このような状況を踏まえ、経団連では2022年3月に提言「スタートアップ躍進ビジョン—10X10Xを目指して」を公表し、持続的成長の新たな牽引役としてグローバル級のスタートアップを継続的に創出するとの目標を掲げた。
本座談会では、日本経済を浮揚させ、再度競争力を取り戻すために最も重要な課題として、スタートアップエコシステムの抜本的な強化に向け、産学官が起こすべきアクションについて、具体的な取り組みの事例を交えて議論する。
南場 智子(経団連副会長、スタートアップ委員長/ディー・エヌ・エー会長)
日本経済は過去30年、新しいものを生み出せずに競争力を失っている。EUでは5年前から国を挙げてスタートアップ育成に取り組んでいる。米国のVCは100倍の成長を目指すほどハングリーで、小さな成功はカウントせず、失敗を深追いしない。日本はグローバルに挑戦する人材が少ないので、教育の段階からグローバルに人とつながり、経験を広げる機会をつくることが必要だ。当社はGAFAとほぼ同年代に起業しながら、グローバル進出で足踏みしていたが、これからもっと存在感のある企業にすべく挑戦していきたい。人材の質にこだわるメガベンチャーとして起業人材を輩出していきたい。
髙島 宗一郎(福岡市長)
行政として地域密着型のサービスをしながらスタートアップと向き合い、彼らがやりたいことを社会に実装するよう心掛けている。米国では大手企業の拠点が首都一極集中とはなっていない。ビジネスコストが安く、失敗してもまた挑戦できる点を地方都市の魅力と捉え、2012年に福岡市は「スタートアップ都市宣言」を行った。今や日本で一番起業しやすい都市だと自負している。リスクを取ってチャレンジする人が尊敬される社会にすることを目指し、福岡市からロールモデルを作って全国に広げていきたい。福岡が成功すれば、あらゆる地方都市のヒントにもなるだろう。
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科教授)
起業には、学校や親族など周囲に起業家がいるかどうかが大きく影響する。学校の成績と起業家の資質との間には、ほとんど相関関係が見られない。学校教育において、今後どういう能力を伸ばすべきか根本的な議論をすることも大切だ。私の研究室では、大企業への就職よりも、起業を当然のキャリア選択として考える学生が多くなっている。東大全体でも起業に興味を持つ人は多く、意識は変わってきている。研究室からはアジア圏で成功した会社もあるが、福岡はアジア展開において重要な拠点である。これからは、将来的には年間100社のスタートアップを世に送り出し、日本の社会を元気にしたい。私自身もAIの研究者として世界を驚かすような技術をベースに、世界で戦えるスタートアップを作っていきたい。
瀧 俊雄(スタートアップエコシステム変革タスクフォース委員/マネーフォワード執行役員)
留学先の米国の大学では、起業は優秀な人だけがするものではなく、当たり前のこととなっており、アイデアと行動次第で資金調達のできる社会があることを知り帰国後に留学中に知り合った知人とともに会社を立ち上げた。私は人材の流動化を重視している。転職社会を当たり前にして、自らも実力を付け有限な責任と権利を会社に与えてもらうのではなく、企業にいながら自分で無限責任を取りにいくやり方もある。大きなファンドがリターンを生むエコシステムを作り、東南アジアなどを視野に入れて海外市場での成功を狙いたい。
根本 勝則(司会:経団連専務理事)
- ■ スタートアップ振興の重要性とそれを取り巻く環境
- 裾野・高さとも5年で「10X10X」の世界に
- ■ 世界中から人や企業が集まる都市へ
- 福岡市の10年間の軌跡
- 身近な起業家の存在が起業のハードルを下げる
- ■ グローバルを目指すスタートアップの創出
- リスクへの向き合い方を変えること
- 産業と地域の掛け算でグローバルに戦える道が見えてくる
- スタートアップの規制緩和で起業しやすい環境構築を
- ■ 起業家人材の育成
- 学校教育の場で今の時代に必要な能力を付ける
- アカデミアと国の連携で産業が求める人材を輩出
- 10X10Xの世界の実現に向けて