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Policy(提言・報告書)  国際協力 インフラ・システム海外展開の機動的かつ戦略的な推進を求める

2013年4月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

インフラ・システム海外展開の機動的かつ戦略的な推進を求める(概要)

年間1兆ドル超と推計され、今後一層の拡大が見込まれる世界のインフラ需要をめぐり、グローバル競争が激化している。この旺盛な需要を積極的に取り込むとともに、インフラ整備を通じてわが国技術の海外への普及、新興国のビジネス環境の整備を図ることは、わが国成長戦略の重要な柱である。

こうした中、わが国政府が本年3月に経協インフラ戦略会議を立ち上げたことは、誠に時宜を得たものであり、評価できる。今後、インフラ輸出の主体である民間企業との連携を強化するとともに、わが国インフラ・システムの海外展開を後押しし、具体的な受注につながる体制や制度を機動的かつ戦略的に構築し、実践することが求められる。かかる観点から、わが国経済界として下記の諸点を提言するものである。

1.機動的かつ戦略的な推進体制の確立

(1) 経協インフラ戦略会議

官民一体となったインフラ輸出戦略を推進する観点から、経協インフラ戦略会議においては、財政的視点のみに立つのではなく、わが国産業の国際競争力強化を含め、幅広い見地から関係省庁間の合意形成を図るとともに、毎回、民間代表を招くなど、現場に精通する民間企業の声を政府戦略に適切に反映すべきである。

その際、わが国企業のインフラ・システムの具体的な受注を通じて、わが国の成長を実現し、資源安全保障等の国益実現の視点を一層強化する観点から、広域開発プロジェクトを積極的に設計・提案すべきである。また、そのプロジェクトの上流段階からの関与を図っていくとともに、マスター・プラン策定、FS調査、実証事業、PPP制度整備支援、現地産業人材育成、円借款の活用促進等をシームレスに有機的に組み合わせて、インフラの面的展開を進めるべきである。

(2) 執行機関

JICA(国際協力機構)、JBIC(国際協力銀行)、NEXI(日本貿易保険)、JETRO(日本貿易振興機構)、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)等のインフラ輸出に関連する執行機関間の連携を密にし、対象となるプロジェクトを選別の上、包括的なインフラ海外展開支援を推進していくべきである。これら機関においては、経済界の意見に基づく運営をする必要があり、理事クラスの民間企業からの登用や諮問機関への民間企業代表者の参画を一層拡充することを提案する。

また、機動的にインフラ輸出戦略を展開する観点から、例えば、JICAの海外投融資案件については、関係省庁の関与を最小限とし、案件の採用、審査等の政府内プロセスの簡素化・迅速化を実現すべきである。そのためには、金融に係る専門家を民間人の登用で早急に強化することが求められる。

2.迅速かつ柔軟な資金供与

(1) ファスト・トラック制度の導入

ベトナム、インドネシア等の年次供与国、ミャンマー等の重点国・地域や発電所、港湾、道路、上下水道といった重点分野、さらには、わが国企業が先端技術を有し、今後需要が見込まれるスマートコミュニティ、ICT、衛星、環境、防災、医療などの有望分野については、政府部内の検討プロセスを効率化・迅速化するファスト・トラック制度を設け、円借款やJICA海外投融資をはじめとするODAが迅速に供与できる体制を整備すべきである。また、当該国・分野に対しては、返済期間や返済通貨等の融資条件を大幅に柔軟化すべきである。

(2) 円借款の柔軟化

わが国企業が国際貢献を果たすために海外のインフラ・システム案件を積極的に受注していくという視点に立って、円借款対象国の基準を大胆に見直すべきである。地球規模的課題への対応等の重要案件に対する中進国以上への供与や、外貨建ておよび現地通貨建てによる供与、わが国企業の技術を円借款事業で活用するためのSTEP(本邦技術活用条件)適用案件の一層の拡大、政府保証無しでの地方自治体への供与、途上国政府のインフラ整備事業への出資に対するバックファイナンス、O&M(操業・保守管理)への適用の実現が求められる。また、返済利息を活用した低利特別円借款(タイド)を実現すべきである。

さらに、円借款事業およびPPP(官民連携)事業では、有償資金協力勘定技術支援費を原資とするJICA連携DD#1を活用する等して、実現までの期間を大幅に短縮することが有用である。

なお、JICA海外投融資については、現状、実績は地場銀行を通じたツー・ステップ・ローンのみとなっているが、プロジェクト自体のリスクを取るノン・リコース融資やプロジェクト・ファンドへの出資を実現すべきである。また、現地通貨建ての融資を実現すべきである。

#1 マスター・プラン作成、事前調査(FS)を手がけたコンサルタントが詳細設計(DD)を一括して手掛けること。

(3) 無償資金協力の大型化

無償資金協力の予算を拡充し、重点国・分野については、案件の規模に応じ、1件あたりの供与額を100億円程度に引き上げ、大型インフラ案件を機動的に実施していくべきである。また、無償資金協力の卒業国に対しても、国内の経済格差問題を抱える諸国に対しては、各国の自立を妨げないように配慮しつつ、MDGs(Millennium Development Goals:極度の貧困と飢餓の撲滅など、国連が掲げている2015年までに達成すべき8つの目標)の達成の観点から供与を可能とすべきである。

さらに、上下水道や電力事業等、海外投融資を活用するPPP事業で開発効果は高いが商業性が必ずしも高くないものに対しては、無償資金協力を活用したVGF(バイアビリティ・ギャップ・ファンド)を二国間ベースで創設することを求める。

(4) JBIC・NEXI等によるリスクテイクの機能強化と適用範囲の拡大

日本企業の競争力強化のためには、JBICやNEXIなどの執行機関が、民間のコントロールを越える各種のリスクテイクを大胆に行うとともに、中長期視点から見て日本の国益に資する案件については、投融資や付保対象の範囲を拡大する必要がある。例えば、JBICには、現地通貨建てファイナンスを強化し、借り手側の為替リスクの軽減を図るとともに、各国地方政府やプロジェクトを手掛けるわが国企業などへの積極的かつ柔軟な審査対応が求められる。

また、NEXIは、企業の海外進出の現状に合わせ、付保対象をわが国の海外子会社による取引等に拡大するとともに、審査・調査能力等の強化および迅速化のため、陣容を拡充すべきである。

JOGMECの債務保証制度については、政府保証付与等、日本政府の明確な関与を示し、海外金融機関も含めた一層の活用推進を図るべきである。

さらに、アジア域内の貯蓄を域内への投資に振り向けるべく、JBICはアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)においてリスクテイク機能を発揮し、現地通貨建て債券の保証を積極的に展開すべきである。

なお、近年、新興国から求められている大型プロジェクトのオペレーションリスク等の対応については、わが国政府が直接、契約内容の適正化を相手国政府に要請することが必要である。

3.わが国技術・制度の戦略的な普及

(1) 国際標準の獲得とデファクトスタンダードの確立

スマートコミュニティ、電気自動車、都市交通、通信等、わが国企業が先端技術を有する分野における各種技術・規格の国際標準の獲得を戦略的に進めるべきである。

具体的には、各国が自国技術の国際標準化・認証基準の確立に向けて凌ぎを削る中、わが国企業が有する優れた技術が国際標準を獲得するためには標準化に係る専門家の育成に加え、わが国の認証機関の強化ならびに国際的な認知度の向上を図り、認証獲得のプロセスを国内で完結させ、技術に関する情報等の国外流出を防止するなど、戦略的な対応が求められる。加えて、交渉参加を決めたTPPや日中韓FTAをはじめとする各種の経済連携協定の枠組みの下で、規制の標準化を進めるべきである。同時に、わが国の技術を理解する層の拡大を図るために、人材育成等を通じた技術移転が必要である。

そのためにも、経済産業省が実施している貿易投資円滑化支援事業等を拡大する、あるいは、企業間で進めている技術協力を支援するHIDA(海外産業人材育成協会)やJICAのプログラムを拡充するため、十分な予算措置を講じるべきである。

(2) 法制度整備支援

諸外国における国家運営の基本である法制度整備に向けて、わが国の法制度を基礎とする技術支援を積極的に推進すべきである。現在、JICAが法務省の法務総合研究所との協力の下で進めるアジア各国での支援には、国際民商事法センターが協力しているが、民間の専門家や知見を活用した取り組みを一層推進する必要がある。

なお、日越共同イニシアティブのように二国間ベースで民間関与の下、制度整備を進める枠組みは、わが国の優れた制度に対する相手国の理解を得る上で極めて重要であり、新たに設置されたミャンマーに続き、各国で同様の取り組みを横展開すべきである。

(3) 相手国のインフラ関連制度の整備

官民連携によるインフラ整備でわが国が競争力を発揮するためには、民間提案型案件を容認するPPP法制やわが国企業の技術力や品質等の非価格的要素を適正に評価する入札評価制度の導入が求められる。

併せて、関連法制度・行政手続の整備など、インフラ事業に係るビジネス環境整備も重要である。その一環として、わが国の行政官、民間の専門家やコンサルタントを相手国政府のアドバイザーとする制度整備指導や、PPPに携わる現地人材の育成に注力すべきである。

また、インフラ運営にあたって、PFI事業を行っているわが国地方自治体の知見を活用した取り組みを行うことは有効である。

(4) オフセットメカニズム

わが国の有する高度な低炭素技術を普及し、低炭素社会実現に貢献するため、現在、インドネシア、ベトナム等で実証調査が行われている二国間オフセットメカニズムの導入を他国でも促進すべきである。

4.トップセールスの推進と民間人材の活用

わが国の優れたインフラの定着を図るために、外務省、各国大使館のインフラ担当官の支援とともに、総理をはじめ閣僚の海外訪問に民間企業人が同行し、トップセールスを展開することが有益である。同時に、鍵となる海外要人をわが国に招聘し、わが国の優れたインフラ・システムをショーケースとして紹介し、理解を醸成することも重要である。

今後わが国企業のインフラ受注が見込まれる地域には、人材、資金の集中投入を図るべきである(下記重点対象地域・国の例参照)。例えば、こうした国と地域の公館にインフラ専門官、インフラ・コーディネーターとして関係分野の民間企業人を登用する、あるいは、コンサルタントやシルバー・ボランティアとして有望な関連産業の知見を有する人材を派遣し、案件の種を蒔くことが重要である。

<重点対象地域・国の例>

1.アジア
  1. (1) ミャンマー
    民主化と市場経済化に伴い、経済成長が見込まれる中、今後、膨大なインフラ需要が見込める。また、ASEANとインドの結節点に位置し、戦略的に重要である。再開された円借款、無償資金協力、JICA海外投融資を活用し、ティラワ、ダウェイをはじめとする工業団地、基幹インフラの整備を進めると共に、投資協定の実現等を通じて、投資・ビジネス環境を改善する。
  2. (2) インドネシア
    既に多くの日本企業が進出しており、中間層の増大により今後の消費市場として有望である。「インドネシア経済回廊構想」、「首都圏投資促進特別地域構想」(MPA)をはじめとするインフラ案件を官民連携で推進する。
  3. (3) ベトナム
    日越共同イニシアティブを通じて政策対話が進んでおり、同国の産業高度化、メコン地域の連結性向上に資するインフラを優先的に整備する。
  4. (4) インド
    デリー・ムンバイ産業大動脈でのインフラ案件の実施を加速する。
  5. (5) その他
    わが国の投資が拡大している、フィリピン、カンボジア等の基幹インフラ整備を推進する。
2.中東

復興需要があるイラク、石油依存からの脱却を図るサウジアラビアほか湾岸諸国、アジアと欧州の結節点に位置し経済成長が著しいトルコを中心に、再生可能エネルギー、原子力発電、都市交通、鉄道等、わが国技術が活かせるインフラ案件を推進するとともに、若年雇用の創出に貢献する。

3.中南米

鉄道、資源開発等の大型案件が見込まれるブラジル、宇宙分野、輸送インフラ、発電等で投資が見込まれるメキシコ等においてインフラ案件を推進する。

4.アフリカ

中間所得層が増え、潜在性のある市場であり、また資源の供給基地としての役割も期待されるアフリカについて、日本企業の進出状況を踏まえて重点国(モザンビーク、アンゴラ、ケニア、南アフリカ、タンザニア等)を特定し、選択と集中の下で協力を推進する。

以上

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