わが国は今、世界的な大転換期の中で、新たな未来を切り拓くために自ら経済社会の長期ビジョンを描き、その実現に向けて行動をおこすべきときにあると思います。
戦後半世紀、国民の多くが現在の生活に満足しているとの見方がありますが、私は、日本のこれまでの経済発展を支えてきた政治、経済、社会のシステムが様々な面でゆきづまり、社会全体に活力や方向感が失われつつあることを強く感じます。高齢化・少子化や高度情報化、あるいは“メガ・コンペティション”への対応といった時代の新たな要請に対しても、十分に応えていない状況が目立っております。
もし、現状に安住して変革をためらうならば、日本は世界の新しい発展から孤立し、世界経済の発展に貢献することも、我々自身の生活水準を維持、向上することもできなくなる恐れがあります。今日の日本が直面する問題の根本を直視せず、単なる対症療法に終始し抜本的な対応を怠るならば、日本の将来は危ういと言わなければなりません。
しかし、私は日本の可能性を確信しております。この難局を乗り越えることができるかどうかは、我々の決意と努力にかかっていると思います。だからこそ、私は、若者が未来に希望を持ち、世界の人々が日本に住んでみたい、日本でビジネスをしたい、あるいは日本で学びたいと思う、そういう「魅力ある日本」の実現に向けて、今こそ人々が結集し真剣に取り組む気運を盛り上げていきたいのであります。そして、国際社会の中にあって信頼され尊敬される、新しい日本のアイデンティティを確立したいと思います。
経済の本来の目的は、人間生活を物心ともに豊かに、かつ活き活きとしたものにすることにあります。新しいビジョンを描くにあたって我々は、そのことに思いを致し、経済社会のあり方を原点から考え直してみたいと思います。その上で、自由でオープン、かつ一人一人が高い責任感を持つような新しい時代の人づくり、ライフスタイルの構築、生活環境づくりをめざしたいと思います。
未来への意志なくしては変革と創造の気概は生まれてまいりません。そのためにも、自らを反省すること、現実を見つめることから出発し、自助の精神を基本としながら、理想とする社会の姿を高く掲げ、その実現に向けて真正面から努力していきたいと思います。たとえ多くの痛みと困難を伴ういばらの道であっても、我々は、日本の未来のために果敢に挑戦していかなければなりません。
経団連によるこの長期ビジョンは、昨年来、各界の有識者の意見を参考にしつつ、経団連副会長、評議員会議長副議長、総合対策委員会委員、広報委員会企画部会委員をはじめ、主要会員企業の方々による熱心な議論を重ねて、取りまとめたものであります。
経団連は、本年8月に50周年を迎えました。そうした記念すべき年にビジョンを刊行できることを大変嬉しく存じます。これは新しい日本の創造についての経済界からの問題提起であり、今後、各界のご批判やご意見を賜ることができれば幸いであります。
経団連では、そうした多くの方々のご支援、ご協力を賜りながら、「魅力ある日本」の創造に向けて前進していきたいと願っております。
(なお、幸い本ビジョンは、本年1月に公表して以来、内外から多くの関心を集めることができました。そこで、今般、その後の進展状況をふまえ、一部を改訂いたしました。)