもたらす革新技術の実用化に向けて、大幅に拡充する必要がある。日印産業研究開発基金を設立し、関心分野の共同研究を支援することも提案された。
インドのビジネス・リーダーは、「日印スタートアップ・ハブ」を構築し、両国政府から其々25%、日印のエンジェル、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティから50%の出資によるスタートアップ基金を設置することを提案した。この基金は両国の優秀な頭脳を集め、起業時に共同事業を行うと共に、起業を監督指導する「日印起業円滑化セル」を主導する。また、起業家やベンチャーキャピタルなど関係者が定期的に会合を行う「日印スタートアッププラットフォーム」、ビジネスインキュベーションのプロセスや新たなインキュベーションモデルについて検討する「日印インキュベーションフォーラム」の設置も担う。
日印のビジネス・リーダーは、強靭で活力溢れるインド製造業の実現に向けた「メイク・イン・インディア」、「スキル・インディア」、「スタートアップ・インディア」等のインド政府のイニシアティブに対する日本企業の貢献に留意した。この点に関連して、インド工業連盟(CII)は、国際協力機構(JICA)の支援の下、インドの資源を用いて、包括的成長のための製造業経営幹部育成支援(CSM)プロジェクトとインド商工省産業政策促進局(DIPP)のスキーム(「メイク・イン・インディア」、「スキル・インディア」、「スタートアップ・インディア」)の連携に取り組んでいる。
日印のビジネス・リーダーはまた、技能実習制度の拡充により、2017-2018年には約500人、2018-2019年には1,000人の技能実習生が実習を受けることに留意した。これは、安倍総理の2015年の訪印時に、「メイク・イン・インディア」を加速するために定められたものである。インド工業連盟(CII)は、これに協力すべく、インド技能開発・起業促進省(MSDE)から送り出し機関の認定を受けている。第1期実習生の15名は、既に日本の専門指導者より4ヶ月の実習を受けた。
日印のビジネス・リーダーは、ビジネス環境や政策、イノベーション、プロジェクト・マネジメント、調達、技術移転、開発・管理、持続可能性、知的財産権、地域文化や商習慣に対する理解等の分野における両国の産学官連携の促進を目的として、バンガロールのインド経営大学院(IIM)に日印スタディ・センターが設置されたことを歓迎する。セクター別では、エネルギーや交通を含むインフラ、中小零細企業が取り組みの中心となる。
また、日本式ものづくり学校(JIM)が拡張され、プログラムが増加することを強調した。日本式ものづくり学校(JIM)は、2016年11月11日、東京において、経済産業省(METI)とインド技能開発・起業促進省(MSDE)が署名したものづくり技能移転推進プログラムに関する協力覚書(MoC)に基づき設置され、日本式ものづくりの技術を参加者に伝えるものである。既に4校が開校し、2017-18年にかけて新たに2校が開校する。
総括
日印のビジネス・リーダーは、民主主義、法の支配など基本的価値観を共有する日印両国の共同の取り組みが、両国のみならずインド太平洋地域と世界全体の安定と繁栄に寄与することを確信する。
最後に、本フォーラムのメンバーは、日本の安倍総理とインドのモディ首相より我々に寄せられた信頼に対し、深い謝意を表したい。
日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム 日本側共同議長 榊原 定征