経団連(十倉雅和会長)は10月15日、提言「産業データスペースの構築に向けて」を公表した。同提言では、「産業データスペース」の構築に向けた現状や課題を整理したうえで、その意義と官民が取るべき具体的なアクションを提示した。同日、記者会見を行った東原敏昭副会長・デジタルエコノミー推進委員長と澤田純副会長・産業競争力強化委員長は、「対応が遅れれば日本は環境分野等で世界から取り残される」といった強い危機感や、「提言を公表して終わりではなく、官民で連携し、迅速かつ着実な実現を図っていく」といった決意を述べた。提言の概要は次のとおり。
■ 現状と課題
近年のESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大や、EUにおける炭素国境調整措置(CBAM)等環境規制の強化を背景に、企業のグローバル・サプライチェーンにおける製品のCO2排出量等に関する情報開示のニーズが増大している。
こうしたなかEUでは、企業・業界・国の垣根を越え、信頼性のある大量のデータを連携する仕組みである「データスペース」の社会実装が着実に進展しており、産業向けのデータスペース(産業データスペース)も始動するなど、取り組みが加速している。
わが国でも、「ウラノス・エコシステム」と呼ばれるデータ連携基盤が一定程度構築されている。しかしながら、国際的に信頼される産業データスペースの前提となる通信相手の本人性やデータの真正性を証明する公的な仕組み(トラスト基盤)の整備は道半ばである。現状を放置すれば、日本企業による国境を越えたデータ連携・利活用に支障を来し、わが国の産業競争力に深刻な影響を及ぼしかねない。
こうした現状を踏まえ、政府が戦略性を持ってトラスト基盤を整備し、国際的に相互運用可能な産業データスペースを構築することが急務である(図表参照)。
■ 産業データスペース構築の意義
トラスト基盤を備えた産業データスペースの構築は、次に示す価値の実現に寄与すると期待される。
(1)産業競争力の強化
産業データスペースを通じて、データ連携の拡大・高度化を図り、新たな価値・サービスを創出することで競争力を高め、結果としてわが国全体の産業競争力強化につながる
(2)地球規模課題の解決
グリーントランスフォーメーション(GX)やサーキュラーエコノミー(CE)等の実現に向け、個別の企業・業種の垣根を越えた信頼性の高いデータ連携体制を構築することで、バリューチェーン全体での環境負荷の低減に貢献できる
(3)情報開示・規制への対応
産業データスペースの活用により、企業はESG投資家等からの情報開示のニーズやCBAM等の環境規制に円滑に応えることが可能になる
■ 官民に求められるアクション
まず、デジタル庁がリーダーシップを発揮し、経済産業省とも連携して、政府全体の戦略と工程表を早急に提示すべきである。その際、「トラスト基盤の整備」を最優先に取り組むべき事項と位置付け、所要の環境整備を体系的に進める必要がある。
そのうえで、既存のデータ連携システムを官民で拡充していくことが有効となる。例えば、ウラノス・エコシステムをトラスト基盤と連携させ、国際的な信頼性や相互運用性を加えていく対応などが考えられる。
また、産業データスペースの立ち上げの初期段階では政府が予算を抜本的に拡充し、管理・運営にかかるランニングコストは産業界が応分の負担をすることで、官民による適切なコスト負担を図るべきである。ただし、中小企業に対しては、政府による支援が欠かせない。
官民で魅力あるユースケースを創出し、具体的なメリットを幅広い業界・企業に訴求していくことも重要である。
さらに、わが国の産業データスペースの国際展開に向けて、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)といった枠組みを活用することも求められる。
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今後、経団連は官民で協議する場を設置し、関係省庁や関係団体との連携のもと、同提言の早期実現に取り組んでいく。
【産業技術本部】