21世紀政策研究所(三浦惺所長)は11月4日、連続セミナー「エネルギーミックス実現に向けた展望と課題」の第3回として、「原子力事業の意義と課題(2)原子力事業を巡る法的課題」を開催した。
連続セミナーは昨年8月にスタート、わが国の温室効果ガス削減目標(2030年度26%削減)の積み上げに用いられている、2030年のエネルギーミックスに掲げられた「省エネルギー」「再生可能エネルギー」「火力発電」「原子力」をテーマとして取り上げている。今回は、竹内純子研究副主幹、櫻井敬子学習院大学法学部教授、田邉朋行電力中央研究所社会経済研究所副研究参事の講演の後、竹内研究副主幹がモデレーターを務め、パネルディスカッションが行われた。講演の概要は次のとおり。
■ 講演「原子力再稼働までの“三重の壁”」
はじめに竹内研究副主幹がわが国の原子力事業をめぐる多くの検討課題のうち、既存の原子力発電所を再稼働させるにあたっての喫緊の課題を取り上げ、原子力安全規制、地元合意、原子力訴訟の3点について「原子力再稼働までの“三重の壁”」として説明した。原子力安全規制については、推進組織(経済産業省)と規制組織(環境省傘下の原子力規制委員会・規制庁)の分離はしたが、食品安全規制にあるようなリスク評価(中立公正な評価)とリスク管理(技術的可能性、政策的要素、費用対効果の視点等も含めた管理)の分離についても検討すべきとの指摘があった。
■ 講演「原子力事業をめぐる法的課題」
続いて、櫻井教授がこれまでの原子力発電所訴訟について解説したうえで、原子力法制について、立法論からの問題点を説明した。問題点の1つは、原子炉の設置許可における事前手続きについて、事業者以外に対する手続きが原子炉等規制法に規定されていないことだと指摘し、河川法の審議会、学識経験者、住民、関係自治体の長の意見を事前に聞くプロセスがモデルになり得ると述べた。2つ目として、原子炉等規制法ではブレークダウンした立地規制、離隔距離の基準が定められていないことを挙げ、消防法等の危険物法制においては、政令以下で各設備の離隔距離等の具体的な基準の定めがあると述べた。3番目として、避難計画については、実効的で安全なものであるかという観点から原子炉等規制法のなかに取り込まれるべきと主張。原子力法制は他の法制度とかなり違う特徴があり、それが合理的に説明できるものなのかどうかに関心があると締めくくった。
■ 講演「原子力と制度・司法リスク―リスクを評価・判断できないリスクと、その唯一解を期待しようとするリスク」
次に、田邉氏がそもそもリスクとは何か、法はどのような方法でリスクを制御してきたか、法によるリスク制御の問題点や課題について説明した。「さらなるリスク低減」とリスクマネジメントの視点から、その時々で個別にシロ・クロを判別する法的アプローチだけでは「さらなるリスク低減」に各主体を向き合わせることは困難であり、動的なリスクマネジメント(PDCAサイクル)のアプローチが法制度にも必要であると述べた。また、「今、安全であること」をステークホルダーに理解してもらうのみではなく、「さらなるリスク低減」の取り組みをメッセージとして示し、各主体と共有したうえで建設的な意見・情報交換を行い、相互に影響しあいながら、共に実践していくといったリスクコミュニケーションの重要性が今後増していくとの見解を示した。
【21世紀政策研究所】