解説ISO26000 〜社会的責任に関する国際規格〜 |
今回は、第4章「社会的責任の原則」について解説する。
組織が社会的責任にアプローチし、実践するにあたっての包括的な目標として、持続可能な発展への貢献を挙げている。この目標を達成するために、組織が念頭に入れるべき7つの原則を示している。7つの原則は、(1)組織の行動様式に係る3原則(説明責任、透明性、倫理的な行動)(2)ステークホルダーとの関係に係る原則(ステークホルダーの利害の尊重)(3)法規範の尊重に係る3原則(法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)――に分類される。
以下、各原則の概要を説明する。
組織は、自らの決定および活動が社会、経済、環境に与える影響について、株主、規制当局、その他一般社会に対して説明する責任を有している(説明責任の原則)。説明責任の程度は、その権限の大きさや範囲と一致している。すなわち、影響力が大きいほど、説明責任も大きい。
説明の内容については、組織は自らの方針、決定および活動について、ステークホルダーそれぞれの利害への影響を彼らが正確に評価できるように、タイムリーで事実に基づいた情報を、明確かつ客観的な方法で、適切かつ十分な程度まで開示することが望まれる(透明性の原則)。
また、組織は、正直、公平および誠実という価値観に基づいて行動することが望まれる。このような価値観は、人々、環境やステークホルダーの利害への配慮を意味している(倫理的な行動の原則)。
ステークホルダー・エンゲージメントの重要性が、同規格全体を通じて強調されており、「ステークホルダーの利害の尊重」が社会的責任の原則の一つに位置付けられている。
すなわち、組織は、その決定や活動が社会やステークホルダーに及ぼす影響を認識し、悪影響を減らし、好影響を増やす行動が期待される。そのため、さまざまなステークホルダーの意見を把握し、自らの決定、行動に反映させること(ステークホルダー・エンゲージメント)が望ましく、ステークホルダーの利害を尊重し、よく考慮したうえで対応することが求められる。
組織は、「法の支配の尊重」(法令遵守)と同時に「人権の尊重」に代表される、「国際行動規範の尊重」が求められる。
通常、人権の尊重などの国際行動規範は、国内法に取り入れられており、3つの原則間で矛盾は生じない。
しかし、原則間で矛盾が生じる特殊な事態、例えば、ある国の法律が、人権の尊重など国際行動規範に照らし、執行が不十分な場合や相いれない状況にある場合は、組織は、国内法を遵守しているだけでは、社会的責任を果たしているとは言えない。
そこで、国内法の執行が不十分で環境または社会を保護するための適切な法的措置が取られていない場合には、組織は、国際行動規範を尊重した、法令遵守を超えた行動に努めることが求められる。
また、国内法と国際行動規範が相いれない場合は、国際行動規範を優先させた行動が求められる。
特に、国際行動規範に組織が従わないことによって社会に重大な結果がもたらされると考えられる場合は、組織は、当該国における事業活動の見直しが求められる。加えて、組織は、当局に国内法の改善を合法的手段によって働きかけることが望ましいとされている。
さらに、組織の責任は自らの行動にとどまらず、他の組織の国際行動規範に反する行動へ加担(共謀)しないことも求められる。ここで言う加担とは、他の組織による不正行為の助長のみならず、当該不正行為の黙認や、その不正行為から利益を得ることなどが含まれる。
※「国際行動規範」の定義については、第1回「ISO26000入門」(8月26日号)の「規格の適用範囲」に記載されているので、適宜参照してほしい。