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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 日米IED民間作業部会共同声明2016

2016年2月25日
日本経済団体連合会
在日米国商工会議所
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はじめに

ミレニアムと呼ばれて始まった21世紀も15年が経ち、インターネットエコノミーが今世紀の成長のエンジンとなるという期待はその通りか、それ以上の成果を生んだ。優れた技術者と企業家により生み出された、インターネットを介するサービスやアプリケーションは、新産業・新事業の創出と展開を通じ、世界の人々の生活に必要とされるものとなり、今や新しいインフラとなったと言える。

インターネットは国境を越えてデータを流通させることができ、クラウド技術の発展とモバイルデバイスの急速な普及と相俟って、各国・地域の制度体系内に閉じた規制では規律できないものになっている。インターネットエコノミーによる成長を実現するためには、グローバルな視点で制度面の調和を進めるという大きな課題も抱えることになっている。その意味で、日米両国を含むTPP交渉参加国が電子的手段による国境を越える情報(個人情報を含む)の自由な移転を促進する方向に合意したことは、画期的であった。

日米経済は、20世紀にみられた依存と摩擦の併存の構図から、互いの強みを活かす補完関係へと進化を始め、今では両国が協調しながら世界経済の発展に貢献することが不可欠な関係となったと言える。ここに第7回日米インターネットエコノミー政策協力対話会合を迎えるにあたり、改めて日米関係の重要性を互いに認識し、新たな挑戦に向かって共に努力することを願い、本共同声明を上呈する。

第1章 個人情報の保護と利用の両立

日本においては改正個人情報保護法が昨年9月3日(9月9日公布)に成立し、個人情報保護委員会の設置、法のグローバル適用に係る規律の導入等がなされたことから、改正法の全面施行後は、現行と異なる対応が企業に課されることになる。企業側の不安としては、本人同意や、記録管理義務などの実務面での要求が必ずしも明確化されていないことに加え、域外適用の運用ルール等は、今後の政令・委員会規則を待たねばならないことにある。

一方、欧州議会を通過した一般データ保護規則(GDPR#1)案は、欧州委員会・欧州議会・欧州連合理事会の三者協議(トライアローグ)での合意が成立し、最終段階の調整中である。この中には域外適用や越境データ移転に関する実際的なルール作りも含まれている。また、欧米セーフハーバー協定についても大きく枠組みの変更が余儀なくされるなど#2、この欧州の政策の影響は広く全世界の事業者・消費者に及ぶ。新しい明確なフレームワークが明示されないと企業活動に影響を及ぼすため、早急な解決を望む。

発展著しいアジア太平洋地域におけるデータ流通・データ保護に関する政策フレームワークのモデルとして、APECはCBPR(越境個人情報保護規則)の認証制度を勧めているが、現状の採用国は日本、米国、メキシコ、カナダにとどまっている。他の加盟国も積極的に活用するよう両国政府からの働きかけが肝要である#3

ここまで述べた現状の課題に対応するため、グローバルに複雑化するデータ流通に関する政策の方向性に確固たる軸を明示し、両国の国内法制度において協調機運を明確化する必要がある。そのためにも、日本の改正法第24条#4に規定された保護水準が同等な制度を有する国として米国を挙げることを含め、日米間の円滑なデータ流通を確保する観点からの改正法の施行及び運用を日本政府に対して求めたい。

同様に米国国内法制度においても、これまで通り日本企業のデータ活用面で米国企業との差異の無い扱いが今後も継続されることを求めたい。

こうしたなか、日米両国政府が、個人情報に関する法制度の運用について最大限の透明性を確保するために、産業界をはじめとするマルチステークホルダーの意見を取り入れることを求める。

第2章 データローカライゼーションと越境データ流通

新興国のなかには、上記の動きと併せて国際データ流通について新たな規制・規律の流れ#5を作ろうとする動きもあり、電気通信事業、ソフトウェア産業、クラウドデータサービス事業、システムインテグレーションなどで国際協調による市場拡大に大きな影響を与え、事態はますます複雑化し、グローバル事業にとっては楽観できない情勢が続く見込みである。

そのような情勢で、このたび日米両国を含むTPP交渉参加国が、同協定の電子商取引章において、電子的手段による国境を越える情報(個人情報を含む)の自由な移転を認めることを加盟国に義務づけるとともに、企業等が自国の領域内でビジネスを遂行するための条件としてコンピュータ関連設備を自国の領域内に設置するよう要求することを禁止したことを歓迎する。

データの流通と利用に対する規制が、民間事業展開上の大きな障害となり、 規制国の経済成長を阻み得ることは、様々な研究によって指摘されている。例えば、データ流通や利用の規制により、規制国内企業がクラウドサービスを比較的安価に利用できなくなる等の事態が生じ、国内企業のコストが押し上げられ、結果として規制国経済がグローバル・サプライ・チェーンから除外された事例がある#6。また別の研究では、データの流通・利用規制が導入されると、ベトナムでマイナス1.7%、中国、EU28カ国、韓国でマイナス1.1%、ブラジル、インドでマイナス0.8%、それぞれの国内GDPを引き下げるとの結果も示されている#7

他方、実際のビジネス現場では、データの自由な流通や利用が様々なイノベーションを生み出す源泉となっている。例えば、ヘルスケア情報については、個々人の健康管理・医療・介護関連情報を関連機関で共有し、統計データや個別指導データとして活用する試みがなされている。これにより、社会レベルでは社会保障費の抑制や生産・消費活動等の経済活動が活性化されるとともに、個人レベルでも健康寿命の延伸、ひいては自己実現や経済活動の継続といった効果が期待されている#8。また、個人の動態をまちづくりや観光促進に活用することや、ドライビング情報の統計活用による自動車保険料率への反映や道路状況の把握や渋滞緩和につなげることなどへの期待も高い(別添資料「個人情報を活用した社会的課題の解決に関する事例」参照)。

日米両国政府においては、イノベーション創出の前提として個人情報を含む自由なデータ流通の維持を望む旨を明確に発信するとともに、保護と利用の両立に関して規制国に対して両国共同で規制緩和・撤廃を働きかけるよう、強く期待する#9

第3章 インターネットエコノミーの基盤となるサイバーセキュリティ

世界中でサイバー攻撃による被害が拡大しているなか、世界経済の発展のためには、安全なサイバー空間を維持し、国際的に自由な情報の流通を確保することが必須である。サイバー攻撃の主体はグローバルに活動しており、国際テロ・犯罪組織による攻撃も増加するなか、国際的な連携の推進がまず必要である。他国で生じた攻撃への対応に関して、政府が入手した情報をそのまま企業に提供することは難しいが、可能な範囲で政府から最新の情報が提供されることが、高度な攻撃への対応を事前に準備するために必要となる。

サイバー空間における国際的に自由な情報の流通を確保するために、日米両国政府はサイバーセキュリティに係る国際的な議論を主導し、官民を挙げた国際連携を推進すべきである。その際、安全保障分野における連携強化を基本とし#10、インターネットエコノミー政策協力対話やサイバー対話をさらに充実させ、官民における人材交流や、共同訓練、技術開発などに取り組むべきである。また、情報提供にあたって、インシデント情報やベストプラクティスの共有を進めるための枠組みも必要になる。

2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。サイバーテロの脅威が高まっているなかでこれを成功させることは、今後、両国において国際ビッグイベントを多く招致していくための試金石となる。日本政府・産業界はもちろん、米国政府・産業界も協力してサイバー攻撃に備えることが望まれる。

第4章 インターネットガバナンス関連議論への対応

2015年には、IANA機能の移管議論が継続され(ICANNへの委託契約延長)、ITUのWSISフォーラム、ハーグサイバー空間会議、NETmundial Initiativeの調整評議会、ブラジルでのIGF、WSIS+10レビューに関する高官会合(国連)などが開催された。特に、2015年12月に行われたWSIS+10レビュー高官会合の成果文書については、10年間のインターネットをめぐる状況の進展(デジタルディバイドの解消等)の評価、IGFの開催10年延長、協力強化のための検討の継続、マルチステークホルダー体制の維持と発展などの点において、両国産業界は高く評価する#11

一方で必ずしも主張を同一にはしない国々による連携も活発に行われ、規制色を強める政策も多くの国で進行している。本年改めて確認されたのは、第2章で指摘したようなデータ流通・データ保護が議論されている一方で、通信やコミュニケーションを支えるインターネットの運用と管理においても同様の保護主義的な政策を望む国・地域が存在したことである。

そこで、日米両国の政府においては、国際的ルールの交渉代表者として、第三国のデータ規制における過剰な保護主義的風潮が広まらないよう、国際的に自由な情報流通を堅持することの重要性とその便益を主張すべきである。そして同様の考えを共有する国と共に、国家主権によるインターネットに対する介入は必要最小限に限定されたものとすることがその国の経済発展に不可欠であるという共通の認識をベースに、インターネット公共政策の方向性を主導することが、改めて必要となろう。

さらに、インターネットガバナンスの様々な主体による多くの議論の間の関連性を可視化して、そのような課題マップの上で政策担当者間、官民の間での共通した基本方針のもとにそれぞれの議論の場に対応できるよう、両国内、両国間の体制を充実させることが望ましい。

おわりに/インターネット政策の充実に向けて

以上の通り、本年度の共同声明は、インターネットエコノミーが引き続き世界経済の成長のけん引役であるためには、国際的に自由なデータ流通を維持することが不可欠との観点に立っている。このため、越境データ移転に係る多国間での制度の整合性に向けた取組み、自国保護主義的な観点からの各国内の過剰な規制の回避、サイバーセキュリティの確保、国家によるインターネットガバナンスへの過度な介入の抑制等について述べた。

情報通信分野の技術革新(IoT等)は、創造的なアイデアを実現することを可能とした。インターネットとさまざまな分野の産業との融合は今後一層進展し、ビジネスの高度化や新領域の登場が見込まれるが、同時に、既存の法制度が想定していないサービスやアプリケーションを用いて新たに享受される便益を極力阻害しないよう、法制度との調和や技術の標準化をはじめとする努力を続けなければならない。

グローバルに事業を展開する両国産業界にとって、越境データ流通はイノベーション創出の前提であり、オープンで透明なインターネットの堅持とサイバー空間の平和的利用の上に立つ国際的なルールの整合性と相互運用性を求めている。そしてインターネットエコノミーにおいてデータは必須の資源であるため、個人情報の保護と利活用を両立しながら、各国内でのデータ利活用促進を図ることも、挑戦していくべき課題である。インターネットへの政府による過度な介入がなされたり、資源の流通と活用が阻害されている地域は、今後十分な経済発展と包摂的経済成長の恩恵に浴すことは期待出来ないことが広く認識されるべきである。

本年4月に日本で開催される「G7情報通信大臣会合」は、G7情報通信大臣会合としては20年ぶりに開催されるものである。この場は、インターネットエコノミーによる世界経済の発展の重要性を認識する関係諸国との間で、経済発展に向けた国際的なデータ利活用環境整備に係る共通認識の形成を図る議論を行う機会と位置づけるよう、日米両国の政府と産業界が連携すべきである。その成果は2016年5月の「G7伊勢志摩サミット」や6月に開催予定の「OECD閣僚会合」におけるデジタルエコノミーに関する検討につなげることができよう。

日米両産業界は、今後もパートナーシップを深め、TPPの次の段階としてデジタルエコノミーを促進する枠組みを議論したいと考えている。併せて、4年後の東京オリンピック・パラリンピックにおいて、未来のインターネットエコノミーのショーケースを展開すべく、積極的な役割を果たしていきたい#12

日米両国政府においては、これからも、インターネットエコノミーに係る自由で健全な体制作りを国際的に主導していくことを強く期待する。

以上

〔付属資料〕
「個人情報を活用した社会的課題の解決に関する事例」

本共同声明は、経団連情報通信委員会とACCJ(在日米国商工会議所)が共同で作成し、2016年2月25日、26日に、総務省と米国務省が東京で開催した「インターネットエコノミーに関する日米政策協力対話」(日米IED:Internet Economy Dialogue)において、経団連とACCJから提出したものです。

  1. GDPR(General Data Protection Regulation)
  2. 2016年2月2日、欧州委員会は、欧米間の個人情報移転に関する新たな枠組み(EU-USプライバシー・シールド)について、米国と大枠合意したと公表した。
  3. CBPRと欧州のBCR(拘束的企業準則)の間の相互運用性確保、ISO/IECなどの国際標準や民間自主規制を活用する動き等がある。個人情報保護の異なる政策体系間で現実的に調和した事業環境を確保する努力も求められている。
  4. 改正個人情報保護法第24条要約 個人情報取扱事業者は、外国にある第三者 に個人データを提供する場合には、 あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得なければならない。但し除外規定として日本と同等水準の個人情報保護制度を保有する国、個人情報保護委員会の基準に適合する体制を持つ者を除くなどがある。
  5. 自由なデータ流通空間であるべきインターネットへの国家による管理を強化し、市場原理を大きく逸脱する技術、知財の強制移転を図る動きが見られる。
  6. 一例としてInformation Technology & Innovation Foundation, Localization Barriers to Trade, available at
    http://www2.itif.org/2013-localization-barriers-to-trade.pdf
  7. ECIPE, The Costs of Data Localisation, available at
    http://www.ecipe.org/app/uploads/2014/12/OCC32014__1.pdf
  8. その他、具体的なビジネスの事例については、付属資料を参照のこと。
  9. 自由なデータの流通・利用を確保するための国際的なルールの必要性については、300名を越える国際経済の専門家が参加するThe E15 Initiativeが2016年1月のダボス会議において提言した文書においても強調されたところ、同問題に対する日米両国政府の積極的な関与を期待する。
  10. 2015年4月に日米両国政府が改定した「日米防衛協力のための指針」に、サイバー防衛協力の推進が初めて盛り込まれた。
  11. IGFにおいても、新たな重要テーマとしてインターネットエコノミーが追加された。
  12. 例えば、「新しいサービスが容易に立ち上がる環境づくり」「多様なコンテンツが正当かつ活発に利用・発信される環境づくり」「ICT能力を自ら高められる環境づくり」を示すことを目指す。

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