21世紀政策研究所(三浦惺所長)は9月21日、東京・大手町の経団連会館で連続セミナー「エネルギーミックス実現に向けた展望と課題」の第2回を開催した。連続セミナーでは、わが国の温室効果ガス削減目標(2030年度26%削減)の積み上げに用いられている30年のエネルギーミックスで掲げられた「省エネルギー」「再生可能エネルギー」「火力発電」「原子力」を各回のテーマとして取り上げている。
今回は、「原子力事業の意義と課題(1)電力自由化との関連を中心に」をテーマに、竹内純子研究副主幹がモデレーターを務め、有馬純研究主幹(東京大学教授)、畠山陽二郎資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課長が参加した。
■ 原子力事業の意義と課題
はじめに畠山氏が、日本のエネルギー事情、エネルギーミックス、電力システム改革、原子力をめぐる諸政策などを説明。原子力政策についてコスト面、CO2削減の面から、また資源のない日本にとってエネルギー源の多角化・安定供給の面から原子力は必要であると述べた。そのうえで、課題も多くあり、まず「社会からの信頼の獲得」が何より大事であること、また「電力自由化との両立」も重要であることを指摘。信頼の獲得に向けて原子力依存度の低減(円滑な廃炉)、安全・防災対策の強化、使用済み燃料対策、福島復興等に取り組む方針を示した。電力自由化との両立については、原子力は自由化で放任すると立ち行かなくなるという海外の事例から、自由化のなかでは一定のリスクをカバーする政策措置が不可欠となることを指摘、わが国においても廃炉会計(費用平準化の仕組み)、再処理拠出金法等の対応を順次進めている旨説明があった。
また、海外における自由化後の原子力活用の例として、イギリス、アメリカの事例を紹介。イギリスでは将来の供給力確保の観点から原子力を活用する方向に方針転換したが、電力自由化が進展するなかで、事業者による新規投資が停滞しているため、投資インセンティブを高める策として、原子力発電にいわゆる価格保証制度を導入したこと、アメリカでは初期投資の資金調達に対する政府保証等の金融支援策が取られていると説明した。これらの海外の例から、金融的なリスクをどう取るのか、マーケット価格で販売する一方で固定費を含めた投資回収をどう進めていくかが今後の原子力事業環境に残されている課題であり、自由化のなかでエネルギーミックスの原子力20~22%を達成するため、政策措置を含めて対応をしていかなければならないという考えを最後に述べた。
次に竹内研究副主幹が、地域独占・総括原価料金規制の撤廃による資金調達コストの上昇や営業キャッシュフローを安定的に捻出してきた送配電部門の法的分離による資金繰りの余裕度低下といった原子力事業の自由化リスクについて説明した。
■ パネルディスカッション「わが国の原子力事業の今後を考える」
冒頭、有馬研究主幹は「温暖化の観点から考えた原子力の必要性」として、国際エネルギー機関(IEA)の「2度目標シナリオ」(産業革命前からの地球平均気温の上昇を2℃未満に抑える長期目標)では、日本の原子力発電の新増設を念頭に置いた姿となっていることを紹介。さらに、原子力発電所の再稼働・新増設が進まない場合、温室効果ガス削減の目標達成による電力コスト増、産業競争力低下、管理経済的手法の導入など、産業界にとって今後の事業環境に大きな影響を与えるおそれがあると指摘した。
同研究所では、「エネルギーミックス実現に向けた展望と課題」をテーマとした連続セミナーを引き続き開催していく。
【21世紀政策研究所】