■ Brexit交渉の現状
今年3月29日に英メイ首相が欧州首脳理事会のトゥスク常任議長に脱退を通知したことにより、EU条約50条に規定される脱退条項に基づく脱退手続きが開始された。
7月17日、第1回のEUとイギリスとの脱退交渉が開始された。EU側交渉官はバルニエ氏、イギリス側は離脱担当相のデービス氏が交渉に当たっている。交渉は、第1段階(脱退協定)と第2段階(将来の枠組協定)に分かれている。脱退交渉の内容は、主に(1)市民の権利保障(2)イギリスの分担金を含めた清算金(3)アイルランド国境問題――となっている。
11月9日、10日に第6回の交渉が実施された。交渉終了後、バルニエ交渉官は、(1)市民の権利保障については、家族の再統合、社会保障の享受権、イギリスおよびEUにおける判例法の一貫した適用の確保におけるEU司法裁判所の役割について、さらなる交渉が必要であると述べた。また、(2)清算金について、メイ首相の9月22日のイタリア・フィレンツェでの演説を踏まえ、具体的な義務について詰める必要があるとした。(3)アイルランド国境管理についても1998年の聖金曜日の和平合意(ベルファスト合意)および共通通行地域への英離脱の条件・影響等について共通の理解を確保する必要があるとした。これら3つの交渉事項は不可分に結びついており、これらの問題が片づかない限り、第2段階に進めないことをあらためて確認した。そのうえで、英離脱が12月14日、15日に開催される欧州首脳理事会の優先課題であるとした。この会議で第2段階に進めるか否かが決定されることになる。なお、イギリス政府は、2019年3月29日23時(ブリュッセル3月30日0時)にイギリスがEUから離脱することを離脱法案に規定する旨を表明している。
■ 4つの注目ポイント
今後注目していくべき点としては、4点ある。
第1に、脱退協定の内容である。特に、市民の権利については、EUとイギリス側の作業グループによって細かな点に分けて議論がなされてきているが、EU司法裁判所およびイギリスの裁判所でどのように市民の権利が保障されていくのかが重要な点となっていく。交渉開始時点では、EU司法裁判所はイギリスでは管轄権を有さないとしていたものの、現時点においては、イギリス裁判所の主権を維持するとしながらも、一貫性のある解釈の確保のためにEU司法裁判所の判決を考慮に入れることを打ち出している。
第2に、将来の枠組協定である。メイ首相は、(1)欧州経済圏(EEA)型では、意思決定に影響を及ぼせず、かつ投票権も行使できないのにもかかわらず、EU法規に拘束されることになるとして否定した。(2)EUとカナダのFTA(CETA)型では、現在の域内市場に比べ、相互の市場アクセスに制限があるため、魅力的ではないとした。また、(3)として、バランスの取れた権利と義務が定められ、EU市場へのアクセスならびにイギリス市場へのアクセスを可能にする、ユニークで野心的な経済協定を締結したいとしている。(1)および(2)は、EUとイギリスとの交渉を要するものである。
第3に、イギリス国内における離脱法(Withdrawal bill)の制定である。7月に離脱法案が提出され、審議されている。これは、1972年欧州共同体法の廃止、EU法の受け入れ、維持されるEU法の解釈等が規律されるものである。
第4に、イギリスと第三国との協定の交渉・締結である。メイ首相が8月末に日本を訪問したのは、将来の二国間協定の布石である。
【21世紀政策研究所】