富士通総研経済研究所主席研究員 |
榎並利博 |
企業実務への影響を考えるうえでまず押さえておきたいのは、マイナンバーを取り扱う立場として「個人番号利用事務実施者」と「個人番号関係事務実施者」という二つの立場があるということだ。前者はマイナンバーを自らの業務で利用する立場であり、主に行政機関が該当する。後者はマイナンバーを自らの業務(ビジネス)で利用できるわけではないが、行政機関がマイナンバーを利用するうえで補助的にマイナンバーを扱うという立場になる。民間企業はこの後者の立場に該当する。民間企業でも一部個人番号利用事務実施者となる特殊なケースがあるが、これについては第6回で触れたい。
個人番号関係事務で影響が及ぶ民間企業の実務は、人事給与関係の事務と国税の法定調書関係の事務である。
(1)人事給与関係事務
民間企業では、社員の所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収、社会保険料(医療保険、介護保険、年金保険、労働保険)の支払いや届出・申請など各種手続きを行っている。例えば、社員の入退社や住所変更についても行政機関と異動連絡の事務を行っており、今後はこれらの事務手続きにおいて、マイナンバーを使っていくことになる。
民間企業では2016年1月から社員のマイナンバーを収集すると同時に、マイナンバーを利用する準備をしなければならない。例えば、社会保障関係の資格・給付関係手続きや保険料の支払い、住民税の異動連絡事務などはすぐにでも開始されるからだ。
所得税に関しては16年分の所得から対象となるため、16年12月の年末調整に向けて、社員本人および配偶者や扶養親族のマイナンバーも収集する必要がある。住民税については翌年課税のため、17年1月の給与支払報告書の提出からマイナンバー付きで提出することになる。また、医療保険の事務については被保険者および被扶養者のマイナンバーを収集しなくてはならない。
(2)国税の法定調書関係事務
国税については申告書や法定資料の提出において、マイナンバーおよび法人番号を記載する必要がある。一時的な報酬、配当金、保険等の一時金、投資信託の分配金などを支払った相手についても、マイナンバーの告知を求め、管理していくことが必要となる。企業が通常税務署に提出することが多いものとしては、配当や剰余金分配などの支払調書、報酬・料金などの支払調書、給与所得や退職所得の源泉徴収票などがあり、講演料・原稿料の支払いや退職所得源泉徴収票などはすぐにでも利用が始まる。
また、法人番号については制限なく利用が可能であり、公的機関へ書類を提出する場合には、今後すべて自らの法人番号を記載して申告することを想定しておいたほうがよいだろう。
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次回は「マイナンバーの適正な取り扱い」について解説する。