昨年11月に発効したパリ協定のもと、今後、途上国・先進国を含むすべての国が温室効果ガスの排出削減に取り組み、その取り組み状況について国際的なレビューを受けることとなる。とりわけ、温室効果ガスの約9割をエネルギー起源CO2が占めるわが国において、2030年度の温室効果ガス削減の中期目標(2013年度比26%削減)を実現するためには、国内外のエネルギー需給見通しやエネルギー政策の動向が極めて重要となる。
そこで、経団連の環境安全委員会(木村康委員長)は2月27日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長から、エネルギー問題からみた今後の地球温暖化対策の方向性について説明を聞くとともに意見交換を行った。豊田理事長の説明の概要は次のとおり。
■ 世界のエネルギー需給の見通し
2040年の世界のエネルギー需給は、これまでの延長線上で推移した場合(レファレンス・ケース)で約4割増加し、技術進展が生じる場合(技術進展ケース)でも約2割の増加が見込まれる。このうち、一次エネルギー消費に占める化石燃料のシェアは、レファレンス・ケースで約8割、技術進展ケースでも約7割を占めるなど、今後とも重要なエネルギー源であり続ける。
■ 日本を取り巻く国際エネルギー情勢のリスク
日本を取り巻く国際的なエネルギー情勢は不安定性を高め、大転換期を迎えている。具体的には、(1)原油価格の下落が続いた場合の中東諸国の政情不安(2)ウクライナや南シナ海といった世界各地における地政学的不安定性(3)パリ協定下で本格化する各国の気候変動への対応(4)わが国における原子力発電所の再稼働の動向(5)米国トランプ政権のエネルギー政策――の5つが、今後の大きなリスク要因として挙げられる。
■ 日本のエネルギー政策の課題
わが国が2015年7月に策定した2030年度のエネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し)では、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性(S+3E)のバランスのもと、適切な政策を講じた際に実現されるエネルギー需給見通しを示している。
今後、エネルギーミックスに示された、省エネ目標(石油危機後並みのエネルギー効率の改善)や電源構成、さらには、エネルギーミックスを前提に策定された2030年度の温室効果ガス削減の中期目標を実現するためには、原子力発電所の安全確保と着実な再稼働や、再生可能エネルギーの電源間のバランス化とコスト効率化を進めていくことが重要な課題である。
■ 中長期の地球温暖化対策のあり方=実践的アプローチ
パリ協定は世界全体での気温上昇を2℃以下に抑制する「2℃目標」を掲げるとともに、各国に対し、長期の低排出発展戦略の策定・提出を要請している。こうしたなか、日本政府においても、環境省と経済産業省において、それぞれ2030年度以降の長期の温暖化対策のあり方について検討が進められている。
中長期の温暖化対策は、経済成長との両立が前提となる。そこで必要となるのは、温暖化によって生じる「被害」の最小化というより、温暖化対策(「緩和」および「適応」)によって生じるコストも含めた、総合的なコストの最小化を図る「費用最適化」の観点である。費用最適化を図りつつ、CCS(二酸化炭素貯留)と組み合わせた化石燃料ベースのカーボン・フリー水素をはじめとする技術革新とその社会実装を進めることにより、経済成長と両立するかたちで2℃目標を実現し、今世紀末のCO2排出量をゼロとすることが可能となる。
こうした現実的な「実践的アプローチ」の議論を、日本のみならず世界全体に広げていくことが長期・地球規模の温暖化対策を進めるうえで重要となる。
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意見交換終了後、「廃棄物処理分野における情報の電子化に関する提言(案)」を審議したほか、「『長期低炭素ビジョン』(素案)に対する意見(案)」「気候関連財務リスク開示をめぐる動向」「生物多様性に関するアンケート 2016年度調査結果」等について報告した。
【環境エネルギー本部】