「トランプ大統領のアジア歴訪に点数をつければ100点満点で何点となるか? その根拠は?」
この質問をさまざまなアメリカ人に投げかけてみたが、点数を即答した人はいなかった。むしろ、マイナス100点までの可能性も聞くべきとのコメントがあった。確かに、ロシア疑惑、オバマケア、税制改革などの国内課題が山積するなかでの外遊を批判する向きもあろうが、歴訪自体をネガティブにとらえる反応はなかった。
あるジャパノロジストは、点数はつけず、歴訪の前半、特に日本訪問では高得点だが、中国訪問でかなり下がり、ASEAN首脳会議での発言には失望したと評価した。実は、この評価は最大公約数ともいえるものだった。
同時に、歴訪をどう評価するかは、歴訪自体にどのような懸念や期待があったかが、ベースになることもしばしば指摘された。トランプ大統領が選挙活動中のような発言をしないか、それに対して訪問先がどう反応するか、歴訪を途中で切り上げたりするのではないか、といった懸念を持った人には、12日間の日程を無事終えたことは評価に値するものであろう。他方、今回の歴訪で、トランプ政権のアジア政策や通商政策のスタンスが明らかになることを期待した人からすれば、多少明らかになったものの、その内容には疑問が残るといった評価にもなり得る。
日本訪問では、トランプ大統領と安倍首相の良好な関係が印象づけられ、北朝鮮には最大限の圧力をかけることで一致した。対日赤字削減に向けた協議は継続するものの、日米FTA交渉の開始といった驚くべき提案はなく、ほぼ完璧とみられている。
中国訪問について、スーザン・ライス元大統領補佐官(オバマ政権)は「Trump is making China great again」と酷評した。ライス氏によれば、中国は国賓訪問には政策で妥協するより儀礼で対応する傾向があり、トランプ大統領にはそれが奏功した。習近平国家主席に対し、北朝鮮の核保有を認めず、朝鮮半島の非核化に協力するとのスタンスを引き出したとされるが、新たな譲歩や約束は得ていない。米中企業による28兆円規模の取引契約が注目される一方、個別問題の追及は影を潜め、対中赤字は中国よりもこれまでの米政権の対応の責任とした。トランプ大統領が南シナ海における中国の行動への懸念を明確に表明しなかったことも、習近平国家主席にプラス、トランプ大統領にマイナスの根拠となっている。
ベトナムで開催されたAPEC関連会合では、「自由で開かれたインド太平洋」の構想を発表する一方で、米国第一をあらためて公言し、自らの手を縛る大きな協定ではなく米国を利する二国間協定を重視する方針を繰り返した。11月11日には、米国を除く環太平洋パートナーシップ(TPP)に参加する11カ国が、「包括的で先進的なTPP」と称する新協定の大筋合意を発表しただけに、トランプ大統領の発言とのコントラストが際立った。
こうした認識のもと、ある人は70点をつけた。これを低く感じるか高く感じるかが、それぞれの評価となろう。いずれにせよ、今回のアジア歴訪は、トランプ大統領の人となりや政策の一端を映し出し、今後取り組むべき課題を示唆した点で非常に有意義であったと考える。
(米国事務所長 山越厚志)