小野 透(経団連資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行/日本製鉄技術総括部上席主幹)
エネルギー・温暖化対策はS+3Eが大原則。ここが確保されなければ、どんな立派なビジョンを掲げても実現は不可能。特に国際競争力が保てる、イコールフッティングを重視したエネルギー政策が展開されなければ、国内の産業活動に大きな影響を及ぼし、投資抑制にもつながる。再エネは事業規律や一定の事業規模が必要。2100年といった長期を考え、より安全性の高い原子力を含め、イノベーションへのチャレンジに向けた取り組みを今から始めておくべきだ。製品やサービスなどのライフサイクル全体を通して低炭素社会の実現に取り組むGVCを通じて、地球規模の温暖化対策に貢献することができる。
地下誠二(日本政策投資銀行取締役常務執行役員)
金融市場は、短期的に割り切ってリスク回避する傾向がある。長期のエネルギー政策には機能しないこともあることを念頭に置く必要がある。特に大規模電源や超長期の送配電網などでは投資金額が巨額すぎて、投資回収の予見可能性が不安定。電力の市場のつくり方、制度設計にファイナンスの考えも取り入れるべき。例えば、英国には、一部の再エネや原子力発電を脱炭素電源と位置付けて、市場価格をある程度保証する仕組みがある。そのような市場の仕組みを設計できれば、ファイナンスはしやすくなる。
紀ノ岡幸次(関西電力エネルギー・環境企画室エネルギー・環境企画部長)
エネルギーミックスの柱は、非化石電源である原子力と再エネの2つ。このバランスをどのように保ちながら進めていくかが重要になる。再エネは自立化が今後の課題となる。電力システム改革は、投資回収の予見可能性を高めるためにも、電力取引市場で価格が安定するような市場の設計が必要。また、分散型システムと系統システムの両立が必要。分散型だけでは普及しない。電力会社の送配電技術は世界をリードしている。コンサルティングも含めて、これから電力システムをつくる途上国など海外にも積極的に進出することで、世界の温暖化対策に大きく貢献できる。
秋元圭吾(地球環境産業技術研究機構システム研究グループ グループリーダー・主席研究員)
パリ協定の2度目標は意欲的な目標だが、実現の具体的な道筋はない。長期的には脱炭素化に向かわなければいけないが、その途中の段階として低炭素化のオプションがある。長期目標の実現には非連続のイノベーションが不可欠だが、大きなコストがかかるようではSDGsの観点からはマイナス。カーボンプライシングも同様で、電気料金が上がれば、企業は技術開発ができなくなり、CO2削減の原資を奪ってしまう。イノベーションでSociety 5.0の社会が実現すれば、少ないエネルギーで豊かな生活が送れるなど、エネルギー需要も変わる可能性もある。Society 5.0による社会変化も注視して方向性を探るべき。
竹内純子(司会:21世紀政策研究所研究副主幹)
国際的な温暖化対策に重要なのは実行。日本は、高い技術を持つ産業界がどう貢献できるか、そこが地球温暖化対策、そして持続可能な社会に向けての鍵になる。イノベーションは単なる技術だけでなく、その後のサービス化によって社会変革をもたらすことが重要。例えばモビリティーとユーティリティーの融合など、産業構造も変わっていくなかで、大きな変革を起こしていくことは、大変なチャレンジだと思う。今後もそういった議論が進むことを期待したい。
- ■ エネルギー・地球温暖化対策をめぐる状況変化
- 長期目標には不確実性がある、短中期では“低”炭素化も重要
- 原子力の安全文化の再構築、再エネの主力電源化が課題
- S+3Eの確保が長期ビジョンの前提
- 長期が見通せないとファイナンスの対象になりづらい
- ■ エネルギー転換の実現に向けた課題と方向性
- 分散型システムと系統システムの両立
- コストは需要家にとって死活問題、今の技術を超えるチャレンジを
- Society 5.0でエネルギー需要が変わる
- カーボンプライシングはイノベーションを阻害
- 投資回収の予見可能性を高める仕組みの設計が必要
- ■ 国際社会において日本が果たすべき役割
- 日本の技術を海外に、金融もその分野で貢献できる
- 送配電技術の世界貢献、アジアから全世界へ
- 社会システムを含めた海外貢献を目指す
- GVCを通じて地球規模の温暖化対策に貢献する