経団連は、2022年3月に「スタートアップ躍進ビジョン」(躍進ビジョン)を公表してから約1年間、規制改革要望、税制改正要望、好事例紹介の説明会の開催、「スタートアップフレンドリースコアリング」の策定など、精力的な活動を重ねてきた。政府においても、経団連の要望を盛り込んだ施策を数多く打ち出している。官民それぞれの取り組みにおいて一定の前進がみられるなか、今後さらなる対応を進めるため2月14日、オンラインセミナーを開催した。出雲充審議員会副議長・スタートアップ委員長による開会あいさつに続く説明の概要は次のとおり。
■ スタートアップ育成に向けた政府の取り組み
(経済産業省 吾郷進平スタートアップ創出推進政策統括調整官)
スタートアップこそ、課題解決と経済成長を担うキープレーヤーであり、雇用創出にも大きな役割を果たしている。22年1月に岸田文雄内閣総理大臣が年頭記者会見において「スタートアップ創出元年」を宣言したことを皮切りに、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)では「スタートアップへの投資」が重点投資分野の柱の一つに位置付けられた。11月には「スタートアップ育成5か年計画」(5か年計画)が策定され、令和4年度第2次補正予算では支援施策が過去最高の約1兆円規模で計上された。12月には、「令和5年度税制改正大綱」が閣議決定され、スタートアップ振興に資する改正も数多く盛り込まれた。
5か年計画は、スタートアップへの投資額を5年で10倍にするという挑戦的な目標を掲げ、その実現に必要なさまざまな支援策を示したものである。その大きな柱は、人材・ネットワークの構築、資金供給強化と出口の多様化、オープンイノベーションの推進の三つであり、いずれも既存企業・スタートアップ双方の力が必要となる。
具体的には、大学発スタートアップにおける経営人材の確保支援、ストックオプション税制の改正、SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本拡充をはじめ、多数の施策を用意している。また、躍進ビジョンが指摘する「起業が普通の選択肢である社会をつくる」という視点も非常に重要であり、すべての施策を一斉に進めていく5年間とする必要がある。
政府全体でスタートアップ振興に取り組み、他省庁の施策に関する問い合わせであっても一体的に対応できるようにする。23年の春夏をめどに、成長戦略とともに、スタートアップ振興関連施策についてもフォローアップを行う予定である。
■ スタートアップM&Aの実務対応と戦略(アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 金子涼一弁護士、菅隆浩弁護士)
21年から、スタートアップを対象とするM&Aに対する注目度が高まっている。この背景には、経産省をはじめとする政府支援策の充実によってスタートアップの数自体が増加していることがある。一方で、株式公開(IPO)の環境が従前よりは鈍化していることを受け、従来、EXITの主流であったIPOではなく、M&Aが選択肢に挙がるようになってきた。売り手・買い手双方の増加を背景として、部分買収や合弁会社化などのさまざまなスキームも登場し、スタートアップを対象とするM&Aも多角的・戦略的なアプローチが必要となっている。
スタートアップを対象とするM&Aは、その特性を理解したうえで行うことが「うまみ」につながる。その際、対象となるスタートアップのステージによって、ターゲットは何か(優秀な人材、先端的な技術、革新的な事業アイデア等)、利害調整を要するステークホルダーは誰か、が大きく変わってくる。
なかでも優秀な人材の獲得は、米国のアクハイア(Acquihire)の例にもみられるように、M&Aにおける重要な要素である。優秀な人材はコミュニティー化しており、ファウンダー・ベンチャーキャピタル(VC)間の連携も多くみられるため、優秀な人材が優秀な人材を呼び込むことは大いにあり得る。特に、初期ステージのスタートアップを対象とするM&Aにおいては、人材のネットワークの獲得もポイントとなる。
日本のスタートアップ市場が活性化していくなかで、優良なスタートアップの買収はコンペティティブな案件となる可能性がある。スタートアップM&Aの潮流に出遅れないよう、マイノリティー出資も含め、積極的なスタートアップ投資を検討することが中長期的な観点において重要である。
【産業技術本部】