経団連は6月28日、経済産業省が公表した「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」(注1)に関する説明会を東京・大手町の経団連会館で開催した。2027年までに日本のスタートアップの数・成功のレベルを共に10倍にするという目標「10X10X」に向けて、経団連ではアクションの一つとして、大企業による「事業のカーブアウト・スピンオフの加速」を掲げ、「スタートアップフレンドリースコアリング」の採点要素にも盛り込んでいる。
政府でもカーブアウトの推進に向けた検討を進め、24年4月、経産省から同ガイダンスが公表された。同説明会では、経産省産業技術環境局(注2)の野澤泰志技術振興・大学連携推進課長(当時)から説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 大企業にとってのカーブアウトの意義
わが国において、大企業による研究開発費は、民間による研究開発投資総額である約14.2兆円の9割程度を占める。他方で、研究開発成果のうち、事業開発人材・ノウハウの不足や既存事業とのシナジーの欠如等といった理由により、事業化されずに消滅する技術が約6割存在する。こうした社内の経営資源だけでは事業化できない技術を社外に出し、日本全体として生かしていく必要がある。
大企業のオープンイノベーションの文脈のなかでカーブアウトやスピンオフの注目度が増している一方で、先行事例はいまだ少数である。カーブアウトというと、従来はリストラに近いものと連想されることが多かったが、そうではないことを強調したい。自社内では事業化できない技術を戦略的に切り出すのが「スタートアップ創出型カーブアウト」であり、なかでも起業家がスタートアップ創設の発意と経営の主導、外部資金の調達を行うものを「起業家主導型カーブアウト」と呼ぶ。
大企業にとっては、企業ネットワークからの価値の創出による無形資産経営の実践、自社のレピュテーションや従業員のモチベーションの向上、事業化していない知的財産の拠出を通じた経済的利益の創出など、カーブアウト推進による経営戦略上のメリットが期待される。
■ 実務上のポイント
自社での事業化を断念した技術にとって、カーブアウトは有効な手段である。事業の成長速度を最大化するには、いわば打率を上げるよりも少しでも多く打席に立つことが重要である。元の事業会社から離れて、その技術や事業を取り巻く競争環境に最もフィットした戦略・組織体制・事業遂行能力を構築することが求められる。
そもそも自社組織では事業化できないためにカーブアウトを選択するわけであるから、大企業は主導する起業家に対して、インセンティブを阻害しないことが重要である。また、事業の成長速度を最大化するために、ブランドや施設、人員といった経営資源を必要に応じて提供することが望ましい。起業家主導型のカーブアウトの基本思想などを理解したうえで所要のプロセスをフローとして社内で整備し実践することが、ファイナンシャル・リターンを含めた将来的な利益につながり得る。
同ガイダンスでは、人事政策、知的財産、資本政策・ガバナンス、事業会社によるカーブアウト前後のエンゲージメント等における実務上のポイントも整理している。ぜひ参考にしてもらいたい。
(注1)「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」取りまとめ~経産省ウェブサイト
https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240426003/20240426003.html
(注2)7月1日付で、イノベーション・環境局に改称
【産業技術本部】