税制調査会会長 中里 実 様
法人課税DG座長 大田 弘子 様
法人課税のあり方に関する意見
経済の好循環を継続していくためには、法人実効税率の引き下げがグローバル競争の中で不可欠であり、早急に25%程度まで引き下げるということを前提に議論をいただきたい。
1.租税特別措置に関する基本的考え
租税特別措置(租特)は、その国が置かれた環境や、将来にわたり何をもって成長していくか、という国の方針を税制で支援するという重要な役割を果たすものである。しかし、例えば、科学技術立国、資源に乏しい国という視点からみても、わが国の税制措置は先進諸外国と比較して劣後している。各税制措置の内容が、わが国として必要な政策目的に沿ったものか検証し、特に、国際的な動向も十分に把握した上で、わが国の将来を支えるもの、国際的イコールフッティングを実現するために不可欠なものは維持・拡充し、政策に照らして役割を終えたものは廃止すべきである。単に適用件数の多寡や、金額ベースで特定の業種に利用が偏っていることだけをもって問題視すべきではない。
また、租税特別措置法に定められているかどうかで制度の要否を判断するのは不毛な議論であり(移転価格税制や交際費損金不算入措置なども同法で定められている)、不可欠なものについては税法において本則化・恒久化を図るべきである(例えば、ナフサ等原料用途については本則非課税化が国際標準となっているにもかかわらず、日本では「期限の定めのない」租税特別措置に留まっていることから、本則化を図るべきである。)。
(1) 研究開発税制の本則化
諸外国でも法人税率を引き下げつつ、研究開発税制の継続・深掘りを同時に実施している。控除上限については英国やフランスは無制限であり、繰越期限については英国無期限、米国20年となっているが、日本の税制措置はこれらの面で劣後している【添付1】。また、日本のように租特ではなく、本法で恒久化されている例が多い【添付1】。日本は科学技術立国であり、成長戦略を実行する上で企業の研究開発が生命線であることから、研究開発投資を継続していく上で、特に恒久措置となっている総額部分は、不可欠の制度であり、縮減は絶対に行うべきでない。第四次科学技術基本計画で官民合わせた研究開発投資の対GDP4%以上を目標にしているが、研究開発税制が研究開発投資を約2.3倍押し上げているとの実証研究もあることや【添付2】、組織別研究費負担割合において日本は民間企業の占める割合が81%と、他国(英国:50.1%、ドイツ:66.4%、米国:67.5% 等)に比べ大きいことも忘れてはならない【添付3】。
(2) 資源関連税制(減耗控除等)の本則化・恒久化
わが国経済が持続的な成長を実現するためには資源・エネルギーの安定供給の確保が重要であるが、近年は探鉱開発費の高騰、資源獲得競争の激化、国際資源メジャーの寡占化、資源国のナショナリズムの高揚などにより、資源の安定供給確保は以前に比べ格段に困難さを増している(資源開発コストは2000年代当初の約2.5倍程度に増加)。このような切迫した状況の中、わが国の資源開発企業と資源メジャー等との財務力の格差は依然として大きい。わが国は「資源を持たざる国」であることを忘れてはならず、資源関連税制はわが国において必要不可欠である【添付4】。
(3) トン数標準税制の拡充
世界の主要海運国においては、1996年以降、トン数標準税制の導入が相次ぎ、同税制は海運業界の世界標準となっている。
わが国においても2008年より適用対象を日本船舶に限定したトン数標準税制が導入され、2013年4月からは一部の外国船舶(準日本船舶)にも対象が拡大されたが、その割合は全運航船の15.8%であり、全運航船(自国船舶・外国船舶)が対象である諸外国と比べ、依然として適用割合が著しく低い状況となっている。海洋立国・貿易立国であるわが国が、海洋におけるプレゼンスを確保しつつ持続的に成長していくため、また世界の成長をわが国に取り込むためには、わが国輸入物資(原材料・食糧等)の約7割を輸送している日本商船隊の競争力の維持・強化が必要であり、このため、徹底した国際競争条件均衡化の観点からの改善が不可欠である【添付5】。
なお、このほかにも法律上将来の費用に充当することが義務づけられている準備金があり、これは特定の政策目的のためのインセンティブ税制とは一線を画した措置であることに留意するべきである。
2.減価償却制度の見直し
減価償却は、資産の耐用年数にわたり、収益と対応する形で実態に即して費用配分が行われなければならない。償却方法によっても、償却の全期間(法定耐用年数)のうちに損金となる金額は変わらないとしても、投資コストの早期回収は企業の競争力に大きな影響を与える【添付6】。
また、償却資産に係る固定資産税について、特に機械装置への課税は米国やカナダの一部州などで行われているのみであり、わが国製造業が競合するアジア近隣諸国において例がなく、極めて稀な税となっている【添付7】。廃止を含め抜本的な見直しを行うべきである。
3.地方法人課税(事業税における外形標準課税など)の改革
法人実効税率の10%引き下げのためには、地方法人課税の改革が不可避である。
地方法人課税は地域間の偏在性が大きく、税収も不安定で地方税としては不適切であるばかりか、近年の改正で地方法人特別税や地方法人税が創設されるなど、より複雑化している。また、現行の自治体の区分を前提とする以上は、一部自治体を除き、その財源不足は解消の見込みはなく、自治体全体として地方税収を再配分することで、格差を是正する以外の道はない。
このため、地方法人課税の見直しにあたっては、単なる財源確保の観点からではなく、税の基本原則を踏まえ、個人住民税等も含めて地方税全体の見直しを行うべきである。地方法人特別税、法人事業税及び法人住民税の所得に対する課税部分は国税の法人税に統合し、交付税等により適切に配分することが偏在是正、効率性の観点からすれば望ましい。
事業税における外形標準課税の強化は赤字法人課税、給与課税の強化に他ならない。しかも税収の偏在是正には大きな効果は期待できない。所得割を縮減して、資本割、付加価値割を拡大し、見かけ上の実効税率を下げるといった手法では、全体としての実質負担は変わらず、議論の目的から外れている。ただし資本割については、課税されない事例も生じており、技術的な見直しは必要である。
外形標準課税を見直すのであれば、付加価値割の課税標準をより簡素化する、法人住民税均等割と併せた税として検討する、といったことが必要である。
4.法人税額(国税)と税引前利益の関係(業種別)
前回3月31日の法人課税DGで説明のあった掲題資料について、例えば製造業は5.1兆円の税引前利益があるにもかかわらず、欠損金の繰越控除や受取配当等の益金不算入、租税特別措置による軽減などの結果、2.8兆円の法人税額しか払っていないような印象を受けるが、資本金1億円超の利益計上法人で見てみると、製造業の法人税額は1.5兆円であり、それを法人数で割った1社当たりの平均では、製造業は3.9億円/社、うち化学工業は5.7億円/社、機械工業は3.5億円/社の法人税額を払っている計算になる【添付8】。法人数を考慮に入れない比較は、誤解を招く恐れがある。
5.欠損法人数について
日本の欠損法人割合が70%という数字が取り沙汰されているが、その原因の一つとみられるのは、米国よりも多い日本の課税対象法人数である。
先日の財務省資料では、米国のデータにおいて法人税が課税されないS法人が含まれており、一方、日本のデータにおいては、法人税が課税される法人のみが対象となっていたが、S法人の欠損は個人の損失として処理されるため、S法人自体には繰越欠損金は生じることはなく、繰越欠損金の損金算入後の欠損法人の数をカウントするにあたっては、S法人を対象にするのは誤解を招く恐れがある。
普通法人ベースで見ると、米国も欠損法人割合が70%となり、日本と類似する(2010年 利益法人:50万社、欠損法人:117万社)【添付9】。
6.欠損法人の税負担
欠損法人が全く税を払っていないかのような議論があるが、赤字でも、所得にかかわらずに負担する税(固定資産税、事業所税、住民税均等割等)、特定の歳出に充当される特定財源(石油石炭税(平成25年度予算約6,500億円)、電源開発促進税(同約3,300億円)、航空機燃料税(同約500億円)、等)などの負担すべき税が多いことを忘れてはならない。
例えば、所得にかかわらず法人が負担する税の対税収総額比は8.3%となっており、ドイツの1.3%、フランスの5.2%、英国の5.6%等他主要先進国と比べ高い割合となっている【添付10】。
7.企業の公的負担額(対GDP比)の国際比較
日本企業に対する公的負担は、米国・英国・ドイツといったビジネス上の競争相手にある諸国を上回る水準にある。
2010年の国際比較では、日本は8.3%(社会保険料事業主負担 5.1%、法人所得に対する税負担 3.2%)であり、米国5.4%、英国6.9%と比べ高く、スウェーデン12.1%より低い状況であったが、2011年度には8.8%(社会保険料事業主負担 5.4%、法人所得に対する税負担 3.4%)に上昇し、米国・英国・ドイツとの差が開く一方、スウェーデン(10.7%)との差が縮まる状況となっている【添付11】。企業がボーダーレスとなっている現在、制度のイコールフッティングが極めて重要である。