一般社団法人 日本経済団体連合会
子育て支援や人材育成は、日本の担い手を育てるための将来への「投資」である。子育ては、一義的には自助、それに加えて社会全体で支援すべきとの基本理念が広く国民に共有されている。また、人材育成も、社会全体で支えていくべき国の最重要政策として位置付けられる。
待機児童の解消をはじめとする子育て支援策や、幼児教育から高等教育に至るまでの人材育成については、部分的な議論に留まることなく、一体的な政策パッケージとして強力に推進することが望ましい。
これらの政策は、社会全体で支える観点から、高齢者に過度に偏った社会保障給付を見直すとともに、新たな税財源を確保し、実施すべきである。政府・与党は、子育て支援や人材投資への予算配分の優先性、重要性について国民の理解を求めるとともに、必要な税負担の増大についても、恐れることなく世論を形成していくべきである。
与党から提案されている「こども保険」や「教育国債」については、子育て支援や人材投資のあり方について、一石を投じたものと受け止めている。ただし、以下のような問題点があるため、これらを踏まえつつ、国民的な議論を喚起していく必要がある。
1.こども保険
(1) 世代間の公平性の問題
「こども保険」は、年金保険料を支払う現役世代と事業主に対してのみ負担を求めることとされている。高齢者、専業主婦(夫)、年金保険の未加入者や保険料未納者は、負担しないため、社会全体で支える仕組みにはなっていない。
とりわけ、高齢者の負担がないことについては、世代間の公平性の観点から問題がある。高齢化を背景に、年金、医療、介護などの社会保障給付が増加の一途を辿る中、現役世代や企業の社会保険料負担は際限なく増えている。高齢化による負担増に限界が見えない状況下、子育てについても現役世代や企業にのみ負担を求めるのは著しくバランスを欠いている。
(2) 世代内の公平性の問題
「こども保険」は負担を分かち合う現役世代内においても、公平性の問題が存在する。
社会保険は、将来のリスクに備え保険料を負担した加入者に、受給権を保障する仕組みであるが、「こども保険」の直接的な受益者は就学前の子育て世帯に限定される。小学生以上の子どものいる世帯は受益がないほか、現実には、子供を持たない選択をした世帯や、様々な理由で子供を持ちたくても持てない世帯もいる。
社会保険の仕組みや考え方において、全く受益が発生し得ない世帯に対しても保険料負担を一律に求めることは妥当ではない。
(3) 使途の問題
「こども保険」は、子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクへの対応として、幼児教育・保育の実質無償化を提案しており、具体的には、現金給付である児童手当を増額する案を示している。しかし、現下の最も顕在化している子育てに関するリスクは、待機児童問題であり、現物給付である保育サービスの拡充が最優先課題である。
さらに、「こども保険」では親の所得に関係なく一律に児童手当を増額するとしているが、低所得世帯や多子世帯等の経済的支援を必要としている子育て世帯にのみ、給付の対象を絞るべきである。所得制限のない現金給付の拡充では、確実な政策効果は得られにくいばかりか、単なるバラマキになる懸念がある。経済的支援を必要とする世帯に対する給付についても、直接的に子育てを支援する観点から、現金給付よりも現物給付のほうが望ましい。
なお、現物給付の拡充にあたっては、それによる政策効果の見える化を図り、PDCAサイクルを着実に回していくことで、政策効果の最大化を図る必要がある。
2.教育国債
人材投資は将来への投資ではあるものの、国債を新たに発行して将来世代に負担を先送りすることは回避すべきである。