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Policy(提言・報告書)  地域別・国別 ロシア・NIS 日ロ経済関係の基本的な考え方

2015年12月7日
一般社団法人 日本経済団体連合会
日本ロシア経済委員会
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わが国を取り巻く環境が大きく変化する状況下、平和で安定的な国際社会の構築を図るとともに、アジア太平洋地域におけるビジネスを展開する観点から、日ロ経済関係を拡大・深化させることは、極めて重要な課題である。

折しも本年は、経団連日本ロシア経済委員会の前身である日ソ経済委員会の発足から半世紀という節目の年に当たることや、プーチン大統領訪日に向けて両国政府間の調整が行われている現状も踏まえ、当委員会の今後の活動指針とすべく、以下の通り基本的な考え方をとりまとめた。

1.経団連のこれまでの取組み

1965年の日ソ経済委員会発足以降、経団連は二国間貿易・投資の窓口として国家プロジェクトの組成等に取り組んできた。また、ロシア連邦への移行後は、ロシア経済界との連携の下、1993年以降13回に及ぶ日本ロシア経済合同会議を開催するとともに、極東地域ほか各地へのミッション派遣等を通じて、日ロ経済関係の発展に積極的に寄与してきた。

さらに、ロシア・ビジネスを展開する上での問題点や改善が望まれる課題を的確に把握すべく、日本企業を対象としたアンケートを2005年以降毎年実施し、ロシア政府はじめ関係方面に対してビジネス環境の改善を働きかけてきた。

こうした継続的な取組みも受けて、未だ不十分な面は少なくないものの、ロシアにおけるビジネス環境は漸次的に改善されてきたと言える#1

2.日ロ経済関係の現状評価

2014年の日ロ貿易高は約3.6兆円と対前年比6.3%の伸びを記録し、過去最高水準に達した。但し、東日本大震災以降のエネルギー・資源の輸入増を背景に、ロシアから日本への輸入が過去最高の2.6兆円に達する一方、日本の対ロ輸出は1兆円を割り込み、リーマンショック後、初めて減少した。

現在、ロシアにとって日本は輸出・輸入とも6位のパートナー、逆に日本にとってロシアは輸出で14位、輸入で12位の貿易相手国にとどまっている。また、日本の対ロ直接投資が昨年3億ドルを割り込むなど、日本企業のロシアに対するスタンスは依然として慎重である。

昨今のルーブル安やインフレ等に伴うロシア国内の消費マインドの低迷等も影響したとは言え、両国の経済力や市場規模、地理的近接性等を考慮すれば、貿易・投資とも、未だポテンシャルが十分に活かされているとは言い難い。

3.ロシア・ビジネスの問題点:ロシア政府が取り組むべき諸課題

既述の「ロシアのビジネス環境等に関するアンケート」の最新結果#2によれば、ロシア・ビジネスを「非常に有望」または「有望」と回答した企業は2014年の43.8%から2015年の15.6%へと大きく減少した。ロシア・ビジネスを悲観的に捉える企業が増加した背景には、原油価格下落等に伴う景気低迷、資源に依存する産業構造等の経済的要因のほか、対ロ制裁等の政治的要因が挙げられる。こうした企業マインドを反映してか、「ロシア・ビジネスを今後拡大・強化していく」と回答する企業も、昨年の約半分から3分の1程度へと減少した。

一方、有望と思われる地域に関しては、従来通りヨーロッパ・ロシア部への関心が最も高く、回答企業の90%が有望とみなしている。次に関心が高い極東地域は2007年以降着実な拡大傾向を示してきたが、今年は初めて減少に転じ、50%を切った。新型特区の設置や東方経済フォーラムの実施等、ロシア政府の取組みにもかかわらず、日本企業が必ずしも強い期待を抱いていない実態に留意する必要がある。極東をゲートウェーとした日ロビジネスにテコ入れする観点からも、ロシア政府は、以下の課題の解決に取り組むことが求められる。

  1. (1)行政の問題(煩雑な許認可手続き、許認可取得に要する時間の長さ、窓口毎に異なる対応、常態化している贈収賄・汚職等)
  2. (2)法制度の問題(曖昧で理解しにくい法解釈・運用、頻繁な変更、運用細則未整備のまま施行される新法、法改正の過渡期に生じる窓口の混乱等)
  3. (3)輸出入手続きの問題(不透明で煩雑な手続き、職員による恣意的な判断・対応、銀行が制裁対象となることに伴う信用状決済の未普及等)
  4. (4)税制・会計制度の問題(煩雑な付加価値税・輸入税の還付手続き、国際会計基準からの乖離、煩雑な保険金支払い手続き、頻発する制度変更等)
  5. (5)駐在員の出入国・就労に関する問題(査証・労働許可取得に要する時間の長さ、頻繁な制度変更、不透明な手続き等)
  6. (6)金融政策・金融制度の問題(金利の高止まり、不安定な為替相場、金融制裁により煩雑化した外国金融機関との決済手続き等)
  7. (7)ロシア政府による国内産業優遇方針(輸入代替政策)

ロシア政府は、ビジネス環境の改善こそがロシア経済の回復、ならびに日ロ経済関係の緊密化への最善の処方箋と捉え、取組みを強化すべきである。

その際、時間軸を念頭に置いた具体的なアクションプラン作りについて日ロ両国の官民が協議する場を設定すべきである。その上で、PDCAサイクルを通じて課題解決に着実かつ継続的に取り組むことが有効である。

4.日ロ経済関係の拡大と深化に向けて:両国政府主導で取り組むべき諸課題

日ロ経済関係の拡大と深化という観点から、既存の案件を推進するとともに新規案件を発掘すべく、両国政府は以下の重点課題に取り組むべきである。

(1)ロシアにおける基幹インフラ・都市環境インフラの整備推進

ロシア、とりわけ極東地域においては、石油・ガスの開発やLNG輸出基地をはじめ電力インフラ、鉄道等の物流インフラ、さらには都市環境インフラの整備に関して高いニーズが存在する。

こうした現状を踏まえ、両国にとって互恵的な以下の基幹インフラならびに都市環境インフラに関するプロジェクトを推進すべく、わが国として、JBICの出融資・保証やNEXIの保険の拡充・条件緩和を通じて、民間資金の呼び水とするとともに、エネルギー分野ではJOGMECの支援制度等も柔軟に活用することが重要である。

【基幹インフラ】
  1. (1) 資源・エネルギー開発(石油、ガス、レアメタル等)
  2. (2) LNG輸出基地ならびにガスパイプラインの整備
  3. (3) 電力インフラ(老朽化発電設備の更新、送配電網の更新・近代化、省エネ、再生可能エネルギー、原子力等)
  4. (4) 物流インフラ(シベリア鉄道・バム鉄道等の近代化、炭鉱から輸出港までの鉄道整備、全国主要道路網の拡充、大型船の入港が可能な港湾の整備、とりわけ極東地域における既存港湾施設の拡張・近代化、不凍港の整備、国際・国内空港の近代化等)
  5. (5) 情報通信ネットワークの整備・拡充
【都市環境インフラ】
  1. (6) 上下水道の更新
  2. (7) 廃棄物処理施設の整備

(2)ロシア経済近代化に向けた両国官民連携のあり方

ロシア政府は経済近代化を推進する観点から、「ロシア経済近代化に関する日露経済諮問会議」や「東方経済フォーラム」等を通じて、スコルコボや優先的社会経済発展区域等への外国からの投資を奨励している。日本経済界として、産業構造の転換や多角化に向けたロシアの一連の取組みを後押しする観点から、日本企業の投資判断に資する、きめ細かい情報提供が求められる。

他方、スコルコボや極東新型特区等の活用にあたっては、両国の官民が連携しやすく使い勝手の良い枠組み・制度とすべく、利用者や投資家のフィードバックを踏まえたPDCAサイクルを確立し、進捗状況を見える化すべきである。

(3)人の移動の促進に向けた政府間協議

既述のように、ロシアにおいては、外国人駐在員の出入国・就労に関する手続きが大きなビジネス阻害要因となっている。2013年10月、査証取得に係る審査期間の短縮や多次査証の有効期限を延長する日露査証簡素化協定が発効し、一定の手続き簡素化が見られている。

その一方で、2015年1月より、HQS(高度な専門性を有する専門家)以外の駐在員の労働許可取得にロシア語による、ロシア社会、ロシア史、ロシア法等の試験合格が義務化され、駐在員の交代や増員を検討する企業にとって負担が増大している。

人の移動の自由を通じた経済関係の拡充に向けて、両国政府は査証の相互免除を目指すとともに、駐在員の出入国・就労に係る手続きを緩和すべきである。

(4)北極海における日ロ協力

北極圏は予て、未発見の資源が埋蔵する可能性や北極海航路の確立に向けた検討などにより、国際的に注目されてきた。こうした中、日本政府は北極圏での資源開発等をめぐる国際的なルール作りにわが国が積極的に参加していくことなどを盛り込んだ基本方針「我が国の北極政策」を決定し、北極圏の開発等で日本が主導的な役割を果たすべく、取組みを強化していく姿勢を示した#3

わが国として、ロシアはじめ北極圏諸国との対話を重ねながら、北極開発に関する新たな国際ルール作りに積極的に参加していくことは極めて重要である。地球規模の課題解決に向けて、日本の強みである科学技術を最大限活用しつつ、北極海航路の開発や資源探査に関するポテンシャルを追求すべく、日ロ両国の官民が協力関係を模索・拡充していくことが求められる。

5.終わりに

両国間には政治的・歴史的に困難な課題が横たわっているが、日ロ経済関係の拡大・深化に向けた取組みを通じて、平和条約の早期締結など両国の将来を見据えた、他の分野への波及効果をもたらすことが期待されている。

こうした中、日ロ関係に関与するわが国官民の総合力を高める観点から、官邸や関係各省・機関等が企画・運営する様々な会議体・フォーラムを有機的に連携させるとともに、必要に応じて適宜集約するなどの取組みが求められる。

経団連としては、真に互恵的かつ多面的な経済関係を構築し、相互の理解と信頼を醸成すべく、隣国であるロシアとのビジネス対話を継続していく。また、最先端技術やモノづくりに対する姿勢等、日本ならではの企業文化・経営理念のもと、ロシアとの経済関係の緊密化にこれまで以上に積極的に寄与していく。

以上

  1. 2012年8月の世界貿易機関(WTO)加盟後、世界銀行によるビジネス環境ランキングにおけるロシアの位置付けは2013年の112位から2016年の51位へと着実に上昇(Doing Business 2016: Measuring Regulatory Quality and Efficiency)。
  2. ロシアのビジネス環境等に関するアンケート(2015年度)結果(2015年9月17日)。
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/081.pdf
  3. 「我が国の北極政策」(2015年10月16日、総合海洋政策本部)。
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/dai14/shiryou1_2.pdf

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