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Policy(提言・報告書)  国際協力 改めて国際協力の推進を求める

2011年12月13日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

東日本大震災によるサプライチェーンの寸断は世界の生産活動に大きな影響を及ぼした。その直後からの世界各国からの支援と励ましは、わが国の国民を大いに勇気づけ、震災復興の推進力となるとともに、世界経済における日本の役割の大きさや社会経済上の困難を抱える各国への国際協力の重要性を再認識する契機となった。

わが国は、こうした経験を踏まえ、決して内向きになることなく、国際社会の繁栄と安定のために貢献していくべきであり、そのツールである政府開発援助(ODA)の抜本的改革や官民連携といった新たなスキームの確立を通じて、国際協力を推進していくことが重要である。

その際、世界経済におけるわが国の責務である国際協力の意義と方針を改めて確認し、整理することが必要である。

世界経済の発展のためには、その牽引役として期待される新興国等が安定的な経済成長を実現することが必要であり、わが国としては、これら諸国の経済発展の支援を通じて自らの成長機会の創出を果たしていかなければならない。その一つが、アジアをはじめとする新興国等で喫緊の課題となっている産業発展の基礎としてのインフラ整備への協力である。

広域インフラの整備によって産業集積地間や生産地と消費地を結ぶ効率的な産業の動脈が生まれれば、人やモノの往来が活発化して経済統合が深化し、経済発展が進む。これを実現するため、わが国としては得意とする分野の技術やノウハウを提供し、新興国等の一層の成長に貢献していくことが極めて重要である。

同時に、こうした貢献は、例えば、日本の技術・製品、標準・規格が輸出されることにより、わが国の経済や雇用にとっても大きな波及効果をもたらす。インフラの海外展開が成長戦略の重要な柱として明確に位置づけられるべき所以である。また、インフラ輸出は、大規模災害時に相互に技術者を派遣するなど、協力の素地を形成することにもつながる。さらには、現地の技術者と日本の技術者がともに汗を流すことで、顔の見える国際貢献とすることも可能となる。

こうしたインフラの海外展開を促進していくためには、政府が力強いリーダーシップを発揮することが欠かせない。同時に、わが国経済界も、国内で着実な復興に努めるとともに、アジアをはじめとする新興国等との経済交流活動を強化し、戦略的な対応をとらなければならない。

かかる観点から、国際協力の意義と方針に関し、特に新興国等におけるインフラ整備ならびにODAの抜本的見直しの方策について、以下のとおり整理した。政府には、これらの施策への格別の配慮を求める。

2.新興国等におけるインフラ整備

(1)インフラ輸出の重点化

  1. 重点的にインフラ輸出の対象とすべき国・地域
    わが国との経済関係においてアジアの重要性は高く、インフラ整備への協力を通じて、アジアの成長に貢献すべきである。この観点から、ASEAN連結性マスタープランをはじめとするアジアの広域インフラ整備計画に参画することが重要な課題である。その際、要衝の地であるメコン地域、とりわけ民主化の進むミャンマーとの連携を図ることが大切である。

    ASEANのほか、中国、インド、バングラデシュ、ブラジル、ロシア、トルコ、イラクを含む中東産油国、先進諸国などに対しても、わが国の省エネ、低炭素技術をはじめとする世界最先端の技術やノウハウを積極的に提供し、環境と両立する持続可能な経済成長の達成に貢献していくべきである。これらの国では、多くの関連したインフラ案件が計画されており、わが国の航空機や鉄道の技術に関心を有する欧米先進国を含め、官民が一丸となって一層強力に受注成果を上げていかなければならない。

  2. 重点的にインフラ輸出の対象とすべき案件
    アジアをはじめとする新興国等の持続的な成長を実現するためには、発電所、道路、港湾、空港、高速鉄道、都市交通などの基幹インフラ、住宅建設、上下水道などの生活・都市インフラ、通信、通関システムなどのIT関連インフラを重点的に整備し、また、工場や物流システムおよびその周辺地域の最適な配置計画に基づく都市づくりを進めることにより、成長のボトルネックを解消していくことが必要である。

    また、わが国としては、人工衛星を活用した災害予測など、防災の分野でもノウハウを活かした貢献が可能である。東日本大震災を通じて得た様々な防災・減災に関する知見をもとに、アジア地域で連携できる情報共有の仕組みを構築することが求められる。その際、これらインフラのオペレーションおよびメンテナンスを可視化、知財化、組織化し、競争力を高めることが欠かせない。

    原子力発電については、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により安全性についての懸念が提起されたことで、わが国の技術とノウハウを十分に活用することができる巨大プロジェクト輸出として期待されてきた原子力発電の輸出のあり方が問われることとなった。他方、高い経済成長が見込まれる新興国を中心に、引き続き原子力発電所建設への需要は高い。万全な安全性確保の措置を講じて、これらの要請に応えていくためにも、福島第一原子力発電所の事故原因究明を進め、安全性確保について国際機関とも連携を図り、原子力発電の海外展開を図る環境作りを行うことが不可欠である。

(2)インフラ輸出を推進するための支援のあり方

  1. 官民連携の一層の推進
    政府が主導的にインフラ輸出を推進していくためには、国別援助方針を策定し、これに沿って、官民連携を基軸として、戦略的、機動的に国際協力を展開していくことが重要である。具体的には、民間投資案件を円滑に進めるために必要なインフラをODAによって整備し、開発効果を高めることがあげられる。また、巨額の投資を要する一方、利用料金が政策的に低く設定されるインフラ案件については、無償資金、低利の円借款、JICAの海外投融資資金を投入し、採算性を引き上げて民間の参加を可能とする事業採算性支援措置(VGF:バイアビリティ・ギャップ・ファンディング)を講じることも必要である。

    さらに、1社だけが関与する案件でも、当該案件の選定制度・運用・プロセスの透明性が担保され、日本政府の政策との整合性や民間投資との連携による開発効果が高く、現地の不特定多数が利益を得る案件など高い公益性のある場合は、その効果、戦略性を認め、ODAを活用して支援すべきである。

    また、新興国等で必要とされているインフラ整備への協力を促進するためには、円借款の上限枠を撤廃して機動性のある運営を可能にするとともに、再開されたJICAの海外投融資の活用や官民連携(PPP)スキームの整備により、民間資金の導入を推進していくことが考えられる。PPPについては、日本国内における民間資金等活用事業(PFI:Private Finance Initiative)を通じ、事業経験を積むとともに、海外企業が有する知見をM&A等によって獲得することで国際競争力を高めることが重要である。PFIの活用を促進するためには、発注者、特に地方自治体に対し、PFIの案件創出ならびに運営を支援する体制の構築とともに、入札方法から契約形態、実際の事業運営に至るまで上意下達的かつ硬直的な従来の公共事業の発想・枠組みを、民間企業の創意工夫が十分活かされる柔軟な仕組みへと改めることが求められる。

    わが国企業のビジネスモデルは、かつてのプラント輸出主体から、海外の資源やインフラへの投資、海外拠点における継続的な事業展開へと変化し、同時にビジネスには迅速性が求められるようになっている。これに対応していくために、JICAの海外投融資などの一層の活用を図るべきである。例えば、PPPの上下分離方式で民間投資部分にJICAの海外投融資や国際協力銀行(JBIC)の投資金融を活用することで、企業にとっての取り組みの選択肢を広げることができる。

    JICAの海外投融資は、企業やプロジェクトを対象とすることから、返済問題を抱える国での事業を可能とする利点がある。そこで、現在パイロットアプローチでの利用が進められているJICAの海外投融資を早期に本格実施に移行すべきである。その際、パッケージ型インフラの海外展開を推進するため、十分な財源を確保すべきである。また、日本企業が事業開発権を取得し、事業運営により収益を確保する民間提案型PPPインフラ事業に関するJICAのF/Sスキームを一層拡充して、事業開発権の入札書類の作成、入札評価基準の作成などをJICAで支援していくことも重要である。

    一方、JBICについては、経団連の要望を踏まえ、先進国向け輸出金融をはじめとする機能強化が実現した。さらに、2012年4月には日本政策金融公庫から独立し、保証機能が強化されることが決定しており、先進国を含むインフラ分野をはじめとする戦略的な海外投融資をより有効に支援することを期待する。その際、JICAとJBICの海外投融資の役割分担の明確化と連携強化を図るべきである。

  2. 大規模インフラ輸出のリスクテイクの強化
    近年、インフラ・プロジェクトの大型化や発注国の要求の多様化に伴い、例えば、発注国側の原因による大規模工事の遅延、新たな環境政策の遡及適用や土地収用政策をはじめとする超長期投資案件に関する相手国の政策変更、過去のトラックレコードのない長期プロジェクトに関わる稼動保証や水準以上の機能保証など、企業にとって従来では考えられなかった大きなリスクを強いられる事例が増えている。

    わが国企業が確実にインフラ輸出を推進するためには、これらに対応できるリスクテイク機能を官民が叡智を結集して構築する必要がある。外貨建てや現地通貨建ての貸し出し、為替リスクへの対応強化、付保率の引き上げなどの日本貿易保険(NEXI)の強化、JBICの保証機能の拡充、柔軟化を進め、新興国、先進国を問わず、これらを全面的に活用することにより大型リスクへの対応を図るべきである。

    各プロジェクトに必要な資金を民間の金融機関や企業から調達するためには、事業リスクを抑える必要があり、例えば、各国政府や地方政府による一定需要の保証が有効となる。また、海外のインフラビジネスは、事業収入が現地通貨建てとなり、設備投資にあたっても現地通貨建て比率が高くなる事例が多く、為替変動リスクが大きくなるため、JBICによる現地通貨建てファイナンスの拡大など、リスク軽減のための支援の強化が求められる。

    その他、国際機関の保証機能の活用やリスクの債券化などを含め、新たなリスクテイク機能を官民が一体となって講じることも検討すべきである。

  3. 二国間オフセットメカニズムの具体化
    インフラ輸出を推進するにあたり、省エネ、低炭素技術をはじめとする世界最先端の技術やノウハウを有するわが国は、これらを積極的に提供し、環境と両立する持続可能な経済成長の達成に貢献していくことが求められている。

    こうした取り組みを加速するため、低炭素技術を海外に移転した場合、当該技術によるCO2削減を技術供与国の貢献分として評価する二国間オフセットメカニズムを早急に具体化すべきである。同メカニズムは、受け入れ国側では、ファイナンス手段の多様化ならびに低炭素型インフラの普及に貢献するものであり、結果として、日本および受け入れ国双方を利するものである。

  4. インフラ事業に携わる人材の育成
    インフラ事業においては、多くの現地従業員が運営に従事することから、現地人材の能力向上を図るため、効率の高い管理・運営を実現する研修や専門家による現地指導を導入することが必要である。また、相手国政府のインフラ整備部門の関係者にわが国の技術についての理解を向上させることも重要である。そのために、官民連携の観点から、民間投資プロジェクトの物流インフラの調査、計画策定、必要とする人材育成をODAで進めることも考えられる。特にJICAや海外技術者研修協会(AOTS)のさらなる活用を図るべきである。

  5. ソフトインフラの整備
    官民連携によるインフラ輸出の推進のためには、被援助国側の法制度整備が重要であり、JICAは、わが国の経験や法制度を最大限に活用し、新興国等でキャパシティ・ビルディングを推進すべきである。また、わが国の標準・規格を積極的に提供し、アジアの標準づくりに貢献することが、域内の経済活動の円滑化を推進するうえで必要である。

(3)パッケージ型インフラ海外展開の推進体制

  1. パッケージ型インフラの意義
    上述のとおり、海外における大規模インフラ整備にあたっては、グローバルな課題に対応していくという視点から、環境・省エネ分野で他をリードするわが国の優れた技術やノウハウを積極的に提供していくことが重要である。特に、電力、都市交通システム、水資源のリサイクルなどのプロジェクトの推進にあたっては、個々の設備・機材供与だけでなく、原子力発電所や高効率石炭火力発電所の運営、鉄道事業での運行管理、水道事業の運営など事業を運営していく上で必要なノウハウを、パッケージとして各国に提供していくことが、競合国との受注競争に打ち勝つうえで有効である。

    このようなハードとソフトを組み合わせたパッケージ型インフラの海外展開は、相手国の利益のみならず、国内経済への波及や税収増などわが国の国益にも合致するものであり、スピード感をもって官民連携で一層強力に相手国に働きかけていくべきである。

    海外における大規模インフラ・プロジェクトの受注においては、政府首脳が発注国に強力に働きかけることが国際的な潮流となっている。各国がトップ外交による受注合戦を進める中で、政府は外交政策の中にわが国企業による海外インフラ・プロジェクトの推進を戦略的に位置づけ、相手国の官民指導者との人脈構築を視野に入れて取り組むべきである。具体的には、既に進められている政府首脳と民間経済人からなるハイレベル・ミッションを重点国に頻繁に派遣することや、民間交渉の場に必要に応じて日本国大使や政府首脳が出席することが考えられる。案件によっては総理大臣を先頭に大胆な経済外交を展開することも重要である。また、在外公館や担当省庁が垣根を越えて、わが国によるインフラの海外展開を進めるという目標のもとに、一体となって日本企業のビジネスを全面的に支援することが求められる。

  2. パッケージ型インフラ海外展開推進体制の現状と課題
    具体的な推進の枠組みは、首脳会談、各種のハイレベル経済対話、経済連携協定の下の小委員会のほか、以下のように複数設置されている。

    そこで、政府はこれらを機動的に活用し、わが国の有する最先端の技術や長年の経験により培われたノウハウが、相手国の国民経済、中長期的な費用対効果、さらにはグローバルな課題への対応という点で優位性のあることについて、相手国から正当な評価を得られるよう引き続き努めるべきである。

    (i)パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合

    現在、パッケージ型インフラ海外展開のために政府および経済界で設置されている枠組みの代表例は、官邸主導によるパッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合である。同会合は、ベトナムにおける重点プロジェクトについて官民連携のトップセールスによる働きかけを進め、原子力発電所建設およびレアアース鉱山開発で大きな成果を収めるなど、その戦略的、機動的な手法により案件が迅速に進捗しており、大いに評価される。同会合に対する経済界の期待はきわめて大きく、新設された国家戦略会議はもとより、引き続き各省庁の取り組みと強力に連携して進めるべきである。東日本大震災により同会合は一時中断されたが、このほど再開された。わが国の中長期的な成長戦略の実現のため、この枠組みを最大限に活用していくべきである。

    (ii)外務省による推進体制

    パッケージ型インフラ海外展開については、外務省においても経済外交推進本部を設置し、情報や知見を一元的に集約する取り組みを行っている。また、主要な在外公館にはインフラ・プロジェクト専門官が指名されており、情報を収集、集約するとともに、関係機関や現地日本商工会などとの連絡調整の窓口となるなどインフラ海外展開の支援で期待が高い。インフラ輸出案件の推進には具体的かつきめ細やかな対応が不可欠であり、同専門官の一層の活用が求められる。この観点から、インフラビジネスの経験や専門性を持ち、日本の優位性を熟知する民間企業の人材を大使館員の職位を持つ同専門官に登用することも検討すべきである。
    国際協力の観点からは、被援助国のニーズを踏まえた現場主義を強化するため、現地ODAタスクフォース(現地TF)が各国に立ち上げられている。現地TFは、日本大使館やJICA現地事務所を中心として、援助政策の立案や相手国政府との政策協議、他のドナー、関連機関、日本企業との連携推進など重要な役割を有する。そこで、開催頻度を一層高め、民間の知見を大いに活用して、従来型ODAだけでは達成困難な雇用拡大、技術移転、貿易投資を促進するプロジェクトの発掘に努めることが期待される。また、外務省の経済外交推進本部との連携体制を一層強化し、国益を念頭に置いたインフラ海外展開の現地での実働部隊としての役割を担っていけるよう本省の全面的な後方支援を求めたい。

    (iii)閣僚級官民政策対話の促進

    インフラをテーマに主要国との間に設けられている閣僚級官民政策対話のうち、日インドネシア経済合同フォーラムでは、各地域の産業ポテンシャルを引き出すインフラ開発を進めるため、インドネシア経済回廊(IEDC)を6つ設定し、特に東スマトラ・北西ジャワ回廊および北ジャワ回廊を高い優先度で整備を進めることを決めた。同フォーラムは、こうした構想実現に向け、(1)電力分野における協力、(2)二国間オフセットメカニズムの導入、(3)スマート・コミニュティ・イニシアティブ、(4)首都圏投資促進特別地域(MPA)の推進を確認するなど、重要課題に迅速に取り組んでいることを評価する。
    日越閣僚級官民政策対話は、ビジネス環境整備における協力を推進しているほか、レアアース鉱山開発、港湾、空港、航空機、宇宙センター・地球観測衛星に関する具体的プロジェクトについて意見を交わす貴重な機会となっている。
    日印閣僚級官民政策対話では、デリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)構想などインフラ・プロジェクトの支援方策について検討を進めるほか、インド南部中核拠点開発構想を含め、投資環境整備やインフラ開発を日印協力のもとで推進していくことを確認するなど一定の成果を上げている。
    こうした成果を踏まえて、国別援助方針を明確にしたうえで、特に冒頭に掲げた重点国・地域のうちフィリピン、カンボジア、バングラデシュとは同様の会議体を早急に設けるべきである。

3.わが国の政府開発援助(ODA)の抜本的見直し

(1)ODA一般会計予算の拡充とスキームの見直し

以上述べたように、海外のインフラ整備を通じた経済社会の発展、さらには資源開発、平和構築および草の根レベルのビジネスの推進のためのツールとしてのODAの役割が高まっている中で、わが国のODA一般会計当初予算は1997年をピークに大幅な減少の一途をたどっている。ODA供与額は1993年以降8年間維持した世界第1位の地位から転落し、国連が設定した目標であるODAの国民総所得(GNI)比0.7%も大きく下回る0.2%にとどまっている(2010年)。

わが国が経済外交を推進し、官民連携で海外のインフラ整備を進めていく観点からも、無償資金協力の規模を拡大し、技術協力の活用分野をますます拡充していくべきであり、国際社会においてわが国の役割を果たしていくための極めて重要なツールでもあるODA予算の減額に歯止めをかけることが不可欠である。この関連で、日本政府が国際機関に単独で拠出するジャパン・ファンドについては、わが国企業の競争力のある分野に特定して活用を図るなどの見直しを図るべきである。ODAを通じ、相手国の経済基盤強化と経済成長を促すことは、わが国の輸出と雇用拡大にもつながる。

また、わが国がODAを相手国のニーズに的確に対応し、タイムリーに執行していくためには、財源の確保のみならず、制度の抜本的な見直しが必要である。具体的には、政府が進める円借款供与にかかる期間を従来の7年から3年半に半減するなどの取り組みが進められているが、これを1年を目途にさらに短縮すべきである。また、制度疲労が見られるわが国円借款をはじめとする各種スキームの抜本的見直しを並行して進めるべきである。後段で詳述するように、例えば、円借款のクレジットラインの導入、無償資金による社会インフラ整備の推進、外貨貸しスキームの導入、超低利の特別円借款、円借款のコストオーバーランへの柔軟な対応などが必要である。なお、見直しにあたっては、企業が途上国の開発事業の主要な担い手であることを十分に念頭におくべきである。

円借款執行の迅速化のため、政府はこれまでに3回にわたり迅速化策を公表してきた。しかし、これだけで制度疲労を乗り越えることには限界があり、企業のODA離れには歯止めがかからない。JICAの一層の業務改善などを含め、抜本的な手続きの見直しを進めるべきである。

(2)円借款の拡充

  1. 手続きの迅速化と供与方針の明確化
    円借款の手続きを簡素化するため、まず複数の開発事業を包括するクレジットライン(融資枠)の設定が求められる。従来からセクター・ローン、ツーステップ・ローンなど、1件の円借款で多数の小規模プロジェクトを支援する仕組みはあったが、これらの活用に加えて、より大きな規模の開発事業についても複数を支援できる融資枠の供与を可能とし、迅速化を実現すべきである。

    さらに、円借款のほか、海外投融資や無償資金などを含め、複数年にわたる資金協力の意図表明を行うことで、対象国に対する支援姿勢を鮮明にし、わが国の経済外交上のプレゼンスを高めることも望まれる。

  2. タイド円借款の実効的な導入
    わが国の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて顔の見える援助を促進するため、タイド借款としての本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)が2002年に導入された。

    しかし、近年STEP案件の要請は激減しており、今後わが国の技術・製品をさらに活用するためには、無金利融資の導入など借り手側に有利な仕組みとなるよう制度の抜本的な見直しが求められている。なお、STEPの活用を促進する観点からは、被援助国においてSTEPへの理解を高めるための取り組みも不可欠である。

    また、経済開発の政策決定や案件形成の初期段階で参加・関与する欧米諸国の取り組みを参考に、わが国もアンタイド案件の受注促進を行うべきである。また、OECDなどの場で議論をリードできる人材を日本政府から送り込み、被援助国の支持を背景に、ドナー国の視点ではなく受け取り国の立場に立ったルールの改正を進めていくことが必要である。さらに、わが国企業が入札に参加し、落札が確実になった場合に円借款を供与する後付け円借款を制度化することや、イニシャルコストだけでなくランニングコストも含めたライフサイクルコストで評価する入札方法をJICAの調達ガイドラインに導入することが求められる。

  3. 急速な為替変動への対応
    近年、急速な円高がわが国の優れた製品の価格競争力を低下させる一因となっており、国際協力についても円高対策を緊急に講じるべきである。また、事業収入が現地通貨となるインフラ事業が今後開発途上国で増加することが見込まれることから、JICAによる外貨建て借款の早期実現やJBICによる現地通貨建て投資金融の一層の活用が求められる。その際、担保の提供を含め、為替リスクが受け取り国や民間企業に転嫁されることのないよう配慮することが必要である。

  4. 課税問題への対応
    最近、円借款の交換公文(E/N)上、プロジェクトに従事する日本企業の法人所得税、個人所得税の免税措置が排除される事例が増加しており、税負担がODAに参加する日本企業にとって経営上の大きな重荷になりつつある。

    そこで、E/Nにおいては日本企業に対する一律の免税措置を政府間合意として担保するとともに、万が一担保できない場合は、E/Nに、税額は発注者の負担とすることを明記するよう早急な対応が望まれる。

(3)無償資金協力・技術協力の拡大

  1. 無償資金協力の件数と規模の拡大
    低所得国が必要とする社会インフラをはじめとする各種の開発需要に対して、わが国としては、積極的に無償資金協力を実施し、持続的な経済成長の実現に貢献することが必要である。例えば、質の高い労働力確保のため、日系企業の工場周辺地域の住環境整備を進める際、緊急度の高い住宅、学校、保健施設などに無償資金を供与していくことにより、中長期的に日本企業の海外展開のリスクを軽減し、ビジネスの円滑化を図ることが可能となる。

    他方、無償事業の予算規模は著しく削減され、その結果、事業に参加する企業は減少している。

    魅力ある無償事業を実現するためには、財源の大幅な拡充、対象案件あたり10億円といわれる制約の撤廃、計画・設計作業において変更が柔軟に認められるような改善策が求められる。また、財源の問題を乗り越える方法として、超低利の特別円借款の実施も併せて検討すべきである。

  2. 技術協力・国際標準化の推進
    開発途上国の社会・経済開発の担い手となる人材の育成にあたり、技術協力は、わが国の技術や技能、ノウハウの移転を行い、技術水準の向上、制度や組織の確立や整備に寄与する重要な施策である。

    また、わが国の技術協力や国際機関との連携を通じ、わが国の標準・規格を積極的に普及させ、アジアの標準づくりに貢献することは、地域の経済活動の円滑化につながるとともに、わが国の経済や雇用に大きな波及効果をもたらすことになる。

    他方、現行の技術協力プロジェクトにおいては、事前調査を短期間で完了する結果として、事業の目標や成果が曖昧な事例や、現地側の理解が十分得られていない事例がある。また、プロジェクトが開始された後も、予算の制約によりコンサルタントが現地カウンターパートとの協働作業に必要な業務期間を確保できず、現地の自立発展の支援に支障が生じていることがある。これらの改善のためには、対象となる国や分野を絞り込み、1件あたりの予算を十分に確保する必要がある。

(4)国際機関への拠出金の見直し

わが国は、世界銀行やアジア開発銀行をはじめとする国際機関に毎年多額の出資金・拠出金を一般会計予算から拠出しているが、このうち基金やトラストファンドなど、本来日本企業の事業活動の支援となるべき特別拠出金についても、その使途、JICA事業との整合性、日本企業の参画などについて、十分な説明責任が果たされているとは言えない。ODA予算の使途が厳しく問われる中、国際融資機関への拠出金を見直すとともに、各機関の東京事務所のあり方についても再検討すべきである。

(5)JICAの改革促進

官民連携を推進し、効率的なODAを行うためには、一般会計予算による技術協力および無償資金協力に、有償資金協力(円借款)を有機的に連携させて事業量を確保し、開発途上国の援助需要に応えていく必要がある。これこそが2008年の新JICA誕生の意義であった。

JICAは、援助事業の迅速性、柔軟性、機動性を高め、効果的、効率的な援助を実施するため、専門性とネットワークを活かし、現場の開発ニーズの実態の把握や分析、新たな援助手法と分野の開拓、援助実施の機能を強化するよう、改革を継続的に断行していかなければならない。そのため、限られた予算を有効に活用すべく、一般管理費の見直しを含め、手続きの合理化、契約・精算の簡素化、評価システムの見直し、技術系職員の比率向上、外部の民間コンサルタントの一層の活用などを検討すべきである。なお、冒頭で述べたように、JICAの海外投融資の本格実施への移行は真っ先に実現すべき課題である。

(6)草の根レベルのビジネスの推進

低所得国は、貧困削減や雇用創出のための支援を求めている。わが国企業には、貿易、投資、技術移転、社会貢献事業を通じて現地人材を育成し、雇用創出を通じて途上国とその国民を支援してきた実績があり、これらと政府資金による無償資金協力や技術協力を組み合わせることで支援を強化できる。また、わが国政府は、いわゆるBOPビジネスに着目し、F/Sへの支援に着手しているが、今後は、ODAによる資金協力にも乗り出すことが必要である。わが国企業としても、選挙人登録システムの構築などの技術協力で政府基盤の形成に貢献するなどの協力事例を積極的に公表し、知見や経験の共有を広く図っていくことが求められる。

なお、産業のソフト化や高度化に伴い、医療や介護といった新しい分野でのビジネス・チャンスを海外に広げていく取り組みがODAの分野でもみられる。制度改革と同時に、経済界としては、国際協力においても発想の転換とイノベーションに取り組んでまいりたい。

以上

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