於 ニューデリー
アジア経済は目覚ましい経済回復を遂げており、世界経済の真の成長エンジンとなっている。アジアの成長の勢いを維持することは、アジアのみならず、世界全体の経済にとって重要である。
アジア経済界は、地域経済の新たな活力としての重要な役割を担っている。アジアの各エコノミーは、この点を踏まえ、それぞれの開発・成長戦略において民間セクターに対し、より大きな役割を期待している。今日、各エコノミーが経済自由化に向けて加速するのに伴い、民間セクター主導の国境を越えたパートナーシップにも新たな道が開かれつつある。
アジア・ビジネス・サミットは、アジアの主要な経済界が一堂に会し、経済が直面する課題について話し合い、国境を越えた新しいパートナーシップの機会を模索し、地域の経済活性化のロードマップを策定するに際し、重要なフォーラムである。
2013年7月31日、インド・ニューデリーにおいて、アジア9のエコノミーから11の経済団体が集まり、第4回アジア・ビジネス・サミットを開催した。出席した経済界首脳は、世界経済の現実に照らし、アジアの各エコノミーが直面する課題について議論し、今後に向けての共同声明を取りまとめた。
冒頭、経済界首脳は、アジア経済を活性化させるにあたっての民間セクターの果たす役割の重要性について再確認した。その上で、政策立案者に対し、民間セクターが新興ビジネス分野への参入、グローバル競争力の強化、地域の生産性の向上、公共財の供給をできる仕組みを構築するよう求める。
経済界首脳は、サミットで取り上げられたゴールを実現するために、積極的な役割を担うこと、そして、各エコノミーの政策立案者に対して、実施可能なインプットを行っていくことに合意した。サミットで取りまとめられた共同声明は、経済界の期待を反映すると共に、アジアの経済成長のダイナミズムを維持する上での民間セクターの将来的な役割を描いている。
1.アジアの経済統合の加速ならびに世界の経済成長におけるアジア地域のリーダーシップの強化
経済界首脳は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の形成に向けたビルディングブロックとして、新たな経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)交渉を推進するとともに、既存の協定を強化する。
EPA/FTAは、アジアの各エコノミーを結び付け、物品・サービス貿易の増大、国境を越えた投資の拡大、非関税障壁の撤廃、国内需要を満たすことを前提とする食糧・資源の輸出制限の撤廃、知的財産権保護の強化、ロイヤリティ送金の自由化、政府/企業間の円滑な技術移転、社会経済の変容のための情報通信技術(ICT)に係る国境を越えた協力等の地域協力を促進する。
地域経済統合は、アジアの有する能力を強化し、世界経済成長の実現と環境に優しい社会の構築に関し、アジアが主体的な役割を果たすための鍵となる。同時に、開発途上国に対して、必要な資源を提供すると共に、世界経済の持続的な回復のために必要な推進力を提供する。
2.地域の金融協力の促進、財政強化、地域の実体経済の強化
アジア経済界は、チェンマイ・イニシアティブの下での外貨準備資金基金に参加するメンバーの拡大、地域の財政不均衡への対処のための協調行動を含む、財政と金融に係る協力の深化を求める。
経済界首脳は、大企業、零細企業、中小企業がタイムリーに資金にアクセスできるようなアジア地域における金融システムの構築を求める。誰もが金融にアクセスできる状態を作ることは、アジア経済のダイナミズムを維持する上での根幹である。今後構築される金融システムは、実体経済の強化に資するものでなければならない。
アジア経済界は、地域における現地通貨債券市場の発展のため、信用保証・投資ファシリティ(CGIF)の一層の活用と、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の推進を求める。また、アジア債券市場の流動性促進のための資金供給の動きを歓迎する。
経済界首脳は、アジア地域の安定した金融市場の構築を順調に進めるためには、市場の不安心理を払拭する必要があるとの意見で一致した。したがって、経済界首脳は、各エコノミーに対し、健全で信頼に足る財政構築に向けた政策の実施を求める。
3.エネルギー効率の向上ならびに環境負荷の軽減
急速な経済成長と共に、アジアのエネルギー需要はとどまることなく、環境への負荷が増大している。天然資源を効率的に活用し、環境を保全しながら、エネルギーの安定的な供給確保に努力していくことが不可欠である。
CO2排出量の削減、リサイクル、自然との共生をはじめ様々な方法を通じて、地球規模で環境負荷の低い社会を構築するため、アジア経済界は、環境に優しい技術、製品、サービスの開発・普及に共同で取り組み、それらを活用するための体制を強化する。これらには、省エネ、環境負荷の低い都市開発、再生可能エネルギー、原子力エネルギー、化石燃料の効率的利用を含む。これに関連し、アジア経済界は、二国間オフセット・メカニズム等の取り組みを地域全体で行うことを求める。
アジア経済界は、各エコノミーに対し、民間セクターによる上述の取り組みを強力に支援すること、また、基礎研究と開発の推進についてイニシアティブを発揮し、官民連携の下でエネルギー資源の開発を行うことを求める。
2020年から開始される国際枠組みについて、アジア経済界は、すべての主要排出国が責任をもって参画する公平かつ効果的な国際枠組の構築に協力することに賛同する。
4.民間セクターの一層の参画による地域のインフラ整備
地域のインフラ開発を加速するため、アジア経済界は各エコノミーに対し、政府調達制度の改善と、インフラ関連のPPPを促進する法整備を求める。
アジア経済界は、各エコノミーに対して、環境負荷や耐久性などの非価格要素をより効果的に評価する入札制度の導入を求める。
アジア経済界は、衛星による監視、測位、通信などの機能を活用し、地域における災害管理システムを構築・強化することへの支持を再確認した。
5.イノベーション、技術開発、人材育成の加速
経済界首脳は、アジアの各エコノミー間での高度人材の交流の増大を求め、様々な業種でイノベーションを促進するためのアジアの機関による共同研究開発を奨励する。イノベーションが牽引する産業発展と高度人材の育成は、アジア企業による付加価値の高い製品の生産、ひいては、グローバル・バリュー・チェーンの向上に貢献する。
さらに、アジアの各エコノミー間のシームレスな技術移転や製品流通を促進するため、経済界首脳は、地域内の規格の統一化と調和を求める。
経済界首脳は、ロイヤリティ送金の自由化、模倣品対策の強化、知的財産権に関するルールの調和など、企業活動の円滑化に必要な政策の必要性を強調した。
6.人口動態変化の課題から成長機会への転換
人口動態の変化は、エコノミーによって、少子高齢化による社会保障費の増大、あるいは、人口増加に伴う若年者雇用の問題などの課題を惹起する。これらの負の影響を最小化するため、各エコノミー、各産業が教育訓練を通じた人的資本の強化、経済成長を加速する新技術の導入、ならびにイノベーションの促進に向け、効果的な手段をとるべきである。
経済界首脳は、各エコノミーに対し、医療従事者・介護従事者の国境を越える移動制限を取り除くことを求める。医療サービスに関する規制改革は、地域のヘルスケアセクターにおける人材の需給バランスを解決する。
終わりに
サミットは、知識の共有、技術の移転、研究開発とイノベーション、技能開発と能力向上、資金へのアクセスという分野の域内パートナーシップを通じて、地域のビジネスがグローバルな競争力を強化することを奨励し、アジア企業の卓越性を引き上げた。これらのパートナーシップは、翻って、アジアの経済統合を加速させ、地域の貿易と投資の拡大、インフラの強化、エネルギー安全保障、環境保護、十分なサービスを受けていなかった人々の経済への参加、地域安全保障へとつながるものである。