OECD租税委員会御中
税制委員会企画部会
BEPS行動3(CFC税制)に係わる公開討議草案に対する意見
OECDが2015年4月3日に公表した「公開討議草案 BEPS行動3:CFC税制」に対し、以下の通り経団連の意見を提出する。
1.はじめに
経団連は、BEPS対策の観点から真に効果的・効率的なCFC税制を構築し、企業間の競争条件を均衡化する観点から、行動3に係るOECDの取り組みを支持する。例えばBEPSテクニックの典型例とされるダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドウィッチは様々な構成要素からなるが、仮に親法人法域において強健なCFC税制が導入されていればその効果の大部分は減殺することができたとの指摘もある。少なくとも世界で最も厳格とされるCFC税制が適用される日本の産業界の立場からすれば、企業間の競争条件の均衡化とは、まずは不十分なCFC税制を有する法域における制度の見直しであるべきと信じる。その上で、CFC税制の重畳適用による二重課税の確実な防止・排除などの視点も踏まえれば、できるだけ各国のCFC税制の差異をミニマイズすることが理想であり、また、over inclusionとなっている制度については、一定の緩和を行うことも選択肢としては十分あり得ると考える。
他方で、各国はすでに様々な形態のCFC税制を採用しており、制度として定着していることも事実であり、単に各国の制度を画一的にコンバージェンスすれば良いというものでもない。例えば公開討議草案でも記述されている通り、CFC税制の設計に際し、EUはECJ判決との整合性を図らなければならず、OECD加盟国の相当数が欧州諸国であることを踏まえると、勧告はEUを意識したものとならざるを得ないと考えられるが、それらが他国の既存の制度とマッチするかについては十分な検証を要する。また、CFC所得の特定については、効率的なBEPS対策の観点からpartial inclusionであるべきとの方向性に異存はないが、その政策目的を達成するための手段にはentity approachを含め多様なアプローチがあって良いと考えられる。とりわけ、entity approachにはCFCに該当するかどうかの判断を簡潔に行うことができ、課税当局・納税者の双方にとって、簡便な制度と言える。各国で現に多様な制度が執行されているなかで、OECDが勧告すべきは、あくまでもBEPS対策の観点から実質的に有効なCFC税制についての考え方の整理であり、形式的に単一のベストプラクティスの勧告ではない。
また、いかなる制度も明確でワーカブルであり、企業のコンプイライアンスコストへの配慮が不可欠であり、ルールの適用が主観的とならないようにする必要がある。
こうした観点から以下のとおり意見を述べる。なお、本件はあくまでも期限に間に合わせるべく、短期間で検討を行ったものであることに留意されたい。日本経済界としては、引き続きCFC税制に関心を抱いており、今後、さらに意見等を伝える機会があることを期待する。
2.所得の定義のあり方について
(1)categorical approachの評価
公開討議草案のexcess profit approachと比較した場合には、categorical approachの方が対象となる所得が区分されており、BEPS対策の観点から真に問題となる所得を捕捉するというCFC税制の趣旨とも整合的である。また、所得について、能動的所得をCFC所得外、受動的所得をCFC所得と扱うOECDの提案は基本的な考えとしては理解できる。その際、実質分析を行うことになるが、能動的/受動的所得の判定については、当該企業の事業実態を考慮し、BEPSリスクの少ない企業については、企業の外形等からできるだけ簡便に判定を行い、事務負担等を軽減するかたちとすることが望ましい。また、金融・リース業など、その事業の性質から受動的所得と判断されやすい業種については、広く能動的事業による所得と認められるよう、各国において判断を統一するよう努めるべきである。
その点を踏まえた上で、より客観的な手法が望ましいことを考えれば、パラグラフ89の実質分析についてはEmployees and Establishment analysisに近い手法を採用することが適切かもしれない。
なお、公開討議草案のパラグラフ106、112では、販売所得とサービス所得を一律に受動的所得と扱うこととしたうえで、実質分析を行うとしているが、適切な事業実態を伴う企業において、販売/サービス所得が太宗を占めることを踏まえれば、このような提案は、BEPS対策のために過度に対象を広げるものであり、企業の事務負担も大きく増加するため、賛成できない。当該企業の事業実態等を勘案し、一定の閾値を超えない場合は、原則販売/サービス所得は能動的所得と扱うべきである。
また、保険については、その性質に基づき、何が受動的所得/能動的所得にあたるのか慎重に判断することが求められる。少なくとも、一定のグループ間取引、再保険取引等について、保険市場の特殊性から、能動的所得とすべき場合があることに留意すべきである。
あわせて、公開討議草案では勧告がなされていないが、組織再編時等にキャピタルゲインが生じる場合についても、配当・利子などと同様に、能動的な事業活動に係るキャピタルゲインは、BEPSに係る所得ではないことを明確にすべきである。グローバル経済のなかで、さらなる成長と競争力強化のために、多国籍企業が他の多国籍企業を買収することは稀ではない。このような状況で、グループ会社間でシナジー効果を生み出すために、買収側の企業が、様々な国に多数の子会社を有する被買収企業の資本関係を再構築しようとするかもしれない。ここでは、買収側の企業がグループ内の他の構成事業体に子会社の株式を移転する真正な事業上の理由があるのが明らかである。しかし、一部の国では、株式の移転等によるキャピタルゲインは、場合によってはCFC所得として分類されるかもしれない。そのため、能動的な事業活動から生じたキャピタルゲインについては、CFC所得として扱わないよう勧告すべきと考える。
(2)excess profit approachの評価
excess profit approachはリターン率、適格資本等の判断が不明確であり、課税当局と納税者との間で論争の種になることが予想される。さらに、リターン率については、企業活動の実態とは異なる想定を根拠に課税を行うおそれがある。そのため、現在の公開討議草案では、excess profit approachをベストプラクティスとして勧告を行うことには賛成できない。
なお、超過利得アプローチは主として軽課税国に移転したIP所得の捕捉を目的としているようだが、同じくIP由来の超過利得に着目した課税である所得相応性基準(BEPS行動8-10:特別措置オプション1)との関係については整理が必要と考えられる。重畳的な課税は避けなければならず、行動3(CFC税制)と行動8-10(移転価格税制)に係る最終勧告が一貫性のあるものとなるよう期待したい。
3.Building Block間の優先順位の明確化
課税当局・納税者の事務負担の軽減のために、はじめに形式的に判断できる論点を検討し、実質判断が必要な論点は最後に検討するという優先順位を明確化することが極めて重要である。このため、公開討議草案では、CFCの定義や閾値、支配の定義などの形式的に判断できる論点を優先することを明確化すべきである。
4.個別の論点について
(1)セカンダリールール
公開討議草案のP3で言及されているセカンダリールールの可能性は唐突感があり、公開討議草案で提案されているCFC税制とは別の課税を各国が導入しうるようにも読める。本記述については、情報が少ないので判断はできないが、一般的に言って制度の複雑化は避けることが望ましい。
(2)CFCの定義
公開討議草案のパラグラフ34では、CFCは一定のPEも含むと提案されていたが、PEについては、各国で認定に伴う取り扱いの差異や納税者と課税当局との主張の相違などが見られる。そのため、当該PEが現地で登記されるなど、取り扱いが明確になっている場合を課税の前提とすることが望ましい。
また、組織再編等で企業を買収した場合に、当該買収先企業の子会社等が意図せずCFCの対象となっていた場合についてまで、課税を及ぼすことは適切ではない。組織形態の再編のために、一定の猶予期間を設けるなどして、企業買収の場合についても配慮すべきである。
(3)閾値
公開討議草案のlow-tax thresholdを導入すべきとする勧告に賛成する。その際、閾値については、シンプルかつ明確なものが求められる。
各国の税率に基づき、トリガー税率を設定する場合、CFC適用法域との比較において、対象は著しいBEPSを想起させる低税率に絞ることが適切である。依然として法人実効税率が高止まりしている国がある中で、単に法定税率の75%以下とする整理には若干の違和感を覚える。親会社所在地国の法定税率の50%とすることが望ましい。
あわせて、実効税率の判定にかかる負担を軽減するため、BEPSの懸念が少ない国については実効税率の判定から除外する「ホワイトリスト方式」を導入することが望ましい。 また、公開討議草案のパラグラフ51では、「デ・ミニマス基準」について、導入に賛成も反対もしないとしているが、BEPS対策を充実させるとともに、事務負担を軽減する観点から、公開討議草案にあるように、アンチ・フラグメンテーションルールと組み合わせて、デ・ミニマス基準の導入を検討すべきである。
(4)支配の定義
支配の基準を50%超とした公開討議草案のパラグラフ65の支配の定義の水準に、基本的に賛成できる。支配の判定時期については、基本的に年度末で統一することが望ましい。また、パラグラフ65でunrelated resident partiesも支配の判定の対象になっているところ、例えば、CFCに第三国居住のパートナー法人との関係で50%ずつ出資していた場合に、支配の定義に該当しているかどうか調査するためには、非関連者も含め、パートナー企業の株主について調査する必要が生じるが、この場合、パートナー企業またはその株主がとりわけ上場企業であった場合には、当該上場企業の株主が非常に多岐にわたるため、調査することは極めて困難である。そのため、企業が調査等を行うべき範囲を明確化することが望ましい。
(5)所得計算のルール
所得計算については、公開討議草案のパラグラフ131では、親会社の所在地国のルールに従って計算するとされている。しかし、親会社の所在地国の税制に従って再計算するのは、対象となるCFCの会社数が多い場合には納税者に過大な負担が生じる場合もある。その観点から、親会社の所在地国の税制のみならずCFC法域の税制を選択できるオプション3(パラグラフ132)が必要となる局面があることにも留意すべきである。
(6)所得合算のルール
合算される所得の額の算定については、パラグラフ147で期末日を基準とするか、保有期間における所得を合算するという2つの選択肢を示しているが、課税所得の計算・合算の正確性や事務負担の軽減の観点から、保有期間に基づいた所得を合算するよりは、期末日を基準として合算することが適切である。
(7)二重課税の防止・排除
CFC税制における二重課税の防止・排除は極めて重要である。この点、公開討議草案のパラグラフ157では、二重課税を排除する手段として外国税額控除を挙げているが、そもそも二重課税が発生しないよう考え方を整理することが重要である。また、CFC税制については、二重課税が発生した場合の救済措置について、現行制度のもとで、十分に整備されていない。
この点、公開討議草案のパラグラフ159~162では、複数国でCFC税制が適用される場合には、CFCに近い法域から、CFCを適用するとしているが、各国間で課税方式・除外基準等が異なる場合、どの所得にCFC課税がなされたのか判別することは非常に困難であり、結果的に二重課税が発生するおそれが大きい。そのため、複数国間でCFC税制が適用される場合には、CFCに近い法域のみ課税権を有するという形で整理するという案も検討できるかもしれない。