(社)日本経済団体連合会
日本経団連は、2月23日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「日・EU経済関係の強化・統合に向けて」を開催した。同シンポジウムは、リスボン条約発効によりEUの通商政策の決定に重要な役割を果たすことになった欧州議会のヴィタール・モレイラ国際貿易委員長の訪日の機会を捉え企画されたものであり、日本経団連の会員企業や在京大使館などから約180名が参加した(当日のプログラムは別添参照)。
日本経団連を代表して「開会挨拶」に立ったヨーロッパ地域委員会の横山進一共同委員長は、日・EU経済統合協定(EIA)に関する三次にわたる提言など、日・EU経済関係の強化に向けた経団連のこれまでの取組みを紹介、今春の日・EU定期首脳協議では、是非ともEIA交渉開始に合意すべきとした。また、日・EUは、経済関係の包括的な強化・統合という方向性では既に一致しており、議論になっているのはその方法論であると強調した。
続く「基調講演」において、モレイラ委員長は、日本と協定交渉を開始することになれば、欧州議会はそれを審査する立場にあるとした上で、交渉開始の条件として、(1)野心的でバランスのとれた互恵的な協定になる余地があると双方が確信していること、(2)強力で一貫性のある持続的な政治的意志があり、協定締結に必要な譲歩や妥協の用意があること、の二点を指摘し、是非これらが満たされることを期待するとした。
昨年の定期首脳協議での合意を受けた、日・EU経済関係を包括的に強化・統合するための方策に関する「政府の共同検討作業の現状」について、西宮伸一外務審議官は、EU側が要望していた非関税4案件(いわゆるパイロット・プロジェクト)について合意するなど一定の成果を挙げていることを紹介した上で、これら以外の非関税措置についても、交渉が開始されれば、法改正も含めて真剣に対処する意志と能力を示していく所存であるとした。一方、ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU代表部大使は、日・EU関係を貿易経済面だけに限定して考えるべきではなく、幅広い枠組みが必要と主張するとともに、欧州製自動車の日本市場でのシェア、直接投資額の対GDP比率、政府調達市場に占める外国企業のシェアが低水準に留まっている点を指摘し、共同検討作業によって日・EU双方に利益をもたらすような決定がなされることを期待しているとした。
パネル討議に先立つ「有識者提言」では、慶應義塾大学の渡邊頼純総合政策学部教授より、(1)「EIA」の定義を確定する必要がある、(2)日・EU間で締結されるいかなる協定もWTOルールと整合的でなければならない、(3)交渉開始にあたり、全ての交渉事項に合意しない限り妥結しないとの原則(一括受諾方式)を確認すべき、との問題提起があった。
「パネル討議」では、日・EU経済関係の強化・統合に向け、本年の定期首脳協議で決定される『次のステップ』をめぐって、欧州ビジネス協会のトミー・クルバーグ会長は、日欧双方の企業が日本市場において直面している規制を含めた非関税問題を解決するには、法的に拘束力のある交渉を行うことが唯一の道であると指摘するとともに、保護主義は停滞をもたらし、競争こそが発展をもたらすと強調した。日本自動車工業会常任委員長の川口均日産自動車常務執行役員ならびに経団連ヨーロッパ地域委員会企画部会長の谷垣勝秀日立製作所執行役常務は、欧州市場における公平な競争条件の確保や対等なパートナーシップの構築といった観点から、来るべき定期首脳協議においてEIA交渉開始に合意すべきと政府側の対応を促した。
経済産業省通商政策局の糟谷敏秀通商機構部長は、欧州を第三国市場への輸出拠点とするためにも公平な競争条件を確保する必要がある、資源の輸出規制など日・EUが協力して対処すべき問題が生じているとし、EIA交渉開始に向けて政府として努力するとした。また、EIAを通じて高水準のルール作りを進めることによって、ポスト・ドーハのWTOにおけるルール作りにも貢献することができる旨指摘した。非関税案件については、問題の特定に要する時間を短縮するなどして高いレベルの政治的コミットメントの下でバランスのとれた合意を目指したいとした。
シュヴァイスグート大使は、日本側の関心が関税の撤廃にあることは明確である一方、EU側の関心が非関税障壁の撤廃にあることも明確であるが、非関税障壁は複雑な問題であることから、交渉を開始するためには、日本側からロードマップが示される必要があるとした。モレイラ委員長は、日本への輸出には様々な困難が伴うといった欧州企業の認識が変化することが重要であり、非関税障壁について日本側が適切に対応する、十分交渉の余地があると確信できなければ交渉を開始しても望ましい結果を得られないとした。
これらEU側の発言に対し、川口自工会常任委員長が、日墨EPAを例にメキシコ向け完成車・部品関税が撤廃された結果、日本の自動車メーカーがメキシコでの生産を拡充したことを紹介し、協定の締結が経済関係や産業協力の拡大につながるという視点が必要と指摘、谷垣経団連部会長も、公平な競争条件が確保されれば、日・EU企業間には研究開発等の面で協力関係をさらに深化させる十分な素地があると強調した。
最後にモデレーターを務めた渡邉慶大教授が、(1)関税のみならず非関税措置も含めて包括的に取りあげて日・EU経済関係の強化・統合を進めていくというシグナルを双方が発信していくことが重要である、(2)欧州統合の父クーデンホフ・カレルギーの言にあるように、認識における悲観主義を意志における楽観主義で乗り越えることが重要である、(3)菅総理から開国や経済連携に関し強い政治的意志が示されている中、モレイラ委員長からも政治的意志なしには難しい課題は実現できないとの発言があった本日のシンポジウムが、楽観主義で困難を乗り越えるためのスタートになることを期待するとコメントし、シンポジウムを締め括った。
シンポジウム「日・EU経済関係の強化・統合に向けて」
【日時】 | 2011年2月23日(水) 14:00~16:00 |
【場所】 | 経団連会館 2階 国際会議場 |
【言語】 | 日英同時通訳 |
1.開会挨拶
横山 進一 日本経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長
2.基調講演
- "EU-Japan Economic and Trade Relations: Challenges and Opportunities"
- ヴィタール・モレイラ欧州議会国際貿易委員長
3.政府報告
- 「合同ハイレベル・グループにおける共同検討作業の現状」
- 日本:西宮 伸一 外務審議官
- EU:ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU代表部大使
4.有識者提言
- 「日・EU経済統合協定の実現に向けて」
- 渡邊 頼純 慶応義塾大学総合政策学部教授
5.パネル討議
- (パネリスト)
- ヴィタール・モレイラ欧州議会国際貿易委員長
- ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU代表部大使
- トミー・クルバーグ欧州ビジネス協会(EBC)会長
- 糟谷 敏秀 経済産業省通商政策局通商機構部長
- 川口 均 日本自動車工業会常任委員長・日産自動車常務執行役員
- 谷垣 勝秀 日本経団連ヨーロッパ地域委員会企画部会長・日立製作所執行役常務
- (モデレータ)
- 渡邊 頼純 慶応義塾大学総合政策学部教授