第1回の「ISO26000入門」に引き続き、今回は同規格の序文および第1章から第3章の概要について解説する。
■ 序文
社会的責任の目標(持続可能な発展への貢献)、組織にとっての同規格導入のメリット(競争上の優位性、組織の評判、従業員のモラルや生産性の維持など)、同規格の目的、内容および留意点(国家の役割との関係、規格の活用方法、認証目的でないこと)などが述べられている。
「図1 ISO26000の図式による概要」は、規格全体の構成、各章の相互関係が一目でわかるように図解したものである。ISO26000は、他のISO規格とは異なり、社会的責任というユニークな分野を初めて包括的に扱った規格であることから、このような図解が有用とされた。
■ 第1章「適用範囲」
同規格の目的、取扱範囲、留意点などについて述べられている。詳細は前回の「ISO26000入門」で解説したので、今回は割愛する。
■ 第2章「用語及び定義」
同規格で使用されている27の用語の定義が述べられている。ここでは、そのうちの主なものを紹介し、難解なものは( )で解説を付した。
- (1)社会的責任
- 組織の決定および活動が社会および環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任
健康および社会の繁栄を含む持続可能な発展への貢献、ステークホルダーの期待への配慮、関連法令の遵守および国際行動規範の尊重、組織全体に取り入れられ、組織の関係のなか(影響力の範囲)で実践される行動
- (2)ステークホルダー
- 組織の何らかの意思決定または活動に利害関係を持つ個人またはグループ(第5章で、組織から影響を受ける個人またはグループをより詳しく解説)
- (3)デューディリジェンス
- 組織の決定および活動によって起こる、マイナスの社会的、環境的および経済的影響を回避し、軽減する目的で、これらの悪影響を特定する包括的で積極的なプロセス(マイナスの影響の回避を強調しすぎると、社会的に責任ある行動を通じ、プラスの影響を高めるという側面が薄らぐといった問題も生じる)
- (4)影響力の範囲
- 組織が個人または組織の決定や活動に対する影響力をもつ、政治、契約、経済、他の関係の領域・程度(第5章で、影響力の範囲と責任の範囲は必ずしも一致しない点を解説)
- (5)バリューチェーン/サプライチェーン
- 製品またはサービスの形式で価値を提供するかまたは受け取る一連の活動または関係者の全体/組織に対して製品やサービスを提供する一連の活動または関係者(いわゆる川上から川下に至る全体をバリューチェーン、川上をサプライチェーンと定義)
■ 第3章「社会的責任の理解」
最初に、社会的責任の歴史的背景および最近の動向を紹介した後、次の点を解説している。
- (1)社会の期待
- 社会的責任の根本原則は、法の支配の尊重および法的拘束力をもつ義務の遵守であるが、法令遵守を超えた行動および法的拘束力のない他者に対する義務の認識も必要とする。
- (2)ステークホルダーの役割
- 組織は、自らの決定および活動が及ぼす影響にどのように対処するべきか理解すべく、利害関係者(ステークホルダー)を特定するのがよい。
- (3)社会的責任と持続可能な発展との関係
- 持続可能な発展とは、未来の世代のニーズを損なうことなく、現在の社会のニーズを満たすことであり、経済、社会、環境という3つの側面がある。
- 社会的責任は、組織の社会および環境に対する責任にかかわるものであり、その包括的な目標は持続可能な発展への貢献である。
- 持続可能な発展の目的は、社会全体および地球のために持続可能性を実現することである。
- (4)国家における社会的責任
- この規格は、国家の権利義務関係を拘束するものではない。ただし、行政組織としての国家(政府組織)が、この規格を活用することは、他の組織同様望ましい。さらに国家は、法の立法、執行などを通じ、他の組織の社会的責任への取り組みを支援(環境整備)できる。
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なお、本規格は、規模の大小を問わず、一律に適用されるが、中小組織の利用促進のため、本文とは別に中小組織が社会的責任を果たすうえでの利点(マネジメントがより柔軟、地域コミュニティーと密接に関連している、トップが組織によりダイレクトに影響力を行使できる等)や留意点を、囲み(ボックス)として記述している。その内容には、日本産業界からの提案が取り入れられている。