21世紀政策研究所(三浦惺所長)は10月28日、セミナー「英国・欧州におけるエネルギー・温暖化対策の最新動向―英国王立国際問題研究所・気候変動会議での議論から」を開催した。
地球温暖化対策に関する2020年以降の新たな国際枠組みである「パリ協定」が11月4日に発効し、その後、7日から国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)がモロッコのマラケシュで開催された。
そのようななか、この10月に21世紀政策研究所の有馬純研究主幹(東京大学公共政策大学院教授)が英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)の招聘によりロンドンを訪問、同研究所主催の気候変動会議で講演を行い、各国関係者との意見交換を実施した。また、有馬研究主幹にはこの機会に、英国のEU離脱による温暖化対策への影響をはじめとした英国・欧州のエネルギー・環境政策の最新動向についての調査をあわせて実施してもらった。
そこで、同セミナーでは、有馬研究主幹がチャタムハウスでの講演、英国・欧州での調査結果等について報告した。概要は次のとおり。
■ チャタムハウスでの講演内容
チャタムハウスからの講演依頼のテーマは、「野心のレベル(削減目標)のさらなる引き上げについてどう考えるか」であった。日本の約束草案の根拠となるエネルギーミックスの実現には、まず原子力のシェアの回復が重要であり、日本がさらに目標を引き上げられるかどうかも原子力発電所の再稼働の進捗次第である。
また今後、透明性の確保や途上国支援、グローバルストックテイク(協定の進捗状況の5年ごとの確認)の議論が行われるが、そこで一番大事なことは、そのプロセスを非難の応酬にしてはならないということだ。非常に努力を要する目標を設定した国が目標未達を批判され、容易に達成可能な目標を設定した国が目標達成を賞賛されるようでは、野心的な目標を出す国はなくなる。
■ 英国のEU離脱(BREXIT)による温暖化対策への影響
EUのエネルギー・環境政策において、英国の存在感は非常に大きい。EU加盟国間(西欧諸国と石炭依存度の高い東欧諸国)で対立があったEU40%目標(2030年に1990年比40%削減)の合意等で、今まで英国がEUのドライバー的役割を果たしてきた。
EU離脱の国民投票後の英国内の動向としては、2028―2032年の第5次炭素予算を90年比57%減とする政府案が発表された一方、メイ内閣における政策プライオリティーや多岐にわたる複雑なBREXIT交渉のなかでの温暖化問題の位置づけは低下しがちであり、BREXIT省の新設に伴うスクラップ&ビルドでエネルギー気候変動省が廃止(ビジネス・エネルギー・産業戦略省への吸収)された。
英国国内における温暖化対策への影響としては、BREXITによって経済にマイナスの影響が出た場合の、コスト重視から再生可能エネルギーに対する政策見直しの可能性がある。また、エネルギーインフラの更新に外国企業の投資を呼び込んでいた英国において、BREXITによって投資環境が不透明化したことによる新規投資の停滞やインフラ更新の遅れが、エネルギーミックスへ影響する懸念がある。
EUに対する影響としては、57%削減目標を掲げる英国の離脱によるEU全体としての40%目標がどうなるのかが挙げられる。また、野心的な目標に消極的な東欧諸国の発言力が相対的に増大することによるEUのエネルギー・環境政策の今後の議論に及ぼす影響も決して小さくはない。
【21世紀政策研究所】