一般社団法人 日本経済団体連合会
目下、政府・与党は、国土強靭化(ナショナル・レジリエンス(防災・減災))を重要政策の柱と位置付け、積極的に推進している。与党は「防災・減災等に資する国土強靭化基本法案」を国会に提出し、秋の臨時国会で法案が審議される見込みである。また、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる骨太の方針においても、「行政・経済社会の重要機能に係る致命的損傷を回避すること等の事前防災・減災の考え方に立ち、政府横断的な国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)への取組みを行う」ことが明記されている。
わが国は現在、東日本大震災の復興に向けた取組みを進めているが、加えて、首都直下地震や南海トラフ巨大地震をはじめとする自然災害リスクを抱えている。今夏には日本各地で記録的豪雨により甚大な被害がもたらされた。事前防災・減災、インフラの維持・管理・更新などにも対応したナショナル・レジリエンスへの総合的な取組みは急務である。
かかる観点から、経済界は、政府・与党が推進するナショナル・レジリエンスの取組みを大いに評価する。「国土強靭化基本法案」ならびに関連法案を早期に成立させるとともに、秋以降策定される「国土強靭化政策大綱」等の施策がより実効性のあるものとなるよう、産業競争力強化・地域活性化の観点も踏まえつつ、下記の視点を反映することを要望する。
また、経団連では、引き続き、地域基盤強化に関する具体的課題について、検討を深めていく。
1.国主導による基本方針の策定と優先順位付け
国が、ナショナル・レジリエンスに係る基本方針を策定し、国家機能や広域にわたる被害をもたらすリスクへの対応に主導的な役割を果たすべきである。その際、わが国の厳しい財政状況や少子高齢化の進展を踏まえつつ、また、リスクの影響の大きさと緊急度に照らして、優先順位を設定し、施策を重点化することが重要である。
国全体として、効率的・効果的な施策となるよう、運輸・物流・観光などへの活用も視野に入れて、インフラの整備に取り組む必要がある。また、その際、諸手続きの簡素化が求められる。
<優先・重点化すべき項目>
- 東日本大震災からの復興を最優先する。
- 国民生活と経済活動の継続性確保や活力向上の観点から、高規格幹線道路、主要港湾・空港など基幹インフラの整備とミッシングリンクの早期解消を優先する。また、災害時にも、交通ネットワークによる輸送等の代替性やエネルギー供給を確保し、わが国企業のサプライ・チェーンを維持することが求められる。
- 建設後50年以上経過する社会資本の割合が今後20年間で加速度的に増加し、重大な事故や致命的な損傷等に至る可能性が飛躍的に高まることが予想される。インフラの経年劣化対策で相当な予算が必要であると見込まれるため、財政制約を踏まえた上で、インフラの補修・維持管理に係る予算を確保すべきである。
2.地域の関与のあり方
国のナショナル・レジリエンスに係る基本方針の下、地域は、国の基幹インフラとの連続性・ネットワーク性を強化しつつ、災害への対応力の向上を図るべきである。中長期的な道州制の導入も見据え、地域の柔軟な発想を活かした地域主体の取組みや県域を越えた連携の促進が求められる。
また、地方で急速に進む過疎化を踏まえ、インフラ集積の観点から、コンパクト・シティ化を推進することが重要である。
3.イノベーションによる効率化と先端技術の活用
インフラの維持管理に際しては、画像情報・センサー、遠隔管理によるメンテナンス等の最新のICT技術を積極的に活用し、老朽化等による事故を未然に防止するとともに、維持管理を効率化することが求められる。あわせて、インフラの工期短縮、維持管理技術の向上に係る研究・開発を支援していくことが重要である。
4.ハード・ソフトの連携の推進
災害に強いレジリエントな社会を構築するためには、インフラ等のハード面の整備とあわせ、国民の防災意識の向上、防災教育・訓練の充実など、ソフト面での取り組みの強化が不可欠である。国は、企業や地方自治体、ならびに、学校、自治会など地域社会と円滑に連携ができるよう、平時から大規模災害発生時の協力のあり方や各主体の役割分担を取り決めておくなど、リスクコミュニケーションの充実を図るとともに、官民がリアルタイムで情報共有できる統合情報基盤を整備すべきである。
5.民間活力を積極的に引き出すための環境整備
わが国の厳しい財政状況や少子高齢化社会のさらなる進展を踏まえ、PPP/PFIの大胆な活用により、民間の資金や知恵を活かした効率的な整備・運用をはかることが重要である。「日本再興戦略」においても、「PPP/PFIを活用することで大胆に民間の資金や知恵を導入し、より安全で、より便利な、より強靭な社会インフラを効率的に整備していく」とされており、PPP/PFIの活用拡大に向けた政府の積極的な後押しを期待したい。
また、ナショナル・レジリエンスを推進していく上では、企業の自主的な災害への対応が欠かせない。事業継続計画(BCP/BCM)等の普及・促進に向けた支援や企業の自発的な災害対策を促す規制緩和・支援策等の検討が求められる。とりわけ、災害発生後、企業のBCPを円滑に実行していくためには、法制度の弾力的な運用や大胆な規制緩和が不可欠である。