(社)日本経済団体連合会
産業技術委員会企画部会
経団連では、震災の影響を踏まえた第4期科学技術基本計画の見直しにあたり、本年4月に「『第4期科学技術基本計画』の見直しに向けた考え方」を公表し、「安心・安全な国づくり」に資するイノベーションの重要性等について言及したところである。今般、「答申『科学技術に関する基本政策について』見直し案」へのパブリックコメントが募集されたことから、下記の通り、意見を表明する。
Ⅰ.基本認識
【<研究開発投資及び戦略的重点化>(3頁)】
今回の震災では、災害対応ロボットや放射性物質の処理技術など国の研究開発の成果が必ずしも十分に社会実装できていないという点が指摘された。答申見直し案では、第3期基本計画の反省として、「個々の成果が社会的な課題の達成に必ずしも結びついていないとの指摘もあり、国として取組むべき重要課題を明確に設定した上で、その対応に向けた戦略を策定し、実効性のある研究開発の推進が必要である」と記しているが、今回の震災を踏まえ、研究開発を行うのみではなく、その成果を十分に「活用する」ことにより、社会への普及を促進することが重要である旨、改めて強調すべきである。
【②安全、かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国(5頁)】
答申見直し案では、目指すべき国の姿として、「安全、かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国」を掲げている。ただし、今回の震災の影響を踏まえれば、数値的データをもとに国民の「安全」の確保に資する研究開発を推進するのみならず、研究成果の社会実装の促進等により国民が「安心」して生活できる社会を築くことが極めて重要な課題であることから、「安全・安心、かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国」とすべきである。(5頁のほかにも該当箇所が見られるので、同様に修正すべき)
Ⅱ.将来にわたる持続的な成長と社会の発展の実現
【 ⅱ)社会インフラの復旧、再生(8頁)】
災害に強い新たな街づくりや産業復興を推進するにあたり、情報通信インフラの強靭化及びICT利活用の促進が重要である旨、強調すべきである。例えば、災害に強い新たな街づくりに向けては、クラウドの活用による住民情報のバックアップ体制の構築やスマートグリッドの活用による電力分散システムの構築、衛星通信や車車間通信を利用した非常時通信システムの構築等が必要であり、また、被災地の産業復興に向けては、ICTの利活用を通じた農林水産業の復興および製造業のサプライチェーンの効率化・強化等が重要である旨、明記すべきである。
【(3)震災からの復興、再生に関わるシステム改革(9頁)】
答申見直し案では、「被災地を中心に、官民の関連研究開発機関が集積した一大研究開発イノベーション拠点の形成等について検討する」旨の記載がある。被災地の復興・再生に向け、産学官連携のもと、特区制度の活用等を通じて国際的な研究開発拠点の形成を戦略的に進めることは極めて重要であることから、文末の表現を「検討する」ではなく「推進する」とすべきである。(18~19頁にも該当箇所があるので、同様に修正すべき)
【 ⅰ)安定的なエネルギー供給と低炭素化の実現(10~11頁)】
今回の原発事故により、エネルギー政策の重点を原子力発電から再生可能エネルギー等へシフトすべきとの世論が高まりつつある。しかし、発電量の約3割を原子力発電が占めているわが国の現状に鑑みれば、エネルギー供給を安定的に確保するためにも、再生可能エネルギー等の研究開発・実用化の促進のみならず、原子力発電の安全性向上に資する研究開発及び実用化を併せて推進することが重要である旨、強調すべきである。また、原子力発電の安全性向上に向けた研究開発の具体例として挙げられている放射線モニタリング、放射性廃棄物や汚染水の除染、処理、処分等に関する研究開発に加え、廃炉までを視野に入れた災害対応ロボットの研究開発・実用化及び運用体制の構築についても明記すべきである。
Ⅲ.我が国が直面する重要課題への対応
【 ⅰ)生活の安全性と利便性の向上(21頁)】
災害から人々の生活の安全を守るための方策として、高度化・複雑化するシステム全体のリスク管理体制の整備や災害予測シミュレーションの高度化についても明記すべきである。
また、今回の震災においては、専門家が自分の専門分野に基づいて個々に情報発信するのみで、科学者コミュニティとしての統一的な見解が示されなかった。国民の不要な混乱を防ぎ、科学技術への信頼を回復するためにも、科学者コミュニティの統一的な見解を発信できるような枠組みを作ることの必要性につき明記すべきである。
(その他)
【表記の統一】
「東日本大震災」と「東北地方太平洋沖地震」の2つの表記が見られるので、「東日本大震災」に表記を統一すべきである。