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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 「法人税の改革について」に関する意見

2014年6月25日

税制調査会会長 中里  実 様
法人課税DG座長 大田 弘子 様

政府税制調査会 特別委員 佐々木 則夫

「法人税の改革について」に関する意見

今回の法人課税DGにつきましては、弊社株主総会と重なったために出席できませんので、書面により意見を提出させて頂きます。

6月24日に「経済財政運営と改革の基本方針2014」が閣議決定されましたが、今後の税制調査会における議論は、この中で示された法人税改革の内容に沿って、これを具体化させるものでなければならないと考えます。

本日、税制調査会法人課税DGに示された「法人税の改革について」では、「1. 法人税改革の趣旨」の中で、第1に立地競争力を高めるとともに我が国企業の競争力を強化するために税率を引き下げることを明記するとともに、第2に法人税の負担構造を改革することが指摘されており、加えて「単年度での税収中立である必要はない」とされていることは、誠にそのとおりであります。

一方、「経済財政運営と改革の基本方針2014」においては、「財源については、アベノミクスの効果により日本経済がデフレを脱却し構造的に改善しつつあることを含めて、2020年度のPB黒字化目標との整合性を確保するよう、課税ベースの拡大等による恒久財源の確保をすることとし」と述べられており、取りまとめ案においても、下線の視点についても十分に留意すべきであると考えます。

また、「2. 具体的な改革事項」の中では、今までの法人課税DGでは結論が得られていない項目、あるいは十分に審議が尽くされていない項目についても、断定的な結論であるかのように記載されている箇所がありますが、この段階における取りまとめとしては、法人課税DGにおける様々な意見を忠実に反映したものとすべきであると考えます。

その観点から、以下、気の付いた点について、改めての意見を含め指摘させていただきます。

2.具体的な改革事項

「経済財政運営と改革の基本方針2014」において「日本の立地競争力強化」「我が国企業の競争力強化」と述べられているように、法人課税において実質的な税負担軽減となることが必要であり、国際競争におけるイコールフッティングの視点が重要である。

なお、法人税改革の例としてドイツの2007~2008年の税制改革がよく挙げられるが、ドイツは法人税率10%引き下げと課税ベースの拡大を行いつつ、法人税の枠内ではネット減税を確保した点に留意すべきである。

(1)租税特別措置の見直し

租税特別措置(租特)は、その国が置かれた環境や、将来にわたり何をもって成長していくか、という国の方針を税制で支援するという重要な役割を果たすものである。しかし、例えば、科学技術立国、資源に乏しい国という視点からみても、わが国の税制措置は先進諸外国と比較して劣後している。各税制措置の内容が、わが国として必要な政策目的に沿ったものか検証し、特に、国際的な動向も十分に把握した上で、わが国の将来を支えるもの、国際的イコールフッティングを実現するために不可欠なものは維持・拡充し、政策に照らして役割を終えたものは廃止すべきである。単に適用件数の多寡や、金額ベースで特定の業種に利用が偏っていることだけをもって問題視すべきではない。

  • 基準1、及び基準2について
    政策税制の効果について不断に検証を行うことは当然だが、一方で制度の安定性という視点も極めて重要である。制度の頻繁な改廃は事業者の予見可能性を損ない、中長期的な投資を萎縮させる。政策効果の検証の結果、有用と認められるものについては、例えば平成24年度税制改正で期限の定めのある政策税制であった原料用途免税を実質恒久化したように、むしろ本則化・恒久化すべきである。

  • 基準3について
    租特の見直し基準として「不特定多数の適用を想定しながら、上位10社の適用が8割超の場合や適用が10件未満の場合」と示されているが、例えば資源・エネルギー、国際海運、災害復興等に係わる租特については、もとより「不特定多数の適用を想定」していたとはいえないことに留意すべきである。なお、これらの基準を適用すると、沖縄、国際戦略特区に係わる税制措置が廃止を含めた抜本的な見直しの対象となる。これらについては、事業者ではなく、むしろ政府の国家戦略が問われているのではないか。

  • 研究開発税制について
    平成26年度税制改正における増加型の拡充(及び一部縮減)、及び今回のペーパーからは、「試験研究費の増加」にこそ価値があり、税制上のインセンティブを付与する対象として相応しいとの発想が読み取れるが、わが国で研究開発活動を継続的に行うこと自体へのインセンティブとなっている総額型の果たす役割を過小評価すべきでない。研究開発税制をより良きものとするための議論には経済界として積極的に応じるが、産業競争力の強化の必要性、法人税率を引き下げつつ研究開発税制を拡充してきた諸外国とのイコールフッティング等も良く念頭に置くべきであり、廃止・縮減ありきの議論を行うべきではない。

(2)欠損金の繰越控除制度の見直し

  • 繰越期間について日本の9年というのは、欧州主要国の無期限、米国の20年に比べ劣後している。

  • 対日直接投資促進の観点においても、ACCJ意見書にて「欠損金繰越期間の延長を通じた投資の促進と経済成長の促進」が要望されているように、欠損金の繰越期間が短いことがグローバル企業におけるアジアでの立地選択において、競争上不利になっている。

  • よって、欠損金の繰越控除制度については、期間延長とセットで議論すべき課題と考える

  • また、「立証責任を納税者に転換する手法の採用も選択肢となる」とあるが、今までの法人課税DGでこのような意見でまとまったとは認識していない。

(3)受取配当等の益金不算入制度の見直し

  • 受取配当金への課税は、課税済みの所得の分配に対する二重課税となり、その整合性の確保が不可欠である。

  • 持株比率100%未満であっても、グループ経営の観点からすれば現行制度を維持すべきである。

  • 現行の持株比率25%で益金不算入制限を区切ることについては、25%未満であっても他企業とのアライアンス確保等の事業展開を行ったり、保険や商社のように低い持株比率で広く投資し配当で回収するという経営手法もあることから、企業経営の実態に即した運用可能な制度への見直しが必要である。

(4)減価償却制度の見直し

  • 減価償却制度の見直し自体を否定すべきではないが、過去の税制改正においては議論の末に定率法(250%、200%)が導入されてきた経緯もあることから、見直しに当たってはその理屈を整理する必要がある。

(5)地方税の損金算入の見直しについて

  • 法人事業税や固定資産税・都市計画税等は、その本質上、所得に課せられる法人税や法人住民税とは異なり、「事業」に対して課せられる税である。よって、損金算入できるのは税の性格上、自然なものであり、検討に当たっては理屈を整理した議論を行うべきである。

  • 法人事業税のうち、少なくとも利益に関連する金額を課税標準とはしない付加価値割及び資本割は、企業会計上も営業費用項目として処理することとされており、損金算入することが当然である。

  • 地方財政審議会の報告書でも、行政サービスに対する対価という法人事業税、固定資産税等の性格を踏まえ、その見直しは慎重に行うべきとされている。

(6)中小法人課税の見直し

  • 今までの議論の中で、軽減税率そのものを廃止するとの方向で意見がまとまったとは認識していない。中小法人が資本蓄積を進め、成長を遂げるためにも軽減税率は必要である。

(8)地方法人課税の見直し(法人事業税を中心に)

  • 地方の行政サービスに対する応益課税という意味では、法人住民税の均等割、固定資産税、事業所税など、所得に関わらずに負担する地方税全体のあり方をまず検討し、受益と負担の関連をきちんと整理すべきである。

  • 欠損法人に課税強化するのではなく、どうやって欠損法人を減らしていくのかが重要である。外形標準課税の安易な拡大は反対であり、特に労働市場のセーフティネットが整備されていない中で、地域の雇用の8割を支えている中小企業へは格別な配慮が必要である

  • 特に付加価値割については、賃金課税であり、雇用を増やすと増税となることから、雇用の維持・創出に悪影響が及び、安倍政権が進める政労使の取り組みにも逆行する。雇用安定控除を適用しても、賃金増加額の70%は課税対象となり、収益配分額に占める報酬給与額の割合が70%を下回る場合は、賃金増加額の100%が課税対象になる。

  • 国際的にみても、特に「賃金」を課税標準とする外形標準課税は、廃止、縮減の方向であり、国際的な潮流に逆行する外形標準課税強化は、安倍政権が進める対日直接投資促進の障害になるおそれがある。現行付加価値割の問題点も含め、全体を見た議論をすべきである。

3. 法人税の改革と併せて検討すべき事項

(1)BEPSプロジェクトを踏まえた国際課税の見直し

  • BEPSプロジェクトについては、経済交流の促進と適正な課税の確保という国際課税制度の本来の趣旨を踏まえたバランスの取れた議論を期待する。損金算入配当につき仮に配当免税を否認する場合には、それに伴い生じる二重課税(源泉地国における源泉徴収課税と日本における課税)を排除する措置を講ずるべきである。外国子会社合算税制については、BEPSプロジェクトと平行して、資産性所得の範囲のみならず、トリガー税率や適用除外基準のあり方なども含めた幅広い議論を行うべきである。

以上

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