国際会計基準審議会(IASB) 御中
米国財務会計基準審議会(FASB) 御中
企業会計委員会企画部会
改訂公開草案「リース」に対するコメント
我々経団連は、現行のリース基準を改善し、オフバランスとなっている重要な取引をオンバランス化することにより、財務情報の透明性を向上させようとするIASB及びFASBの努力に敬意を表する。そして、改訂公開草案「リース」(以下、「再ED」)に対するコメントの機会を歓迎する。
日本では、2010年3月期よりIFRSの任意適用が開始され、政府はその拡大に向けた施策を講ずるとともに、経団連でも、円滑な拡大に向けた支援活動を継続しているところである。また、日本では30社程度の企業が米国基準を適用している。日本におけるIFRSの適用拡大と米国基準の継続的な適用を可能とするためには、新たな基準が、理論的にも実務的にも受け入れ可能であり、リース取引に対して中立な会計基準である必要がある。リースはほとんど全ての企業に影響を及ぼす重要な基準であり、財務諸表作成のコストと利用者のベネフィットのバランスを図るよう、市場関係者の意見を十分に検証の上、慎重な対応を要望する。
I.再EDに対する我々の全般的な意見は以下の通りである。
再EDは、基本的に短期リース以外の全てのリース契約のオンバランスを求める結果、全体を通じて財務諸表作成者に過度な負担を強いる内容となっている。再EDによる主要な改善の目的は、リース契約の「ストラクチャリング」による重要な資産・負債のオフバランス防止にあると考えられることから、重要なリース取引のオンバランスに焦点を当てれば目的は達成すると考える。事実、日本の東証1部に上場する1700社の財務諸表に注記されているオペレーティングリースに係る未経過リース料は約17兆円であり、総資産総額に占める割合は1%に過ぎず、また、その8割強は上位100社に集中している(リース事業協会調べ・2013年)。こうした事実を踏まえれば、重要性の無いリース取引にまで、複雑な基準の適用を求めることは社会的なコスト増大につながる。
また、リース契約には様々なサービス提供が付加される場合が多いが、再EDではこの点に関する取扱いが不明確なままであり、実務上、リース部分とサービス部分との区分けが困難であるとともに、結果としてサービスについても資産及び負債を認識するという不適切な会計処理が求められている。
加えて、再EDにおける、リースの分類及び借手の会計処理に関し、取引の実態に合致せず、理論的にも問題があり、強い懸念を持っている。すなわち、リースの分類では、原資産が不動産かどうかにより分類を行うこととされているが、結果として、不動産以外のリース取引の多様性を十分に反映しない分類となっている。また、借手の会計処理では、「タイプB」の使用権資産の事後測定(償却)が理論的に説明のつかない数値となるなど、問題が多い。
再ED公表の大前提となる財務諸表利用者の真のニーズがどこにあるのかという点も明確でない。また、実際のリース取引や作成者の実務に当該基準を適用した場合の社会的なコスト・ベネフィットやリース取引への影響の検討も不十分と思われる。
上記より、再EDは、さらに幅広い関係者の意見を聴取したうえで、再度、内容を見直す必要があると考える。
II.質問事項に対する我々の意見は以下の通りである。
質問1:リースの識別
本改訂公開草案は、リースを「資産(原資産)を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」と定義している。企業は、ある契約がリースを含んでいるのかどうかを、次のことを評価することにより判定することになる。
(a) 当該契約の履行が特定された資産の使用に依存するかどうか
(b) 当該契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうか
契約は、顧客が特定された資産の使用を指図する能力及びその使用から得られる便益を受け取る能力を有している場合には、資産の使用を支配する権利を移転する。リースの定義及び契約がリースを含んでいるのかどうかを企業が判定する方法に関する第6項から第19項の要求事項案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、リースをどのように定義するのか。リースの定義案の適用が困難であるか又は取引の経済的実態を反映しないという結論に至ると考える具体的な事実関係があれば、示していただきたい。
≪回答≫
「リースの識別」については、前回の2010年EDの提案から改善されてはいるが、以下の様に、リース取引とサービスの区分に係る規定ぶりに問題があり、再EDの提案のままでは同意できない。
- 第23項(b)(ii)及び(c)に、リースが含まれている契約において、その構成部分の一部又は全部の観察可能な価格がない場合に、構成部分を合算し単一のリース構成部分として会計処理することが示されている。サービス部分がリース部分に対して小さくない場合において、サービス部分について、借手において使用権資産及びリース負債が認識されるのは適切ではない。このような場合は全体としてリースとして処理するのではなく、主要な構成部分がリースとサービスのいずれかなのかを考慮して、全体としてリース又はサービスとして会計処理すべきである。
- 不動産賃貸のうち、基本的に「購入の代替手段」とはなりえず、サービス取引に近い性質を持つ契約については、リースとして資産・負債は計上されるべきではない。あらゆる不動産賃貸について、リースとして資産・負債がオンバランスするのではなく、限定的にオンバランスするのはどのような場合かについて整理すべきである。
【その他改善・明確化すべき点】
- 結論の根拠BC116(c)において、同一契約の中で、リース構成部分と非リース構成部分とに区別できない場合の考え方が示されている。契約をリース構成部分と非リース構成部分とに区別できるかは、リースの識別の第1ステップであり、基準本文の「リースの識別」の章の7項の前に規定すべきである。
- 設例1A、設例3、設例4は、いずれも契約に、リース構成部分と非リース構成部分を含んでいると結論付けているが、その根拠を明確にして頂きたい。
- 契約開始時に、7項(a)と(b)を評価して、当該契約にリースを含むかどうかを判定することを要求している。7項(b)の「契約が特定された資産の使用を支配する権利を移転すること」の要件として、12項に(a)及び(b)の規定があるが、実務の円滑な運用のために、IFRIC4号の第9項(b)の規定に相当する記述である「顧客が資産に直接アクセスできる旨」を追加して頂きたい。
- 12項(b)の具体的な要件が18項及び19項に記載されている。設例1A及び設例4Aでは、いずれも12項(b)についての説明がなされているが、その要件の1つである18項のみに言及しており、19項についての言及が無い。19項についても言及して頂きたい。
- 契約の構成部分の区分(20項、23項等)に関する設例を充実させて頂きたい。
質問2:借手の会計処理
リースから生じる費用及びキャッシュ・フローの認識、測定及び表示は、借手が原資産に組み込まれた経済的便益の重大でないとはいえない部分を消費すると見込まれるかどうかに応じて、異なるリースについては異なるものとすることに同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような代替的なアプローチを提案するか、その理由は何か。
質問4:リースの分類
原資産に組み込まれた経済的便益についての借手の予想される消費に関する原則を、第28項から第34項に示した要求事項を用いて適用すること(原資産が不動産であるかどうかによって異なることとなる)に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような代替的なアプローチを提案するか、その理由は何か。
≪回答≫
「リースの分類」及び「借手の会計処理」について、強く反対する。再EDにおいては、以下の【主たる問題点】の様に本モデルの根幹に関わる根本的な問題点が多く存在する。
我々は、【主たる問題点】を解決するための【代替案】として【代替案(1)】及び【代替案(2)】を提示する。これらの代替案を含め、市場関係者の意見を十分に聴取の上、再度の見直しを強く要求する。
【主たる問題点】
- 「リースの分類」では、例外はあるものの、不動産以外のリースの大半が「タイプA」に分類され、BSオンバランス、PLでは前過重の費用処理となる。しかしながら、原資産が不動産ではないリースの中でも、原資産の購入に近いものから、サービス取引に近いものまで様々であり、このようなリースの多様性を財務諸表に反映できない。
- 「リースの分類」に関して、「経済的便益の重大ではないとはいえない部分を消費すると見込まれるかどうか」をメルクマールとして「タイプA」と「タイプB」に分類されるが、具体的な「閾値」が示されていないために、実務上の判断に著しい混乱をきたす。
- 「借手の会計処理」では、短期リース以外はBSオンバランスを要求している。この中には、大部分の不動産の賃貸借のように、およそ「購入取引の代替手段」とは考えられない取引や、解約不能期間のないリース取引も含まれる。このような取引にまで使用権資産を認識することは、取引の実態に合わず、これまでの「資産」の概念にもそぐわない。また、重要性の乏しいリースについても、コスト・ベネフィットの観点から、BSオンバランスを不要とすべきであるが、明確な記載が無い。
- 「借手の会計処理」に関して、「タイプB」における使用権資産の償却費は、資産の費消に基づいて計算されたものではなく、また、経年で「逓増」するという概念的には全く説明不可能な会計処理となっている。その結果として計上される使用権資産の簿価も会計上意味の無い数字となる。加えて、このような会計処理をするにあたっては、実務上非常に複雑な計算を要する。
【代替案(1) 再EDの提案をベースに改善を加える案】
「リースの分類」及び「借手の会計処理」における再EDの提案の核は、「重要性の高いオペレーティングリースについても、ファイナンスリースと同様にBSにオンバランスする」「不動産は、他の原資産とは財の性質が異なるため、別途の取扱いとする」という2点であると考える。これらの2つの提案の核を尊重しつつ、上述の【主たる問題点】を克服するためには、次の様に「リースの分類」及び「借手の会計処理」を改善すべきと考える。
- 質問1で述べたように、不動産賃貸は、原則的に本提案の範囲外とする。例外的にオンバランスすべきとされた取引のみ、本提案の対象とする。
- 1. で除外した以外の全てのリース取引のうち、解約不能期間が無いリースについてはPL賃貸借処理とする。また、短期リースについては、賃貸借処理が許容されているが、規定ぶりに問題があり、下記の【その他のコメント】(2)にしたがって、改善をお願いしたい。加えて、重要性の乏しいリースについては、作成者の実践可能性確保の観点から、【その他のコメント】(1)にしたがって、賃貸借処理が許容されることを明確化して頂きたい。これらの解約不能期間がないリース、短期リース、重要性の乏しいリース以外のリースをBSオンバランスの対象とする。
- BSにオンバランスされる取引については、現行IAS17号に従って、2区分に分類する。(現行IAS17号でのリースの分類及び会計処理が、多様なリース取引の実態を適切に表しているため。)そこで、「ファイナンスリース」に該当すれば、再EDの「タイプA」の処理を行う。「オペレーティングリース」に該当すれば、支払リース料総額を(割り引かずに)BSにオンバランスし、リース期間にわたり定額費用処理とする。
- 尚、分類方法について、IAS17号ではなく、再EDで示されている「経済的便益の重大ではないとはいえない部分を消費すると見込まれるかどうか」の考え方を用いて分類することも考えられるが、その際には、閾値を明確化することが必須である。米国基準で示されている数値基準が有用かつ合理的であり、「リース期間が、原資産の経済的耐用年数全体の概ね75%を超える場合」又は「リース料総額の現在価値が、開始日現在の原資産の公正価値の概ね90%を超える場合」に「タイプA」の会計処理を行うこととする。
【代替案(2) 現行IAS17号の改善に留める案】
IASBは、「リース」の検討において、財務情報の透明性を向上させるために、「使用権モデル」という単一モデルを検討してきた。この点について、経団連としても2010年のEDでは基本的には賛成の立場であったところである。
しかしながら、1モデルを提案した2010年のED、2モデルを提案した今回の再EDのいずれにおいても、リース取引のBSオンバランスによって「ストラクチャリング」の回避こそ達成されるが、基準開発にとって何よりも肝心な「経済実態を適切に会計処理に表す」ことは達成されておらず、また、「作成者にとっての実務上の実践可能性」も確保されていない状況である。(2010年EDについては添付の当時の経団連コメントを、今回再EDについては【主たる問題点】を参照のこと。)それに対して、IAS17号は、「作成者にとっての実務上の実践可能性があり」、かつ、「経済実態を適切に表現している」基準であり、財務諸表作成者として特段の問題を感じていない。
よって、新モデル開発によるベネフィットがコストを上回る可能性が低い現在の状況においては、新モデルによる抜本的な変更を行うのではなく、現行IAS17号の枠の中で、開示内容を工夫する等により、「ストラクチャリング」を回避する手立てを講じることも検討すべきと考える。
【その他のコメント】
(1) 重要性の判断(「重要性の乏しいリース」の判断)について(BC405)
BC405において、「IASBは、借手はリースについて有形固定資産項目と同様の重要性の閾値を適用すると予想している。これにより、借手は、有形固定資産項目に適用されるのと同様の基準により、重要性がないと考えられるリースには、本提案を適用しない」としているが、有形固定資産の資産化は、財務諸表報告単位金額未満の少額であっても広く対象とする実務であることから、借手に膨大な負担を課す一方で、重要な財務情報の改善に繋がらない。BC405を削除し、「BSオフバランスの対象を、借手の財務諸表全体における金額的重要性の判断に基づき、借手自身が判断する」旨を基準本文に明記頂きたい。(2) 短期リース(本文118項~120項、付録A定義、設例11)
短期リースは、「開始日において契約により可能な最大限の期間が、延長オプションも含めて、12ヶ月以内であるリースとし、購入オプションを含んだリースは短期リースではない」と定義されている。再EDの短期リースの定義では、判定の複雑さにより企業に負担を強いるとともに、事実上ほとんどのリースのオンバランスが求められることになり、救済措置としての意味をなしておらず、強く反対する。短期リースを「リース期間」と整合的に定義するべきである。
尚、BC298項では、このような定義とした背景として「ストラクチャリング」が行われる懸念を指摘している。しかし、そのような懸念は杞憂である。BC110項にも記載があるとおり、懸念されているような「ストラクチャリング」が行われた場合、貸手はリース資産投資の未回収リスクの大部分を負うことになり、また、借手は貸手がリース資産投資の未回収リスクを負うことに対する補償として、経済合理的な適正価格よりも割高なリース料を支払うことになるからである。よって貸手・借手が共謀して「ストラクチャリング」を行う懸念は無用である。そもそも、取引の経済的実態を顧みず、「ストラクチャリング」の懸念を前面に出して基準を作成することは、会計基準の品質の低下をもたらす。(3) リース負債の見直し(本文44項)及び割引率の見直し(本文45項)
本文44項において、リース料総額の見直しを求めているが、その要件として「(b)借手が原資産を購入するオプションを行使する重大な経済的インセンティブを有するか有しないこととなる関連性のある要因」に「変化がある場合」とあるが、関連性のある要因は重要性に拘わらず常に変化しているため、「重要な変化がある場合」と改めるべきである。この点は、44項の「(a)リース期間」について、27項(a)を参照する場合も同様である。
また、これらと同様の趣旨から、45項の「変化がある場合」も、「重要な変化がある場合」と改めるべきである。(4) リースの分類の追加的要件(29項(a)、30項(a))
リースの分類の追加的要件のリース期間における規定について、タイプAでは「原資産の経済的耐用年数全体」とリース期間とを比較、タイプBでは「原資産の残りの経済的耐用年数」とリース期間とを比較するとしており、タイプAとタイプBとで整合していない。理論的な整合性が無い規定であり、かつ、実務対応が複雑になるという問題もあり、再検討を要する。(5) タイプAの償却方法(47項他)
タイプAの使用権資産の償却は、本文47項において定額ベースとしながら、ただし書きで、「別の規則的な方法の方が、借手が使用権資産の将来の経済的便益を消費すると見込んでいるパターンをより適切に表す場合を除く」としている。また、BC185項では、「タイプAのリースについては、借手は各期間の償却を、償却原価で測定される非金融資産についての現行のIFRSと整合的に決定することになる」と規定している。
使用権資産は、使用する「権利」を資産化したものであり、償却方法は、通常の購入資産の償却と整合させることは必ずしも実態には合わないと考えられる。従って、BC185項を削除頂きたい。加えて、本文47項のただし書きを、「ただし、別の規則的な方法の方が、借手が使用権資産の将来の経済的便益を消費すると見込んでいるパターンをより適切に表すことが推定される場合には、当該他のパターンを用いることが出来る」と改めて頂きたい。(6) 使用権資産の減損の戻入
本文41(b)項、51項、BC187、BC188において、IAS36号「資産の減損」を適用するとある。借手の使用権資産を必要な場合に減損処理することは、保守的見地から反対しないが、IAS36号が適用されるので、減損の戻入を求めると解される。しかしながら、減損の戻入を求めることについては以下の理由から反対である。- 減損の戻入自体、米国基準・日本基準で禁止している。
- (タイプBの会計処理が改善されない場合)タイプBにおける使用権資産の償却は、差額処理であり、IAS36号が求める減損戻入後の会計処理(IAS36号、121項)とは異なるものであり、IAS36号のルールを改訂しない限りそのまま適用できない。
(7) 当初直接契約コスト(本文40項、69項、B10、B11)
借手、貸手において、それぞれ使用権資産、あるいはリース債権に含めることとされるが、この原価計算は容易ではない。「重要な当初直接コスト」に限定すべきである。(8) リース据付費
借手においてリース据付費が生じる場合の会計処理が規定されていない。原資産の建設または設計に関する借手のコスト(B12~B14)とも異なるものであり、取扱いを明らかにして頂きたい。(9) 敷金の処理・原状回復義務
日本では、不動産賃貸において敷金を借手が負担する慣行が広く行われている。また、関連して、不動産賃貸においては、借手が原状回復義務を負うケースも多いが、これらの処理への言及がないので何らかの形で取扱いを明らかにして頂きたい。尚、BC17~BC19には、原資産を貸手に返還する義務は、概念フレームワークの負債の定義に該当しないとされているが、原状回復義務については言及がない。
質問3:貸手の会計処理
貸手が、借手が原資産に組み込まれた経済的便益の重大でないとはいえない部分を消費すると見込まれるかどうかに応じて、異なるリースについては異なる会計処理アプローチを適用することに同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような代替的なアプローチを提案するか、その理由は何か。
≪回答≫
「貸手の会計処理」について、同意しない。特に、タイプAの会計処理について大幅に変更されたが、次の理由で賛同できない。
【主たる問題点】
- 本再EDでは、原資産の性質に基づきリースを分類することが提案されているが、貸手特有の原資産に対する便益やリスクが考慮されておらず、本分類によると、リース取引の経済的実態が適切に反映されない。
- リース開始日時点で、原資産の公正価値を計算しなければならないが、計算が煩雑であり、手間がかかる。
- リース開始日に、リース資産の公正価値が帳簿価額よりも高い場合は、利益を計上することが求められるが、リースの開始日に利益を計上することには合理性が乏しい。また、リース開始時点で利益を計上する場合、貸手において将来的に損失が発生するリスクが高くなる。
- 現行のファイナンスリース取引について、残存資産の重要性は極めて乏しく、煩雑な残存資産の計算を行ってまで、リース債権と残存資産を区分する意義は乏しい。
【具体的提案】
貸手の会計処理について、現行IAS17号における問題点は指摘されていない。むしろ再EDの提案は、【主たる問題点】に記載されている様に、作成者に煩雑な会計処理を強いる一方で、利用者にとっての財務情報の有用性が高まるとは思われない。従って、貸手の会計処理を、IAS17号から変更する必要は無い。
仮に改正を行うとしても、下記の様に、作成者の実務負担を低減する配慮が必須である。
- 公正価値については、通常の場合、貸手の参照可能な販売価額を用いることが可能であることを明記する。
- 借手のリース資産の公正価値と帳簿価額が大きく異ならない場合は、リース開始日に利益を認識する必要がないようにすべきである。また、そのように見込まれる場合は、リース資産の公正価値の評価を不要とする。
【その他のコメント】
(1) リース料総額の見直し(本文79項)、割引率の見直し(本文80項)
質問2・4の【その他のコメント】(3)と同様の趣旨から、79項及び80項の「変化がある場合」を「重要な変化がある場合」に変更すべきである。(2) リース開始時の「利益」
68(d)項、91項においては、「損益」と記載され、73項、74項においては「利益」の場合のみとの記述であり、相互の平仄が合わないので明確化すべきである。(3) 現在の米国基準では、製造業者・販売業者がリース子会社に製品を売却して第3者にファイナンスリースとしてリースするケースは、連結上セールスタイプリースとする取扱いであるが、この点の取扱いが再EDには言及がなく、明確にして頂きたい。
(4) BC229で使われている「原価ベース」の用語は、他の基準で使われている意味とは異なった意味合いで使われており、理解が容易でない。基準の理解の促進のために、例えば、「未実現利益控除ベース」などの用語に変更すべきである。
質問5:リース期間
リース期間に関する提案(関連する要因の変化があった場合のリース期間の見直しを含む)に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、借手及び貸手がリース期間をどのように決定することを提案するか、その理由は何か。
≪回答≫
「リース期間」に関する提案について、同意しない。
再EDでは、借手が更新(解約)のオプションを行使する(しない)「重大な経済的インセンティブ」を有しているかどうかにより、リース期間に更新(解約)のオプション期間を加えるかどうかを判断することとされている。
再EDの結論の根拠において、「重大な経済的インセンティブ」は、2010年公開草案における「生じる可能性の方が高い」よりも、高い閾値である(BC171)と記載されており、現行IAS17号の「合理的に確実な」の概念と類似の閾値を提供する(BC140)とあり、実務に対する一定の配慮がなされたことは理解している。
しかしながら、「重大な経済的インセンティブ」の概念は、関連性のあるすべての要因を考慮したとしても、実務的には、その評価は極めて主観的なものにならざるを得ない。従って、リース期間の判定にオプションの評価を加えることは、信頼性及び比較可能性の観点から大きな懸念があり、慎重であるべきである。
仮にリース期間にオプションを含めるとしても、確度の高い場合に限るべきである。そこで、その場合には、「重大な経済的インセンティブ」は、現行IAS17号の「合理的に確実な」に類似する高い閾値を提供する(BC140)と規定されているので、「重大な経済的インセンティブ」を「合理的に確実な」に置き換えることで、確度の高い場合に限ってリース期間にオプションを含めることを明確化すべきである。加えて、設例・ガイダンスにおいて具体例を示すべきである。
また、作成者の実務負荷を低減するために、27項(a)の「関連性のある要因の変化」を「関連性のある要因の重要な変化」に変更して頂きたい。
質問6:変動リース料
変動リース料の測定に関する提案(リース料の算定に使用される指標又は率の変更があった場合の見直しを含む)に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、借手及び貸手が変動リース料をどのように会計処理することを提案するか、その理由は何か。
≪回答≫
「変動リース料」に関する提案は、前回のEDから改善されており、同意する。但し、「(c)変動リース料のうち実質的な固定支払であるもの」の範囲が未だ不明瞭であるため、ガイダンス等での明確化をお願いしたい。
質問7:経過措置
C2項からC22項では、借手及び貸手は、リースの認識及び測定を、表示する最も古い期間の期首において、修正遡及アプローチ又は完全遡及アプローチのいずれかを用いて行うことになると述べている。当該提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような経過措置を提案するか、その理由は何か。両審議会が検討すべき追加的な経過措置の論点はあるか。その場合、その内容及び理由は何か。
≪回答≫
「経過措置」に関する提案については、同意しない。「修正遡及アプローチ」も認められ、実務上の負荷を考慮した内容となっているが、再EDで、借手にとってオペレーティングリースの処理が大きく変更されることへの実務負荷が非常に大きいことから、更なる実務上の便宜が必要である。具体的には、「新基準を適用日以降に締結した契約について適用すること」「既存の契約についても新基準を適用するものの、適用日以降、将来にわたって適用すること」「初度適用でない場合には、比較財務諸表の最も新しい会計期間の期首における財政状態計算書から適用すること」などを検討してほしい。
また、初度適用企業にも配慮頂きたい。例えば、発効日までの期間にIFRSを初度適用する会社にとっては、短期間に、自国のGAAP、IAS17号及び新基準と3通りのリースの会計処理を行わなければならないという弊害が生じるため、発効日以前に早期適用できるといった経過措置が必要と考えられる。
また、「適用時期」についても、作成者にとって過重な負担とならないように、実務に配慮し、十分な準備期間を設定すべきである。最低でも3年程度の準備期間を設定すべきであると考える。
質問8:開示
第58項から第67項及び第98項から第109項では、借手及び貸手に対する開示要求を示している。それらの提案には、次の事項が含まれている。割引前のリース料の満期分析、財政状態計算書に認識された金額の調整表、リースに関する記述的開示(変動リース料及びオプションに関する情報を含む)などである。これらの提案に同意するか。賛成又は反対の理由は何か。反対の場合、どのような変更を提案するか、その理由は何か。
≪回答≫
「開示」に関する提案について、強く反対する。本再EDの最大の主眼は、財務情報の透明性確保のために、リース取引をBSにオンバランスすることにあると考えており、そうであれば、むしろ開示については従来よりも削減されて然るべきであるが、より強化されていることに、作成者として大きな懸念と強い違和感を感じている。
まず、中間財務諸表における注記は不要とすべきことを、本基準に明示すべきである。加えて、本文58項及び98項に、借手・貸手に関する「下記のすべてに関する定性的情報及び定量的情報を開示しなければならない」としているが、「下記の定性的情報及び定量的情報のうち重要な事項について開示しなければならない」と変更すべきである。その上で、以下の開示は、コスト・ベネフィットの観点から同意出来ないので、削除頂きたい。
【削除願いたい開示】
- (借手)リースの内容に関する情報:変動リース料の算定基礎及び契約条件、当該リースを延長又は解約するオプションの存在及び契約条件、借手が提供している残価保証の存在及び契約条件(本文60項(a))
<理由> 多くのリース契約を有する企業がこのような開示要件を網羅するのは非常に困難である。投資家にとっても有用性に疑問がある。 - (借手)使用権資産の調整表(本文61項)、リース負債の調整表(本文64項)
<理由> 多大なコストがかかるが、ベネフィットは限られている。現行のリース会計ではこのような調整表は要求されていない。 - (借手)リース負債の満期分析(本文67項)
<理由> 他の有利子負債と同様に、1年超5年以内をまとめた金額の開示で十分である。リース負債だけに詳細な開示を求める合理性は無い。 - (貸手)リースの内容に関する情報:変動リース料及び延長・解約オプションに関する情報(本文100項(a))
<理由> 貸手が多数のリース契約を有する場合、このような開示要求を満たすのは非常に困難である。投資家にとっても有用性に疑問がある。 - (貸手)リース債権(本文103項)と残存資産の調整表(本文104項)
<理由> 多大なコストがかかるが、ベネフィットは限られている。 - (貸手)リース債権及び(タイプBの)リース料の満期分析(本文106項・109項)
<理由> 他の債権と同様、1年超5年以内をまとめた金額の開示で十分である。リース債権のみに過大な開示を要求する合理性は無い。
質問12(IASBのみ):IAS第40号の結果的修正
IASBは、本改訂公開草案における提案の結果としての他のIFRSの修正を提案しており、これにはIAS第40号「投資不動産」の修正が含まれる。IAS第40号の修正では、不動産のリースから生じた使用権資産は、リースされている不動産が投資不動産の定義に該当する場合には、IAS第40号の範囲に含めると提案している。これは、現行のIAS第40号の範囲からの変更となる。現在は、オペレーティング・リースに基づいて保有している不動産が投資不動産の定義に該当する場合に、投資不動産としてIAS第40号の公正価値モデルを用いて会計処理することを認めているが、要求はしていない。
使用権資産は、リースされている不動産が投資不動産の定義に該当する場合には、IAS第40号の範囲に含めることに同意するか。反対の場合、どのような代替案を提案するか、その理由は何か。
≪回答≫
IAS第40号(投資不動産)の結果的修正についての提案に、同意しない。投資不動産のリース取引についての使用権資産をIAS第40号の範囲に含めることまでは同意するが、公正価値の開示については、以下の理由から要求すべきではない。
- 投資不動産のリース取引に係る実務が十分確立されていない中で、公正価値での開示を求めることは、作成者に多大な実務負荷が生じる。
- 投資不動産のリースによって保有する使用権資産は原資産に組み込まれた経済的便益の重大ではない部分の消費にすぎず、利用者にとっても有用な情報にはならない。
- 以上より、ベネフィットがコストを上回るとは考えられず、公正価値での開示を求めるべきではない。