ILO(国際労働機関)の第104回総会が6月1日から13日まで、スイス・ジュネーブのILO本部・国連欧州本部で開催された(前号既報)。
総会における3つの議題の概要は次のとおり。
■ インフォーマル経済からフォーマル経済への漸進的移行の促進
世界では途上国を中心に、法的保護を受けていない、または実態として法が適用されていない「インフォーマル経済」に属する労働者が数多く存在し、劣悪な環境や不安定な制度のもとで労働に従事している。
ILOでは、これら「インフォーマル経済」に属する労働者を法による保護の及ぶ「フォーマル経済」へと移行させていくため、新たな国際基準の設定(勧告の策定)を目指し、昨年および今年のILO総会で討議が行われ、勧告が採択された。
勧告は、(1)目的と適用範囲(2)法的・政策的枠組み(3)社会的保護の適用(4)仕事における権利(5)インセンティブとコンプライアンス(6)使用者および労働者団体の役割(7)データ収集とモニタリング――などの項目からなる。
インフォーマル経済のフォーマル経済への移行により、法の支配が及ぶ良質な労働力および取引企業が創出され、日本企業にとっても、途上国を中心に海外市場でのビジネス機会の拡大が期待できること、また、加盟国が各国の状況を踏まえ、柔軟に対応できる旨が勧告に明記されたことなどから、日本側使用者として同勧告の採択に賛成した。
今回採択された勧告に基づき、今後、加盟国政府には自国の労働法制の整備等の対応が求められる。
■ 中小企業と雇用創出
中小企業は経済活動や雇用創出の主要な担い手であることから、ILOでは、中小企業の振興を重要課題として位置づけ、中小企業における雇用の質的・量的拡大等に向けて、加盟国に対する政策支援等の取り組みを行っている。
このような取り組みを踏まえ、今回の総会では、「中小企業と雇用創出」をテーマに、中小企業が雇用創出に果たす役割、中小企業の雇用の質、中小企業政策の効果等について検証を行うべく、討議が行われた。
討議の結果、採択された結論文書では、(1)中小企業のディーセントで生産的な雇用創出への貢献(2)中小企業の事業環境改善の必要性(3)中小企業の生産的でディーセントな雇用促進に向けたILOおよび政労使の役割――等が示された。各国において、中小企業の生産性の向上や雇用環境の改善につながる事業環境整備の方策(規制緩和、人材育成、インフラ投資、技術開発支援等)を講ずることの重要性がうたわれるなど、経団連の主張の多くが反映されたかたちとなった。
■ 戦略目標「社会的保護」に関わる反復的討議
2008年の第97回ILO総会において、「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」が採択された。同宣言では、各加盟国がディーセント・ワークの実現に向け、雇用、社会的保護、社会的対話、労働における基本的原則と権利の4つの戦略目標に基づく政策を追求し、ILO総会の場で反復的に議論することとしている。今回の総会では、社会的保護について、賃金(特に最低賃金)、労働時間、安全衛生を中心に討議が行われた。
経団連からは、賃金、労働時間、安全衛生等に関して、ILOが労働者保護に偏った政策を打ち出し、途上国等の労働政策に反映されることになれば、日本企業が海外市場に展開するうえでの妨げとなりかねないことから、ILOは、企業活動の活性化と労働者保護のバランスを十分考慮した政策を加盟国に対して推奨すべき旨を強調した。
討議の結果、採択された結論文書では、(1)賃金、労働時間、労働安全衛生の分野での保護の必要性(2)各加盟国でのディーセント・ワーク実現のための適切な保護(3)各国が置かれた経済的要因を考慮した最低賃金の設定(4)政府調達案件における労働保護の実現――等が示された。
【国際協力本部】