経団連は、提言「スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して」(2022年3月15日公表)において、「5年後までにスタートアップの裾野・起業の数、成功するスタートアップのレベルの双方を10倍にする」という目標を掲げた。その目標達成に向けた柱の一つが世界で勝負できるスタートアップの創出であり、具体的なアクションとして、大企業による「事業のカーブアウト・スピンオフの加速」を掲げている。
そこで、優良事例の紹介や経験企業によるノウハウの共有を目的に「カーブアウト活用法に関するセミナー」を7月12日にオンラインで開催した。概要は次のとおり。
■ カーブアウト活用のトレンドと実例の紹介
(講演=鷺山昌多 Beyond Next Ventures執行役員)
近年、企業では内部リソースの有効活用や新規事業・新市場開拓のニーズが増している。同時に、オープンイノベーションの推進や社内アクセラレータープログラムの増加により、社内起業家を育成・後押しする土壌も企業内に形成されつつある。加えて、カーブアウト実績の増加や成功事例の誕生、官民の起業支援制度や融資制度の充実が図られており、社会全体でカーブアウトを支援する機運が高まっている。
カーブアウトという手法を用いることで、経営管理側には外部のベンチャーキャピタルのノウハウを得つつ事業育成ができるというメリット、社内起業家側には元企業への信頼の活用とスピード感のある意思決定を両立できるというメリットがある。そのため、以前と比べてカーブアウトが現実的な選択肢として検討される傾向にある。
■ パネルディスカッション
(モデレーター=伊藤毅 Beyond Next Ventures社長、
パネリスト=奥田英樹 デンソー新事業推進室担当部長、
米澤実 東芝CPSxデザイン部新規事業推進室室長)
カーブアウトベンチャーの立ち上げに携わった奥田氏は、事業領域としての注力度合の配分を考慮すると、社内で細々と続けるよりも外部のリソースやノウハウを活用する方が大きく飛躍できると考え、カーブアウトを選択したと説明した。
一方、外部に送り出す立場である米澤氏は、社内に事業化の受け皿がない研究開発のシーズをカーブアウトさせることでスピード感をもった成長が可能になり、企業側にもメリットがあると説明した。
両氏は、初めてカーブアウトを行う場合のハードルとして、どのようなかたちで新会社を設立するのかというルール整備、社内の説得、経理・人事・法務等の面における諸調整を挙げた。また、これらのハードルを乗り越えるにあたり、社内において、緊密なコミュニケーションをとるとともに、その重要性について定期的に訴え続けたことがカギとなったと振り返った。
最後に、カーブアウトを行うメリットとして、(1)迅速かつ柔軟に意思決定を行える(2)前例ができることによって経営判断の選択肢の一つとしてカーブアウトを示せるようになり、チャレンジしたい社員のモチベーションの担保につながる――の2点を強調した。
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経団連は、提言の実現に向けて、今後も情報提供セミナーの開催をはじめとするさまざまな活動を継続するとともに、政府や地方公共団体等の関係方面に引き続き働きかけていく。
【産業技術本部】