泉谷直木(経団連審議員会副議長、起業・中堅企業活性化委員長(当時)/アサヒグループホールディングス会長兼取締役会議長)
日本のベンチャー・エコシステムの進化に向けて、最も変わるべきは大企業であり、その目指すべき方向性は「オープンイノベーションの定着・本格化」である。そのためには、まず、経営者層がイノベーションに対する理解を深め、「既存事業の継続・成長」と「新規事業の探索・投資・開発」を区別した経営判断を行うことが必要だ。そして、「出島」のようなスタートアップ連携の専門組織の設置、スタートアップへの人材交流、人材育成、他社を含めたオープンイノベーションの「場」づくりといった活動が求められる。
青柳直樹(メルカリ取締役、メルペイ代表取締役)
大企業とベンチャー企業の懸け橋となる人材の育成や交流が必要だと思う。若いベンチャー企業の経営者と決裁権のある大企業の担当役員では、コミュニケーションがうまくかみ合わないケースが多い。例えば、大企業はオープンイノベーションの若い担当役員を抜てきして配置する、またはベンチャー企業に社外役員として入る。さらには、副業などで大企業の40代、50代が起業できたり、スタートアップにかかわれたりするような働き方改革を進めてほしい。また、イノベーション創出に向けて投資対象の領域を特化したCVCを促進すべき。
髙橋 誠(司会:経団連起業・中堅企業活性化委員会企画部会長(当時)/KDDI社長)
CVCも増え、大企業とベンチャー企業の距離も縮まった。しかし、CVCへの権限委譲は依然大きな課題である。CVCのなかだけで意思決定できれば、スピード感も増す。そういった仕組みづくりは、今後も取り組んでいかなければならない。また、ベンチャー投資に関しては、何を評価軸にして投資に対するリターンを見るのか、またエグジットの問題として、その企業にとってIPOがよいのかM&Aがよいのかをどう見極めるかを、さらに研究して考えていきたい。
端羽英子(ビザスク代表取締役CEO)
ベンチャー企業が大企業のロゴを使用できるということは、信頼感というアセットの解放の1つだと思う。大企業のベンチャー企業への理解度は企業によって温度差がある。例えば、ベンチャー企業の経営経験者を大企業が採用し、ベンチャー支援の事業に携わる仕組みをつくってほしい。そうすれば、スピード感や事業にかける熱量が理解されやすく、関係性が深まる。
後藤勝也(AZX総合法律事務所マネージングパートナーCEO・弁護士)
大企業は、ベンチャー企業との距離感やレベル感、そしてスピード感をあわせていくことが大事だと思う。そのためには、大企業の担当者は起業家と同じ熱意を持って職務に当たる。また、そういう人材を選ぶ仕組みや評価するシステムが必要となる。スタートアップとの共創をブームで終わらせないためにも、何があっても継続する覚悟で取り組んでもらいたい。そして、ベンチャー企業はもっとグローバルな事業展開を目指すべき。初めからIPOかM&Aかを二者択一するのではなく、会社やサービスがより大きくなる方法を考えるべきだ。
- ■ スタートアップを取り巻く環境の変化と取り組み
- スタートアップはSociety 5.0の時代を担う存在
- ■ 大企業×スタートアップ共創における未来と課題
- 信頼感と人のアセット解放が必要
- 大企業側にオープンイノベーションの担当役員が増えてほしい
- ベンチャーのスピード感に大企業は応える体制を
- 化学反応を期待して経営者はリスクを取る覚悟を
- 大企業側の担当者もベンチャー志向の情熱を
- オープンマインドでスタートアップ経営者とコミュニケーションしたい
- 若手執行役員を増やし権限委譲をしていく
- ■ ベンチャー企業のエグジットをどのように考えるか
- IPOしか選択肢がなかった
- IPOかM&Aか二者択一で考えるのはよくない
- ■ ベンチャー・エコシステムの進化に向けて
- 大企業からベンチャーへ、ベンチャーから大企業へ、人の流動性が必要
- 領域を特化して支援に取り組む
- 景気が悪くなっても継続できる支援体制を
- ダイバーシティ&インクルージョンをベンチャー・エコシステムのなかに組み込む
- ともに手を携えて共創する関係を構築したい