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第2回経団連PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)調査結果報告

経団連PRTR調査の概要

1999年6月22日
(社)経済団体連合会

  1. はじめに
  2. 産業界は、1991年に制定した経団連地球環境憲章の精神に則って、国民の健康と安全に加えて、自然との共生をも念頭に置いて経済活動を行なうよう努めてきた。97年には、多くの業界の参加を得て、経団連環境自主行動計画を取りまとめ、現在その着実な実施に取組んでいる。具体的には、地球温暖化防止についての具体的な目標と対策の発表ならびにフォローアップ結果の公表、循環型社会を目指した廃棄物対策の実施、ISO14000シリーズ策定への積極的な参加及び認証の取得などである。そうした取組みの中で、化学物質管理の面においても、国によるPRTR制度の導入に先駆けて自主的に調査を実施するなど、産業界として積極的に取り組んできた。
    経団連では、産業界の立場からPRTR導入について検討し、97年12月より第1回経団連調査を実施したところ、38業界団体よりデータの提出があり、昨年6月にその集計結果を公表した。第1回調査では、(1)わが国で初めて日本全国の産業活動による排出・移動量を把握できたこと、(2)多くの業界団体が参加した、産業界の広範且つ自主的な取組みとして初めて実施されたこと等、初回としては一定の成果をおさめることができたと考えている。但し、データの整合性や精度の面で不十分な点もあるので、これらの改善を図るとともに、参加業界団体の拡大、回答率の向上などを次回の課題とした。
    これらの課題を踏まえて、化学物質管理に係る産業界の自主取組みをより確実にするために、今般第2回調査を実施し、結果を取りまとめた。前回調査との継続性、比較可能性等の観点から、対象物質の選定をはじめ調査の大綱は基本的に第1回調査から変えていない。但し公表については、前回は全国の総排出量のみであったが、今回はそれに加えて、都道府県毎のデータを公表の対象とした。

  3. 目 的
    1. 産業界による化学物質の自主管理の取り組みの推進
    2. 化学物質は、社会生活を豊かにしていく上で必要不可欠なものであるが、取り扱いなど適切な管理を怠ると、環境・健康・安全に対して悪影響を与え、生物や環境を脅かす物質として作用することもある。
      一方、現在製造、使用されている5万から10万種とも言われる化学物質を従来の法規制で管理することは不可能となっており、化学物質の自主管理において事業者の自主的取り組みが強く求められている。
      そこで、産業界においては、事業者が自ら取り扱っている化学物質の環境への排出量、移動量を把握し、潜在的に有害な環境汚染物質の適正なリスク評価・リスク管理を行うためのツールとして活用することを目的とする。

    3. 社会とのリスクコミュニケーションの一助として活用する。
    4. 調査結果を公表して、自主活動の透明性を高め、社会からの信頼を確保するためのリスクコミュニケーションの一助として活用する。

  4. 基本方針
    1. 経団連が現在実施しているPRTRは最終形態ではなく、社会とのリスクコミュニケーションを行いつつ、継続的に改善していく。
    2. 経団連加盟団体以外にも更に広く参加を呼びかけ、PRTRを全産業の自主的な取り組みとして推進していく。
    3. 排出量削減に向けた産業界の自主的取組みの基礎データとして活用する。
    4. 化学物質の生産から廃棄までの一貫したリスク管理を考える基礎データとして活用する。
    5. データの公表については、当面は産業界全体としての排出量とするが、社会とのリスクコミュニケーションを進めつつ、順次ブレークダウンしたデータを公表することを目指す。

  5. 調査結果の概要
    1. 調査参加業界団体及び企業数
    2. 第2回調査には、合計43団体より報告があった(別表1参照)。第1回調査では、38団体からの報告であったので、調査参加業界団体は前回より5団体増えたことになる。また、調査対象物質の日本全体の総取扱量に占める参加43団体のカバー率(※)を推計したところ、物質あたり平均約84%となった(前回は約80%)。
      参加43団体がそれぞれの会員企業に調査を依頼したところ、合計3,302社の内、75.5%にあたる2,492社(4,341事業所)から回答があった。なお、前回調査では2,510社に依頼し、63.1%にあたる1,585社(1,948事業所)から回答を得た。
      回答の無かった企業にその理由を問い合わせたところ、他の所属業界団体に報告した、準備が遅れ、調査締切りに間に合わなかった等の理由であった。

      . カバー率=報告された取扱量/日本全体の総取扱量
      日本全体の総取扱量=日本全体の生産量(通産統計値等)+使用量(生産量で代替)+輸入量―輸出量
      参加業界団体数

      回答企業数・事業所数

      回答率
      調査依頼企業数回答企業数回答率
      第2回3,3022,49275.5%
      第1回2,5101,58563.1%

    3. 取扱い及び排出・移動実績
    4. 今回の調査対象とした172物質(別表2参照)の内、取扱い実績の報告があったのは157物質であった。この内、環境(大気、公共用水域、土壌)への排出実績の無かった物質は41物質、廃棄物としての移動実績の無かった物質は28物質であった。これらの内、環境への排出実績、廃棄物としての移動実績、両方とも無かった物質は18物質であった。

      取扱い実績及び排出・移動実績のあった物質数

      注:報告対象データは、第1回調査については1996年度、第2回調査は1997年度のデータである。

    5. 環境媒体毎の排出量、移動量
    6. 環境への排出量は、大気への排出量が一番多く、総排出量の94.9%を占めており、残りは公共用水域への排出量が総排出量の4.9%、土壌への排出量は0.2%であった。
      物質毎に見ると、大気への排出割合の多い物質が77物質、公共用水域への排出割合の多い物質が37物質、土壌への排出割合の多い物質は2物質であった。
      大気への排出量の一番多かったのはトルエンで約68,251トン、次いでキシレンの約41,113トン、ジクロロメタンの約22,587トンであった。
      公共用水域への排出量が一番多かったのは塩化水素の約3,139トンで、次いでジメチルホルムアミドの約883トン、ホウ素及びその化合物の約564トン、アルミニウム化合物472トン等であった。
      土壌への排出量が多かった物質は、キシレン類の109トン、アルミニウム化合物の94トン、亜鉛化合物の55トン、銅化合物の52トン等であった。(表1〜3参照)
      次に、移動量(廃棄物として事業所外に移動した量)についてみると、1万トン以上の移動があったのは、亜鉛化合物の33,368トン、塩化水素の24,042トン、クロム化合物(六価以外)の12,821トン、トルエン12,071トンの4物質であった。(表4参照

    7. 有害大気汚染物質の自主管理計画対象12物質の排出状況
    8. 有害大気汚染物質とは、低濃度であっても長期的な摂取により健康影響が生ずる恐れのある物質のことを言い、該当する可能性のある物質として234種類、その内、特に優先的に取組むべき物質(優先取組物質)として22種類がリストアップされている。
      改正大気汚染防止法では、有害大気汚染物質について事業者の自主管理を促進することにより、排出抑制対策を進めていくことを一つの柱としている。産業界は、優先取組物質の内、自主管理の対象となっている12物質については、95年の排出量をベースとして、2000年の排出量を約30%削減すべく自主的取組みを進めている。
      今回調査の結果、これら12物質の大気への総排出量は42,773トンであり、昨年調査結果(43,401トン)よりも減少傾向にある(注:参加業界団体数、企業数は前回より増えている)。ジクロロメタンが約22,587トン、トリクロロエチレンが4,486トン、ベンゼンが3,614トンとなっており、この3物質で、12物質総排出量の約73%を占めている。(表5参照

    9. 排出・移動量の前年調査データとの比較
    10. 今回は、昨年調査時に比べ、参加業界団体、企業数が増加している。また、調査対象物質は、基本的には前回と変わりないものの、各物質群(172対象物質の中には物質群が37含まれている)における指定対象物質を拡大したため、実質的には対象物質数は約70増えている。したがって、必ずしも単純に、昨年と今年の調査結果を比較することはできない。
      以上の前提を踏まえた上で、参考までに、大気への排出量と移動量について、前回調査からの経年変化をみてみることとする。
      環境への排出量の約95%を占める大気への排出についてみると、対象172物質中、取扱い実績のあるものが157物質、この内トルエン、キシレン類など、51物質は前回より排出量が増加していたが、43物質は減少しており、21物質はほぼ同量であった。残り42物質については、前回も今回も、大気への排出実績はなかった。

      前回データとの比較

      大気への排出量が増加した主な物質を挙げると、トルエンが26,651トン、キシレン類が9,513トン、ジメチルホルムアミドが1,084トン、塩化水素が1,011トン、それぞれ前回調査結果より増えている。個々に理由を調査したところ、増加分の殆どは、いずれも、今回新たに調査に参加した団体からの報告であった。
      移動量は、廃棄物処理業者に委託して場外へ持ち出した量であり、適切に処理された量を示しており、これについてみると、亜鉛化合物が23,068トン、トルエンが5,211トン、モリブデン及びその化合物が4,956トン、それぞれ昨年に比べて増加している。これらは参加団体・企業数の増加が主な理由である。亜鉛化合物の移動量は、昨年よりも3倍以上に増えているが、これは参加団体・企業数の増加という理由に加えて、一部の業界で、定期的な触媒の交換に伴ない対象物質を含む廃棄物が大量に発生した為という理由もあった。(別表3別表4参照

    11. 都道府県別の排出量
    12. 今回は、都道府県毎の排出量・移動量を調査した(但し、準備が間に合わなかった等の理由から、都道府県毎の報告の無かった8団体を除く)。47都道府県毎に、(1)大気への排出量、(2)公共用水域及び土壌への排出量(公共用水域への排出量+土壌への排出量)、(3)移動量について、それぞれ上位5物質を示した。(別表5参照)
      各都道府県毎に、大気への排出が最も大きい物質の排出量についてみると、10トン未満だったのは、5都道府県である(排出量ゼロが1県)。同様に、10トン以上100トン未満だったのは9都道府県、100トン以上1,000トン未満だったのは14都道府県、1,000トン以上10,000トン未満だったのは19都道府県である。なお、全国ベースでの大気への排出量が多い上位3物質(表1参照)について見ると、28都道府県においてトルエンが1位となっている。キシレン類については5都道府県、ジクロロメタンについては6都道府県において1位となっている。
      公共用水域及び土壌への排出量については、各都道府県とも大気への排出量に比べると圧倒的に少なく、その合計値でみても25都道府県では、排出量が1トン以上ある物質が1乃至4物質しかなく、その内の6都道府県では、排出量が1トン以上ある物質はゼロだった。
      また、各都道府県の廃棄物としての移動量も、大気への排出量に比べて相対的に少ない結果となっているが、その中にあって、一部の都道府県(13都道府県)では、亜鉛化合物の移動量が相対的に大きくなっている(これは、参加業界団体、企業が増加したこと、及び定期的な触媒交換が主な理由である)。

  6. 第2回調査のまとめ
  7. 第1回調査結果報告において、4点を今後の課題として挙げた。それぞれの課題について、第2回調査における実現状況をみると、以下の通りである。

    1. 回答率及び参加業界団体の拡大
    2. 第2回調査では、参加業界団体は、前回の38団体より5団体増えて、43団体となった。回答企業数も2,492社で、前回の1,585社から、およそ900社増加している(事業所数は4,341となり、前回の1,948から2倍以上に増加)。
      企業ベースの回答率も、前回の63.1%より約12%ポイント増の75.5%となり、データの拡充が図られた。

    3. カバー率の一層の向上
    4. 物質毎のカバー率(対象物質の全国の総取扱量に対する43団体における取扱量の割合)を推算したところ、前回の80%より4%ポイント増の約84%となった。

    5. データの整合性の確認と精度の向上
    6. 第1回、第2回と調査を継続して実施したことで、データの比較が可能となり、各業界団体はデータの整合性の確認を行なうことができるようになった。
      しかし、2回だけの調査では、十分な整合性の確認、精度の向上を行なったとは言い難いので、これらの課題の実現に継続して取組む。

    7. データ分析の実施
    8. 今回は2回目の調査ということで、排出・移動量について、前回調査データとの比較を試みた。その結果、報告された母数が増えたにもかかわらず、大気への排出では、43物質について前年より排出量が減少していること(4.(5)参照)、有害大気汚染物質の自主管理対象12物質の総排出量が減少傾向にあること(表5参照)等が明らかになった。(但し、2回だけの調査でデータの経年変化の傾向を十分に把握するのはまだ無理がある。)

    以上に加えて、今回は新たに都道府県毎の排出・移動量も調査し、各都道府県別にブレークダウンしたデータを公表するなど、第1回調査の経験を踏まえて、産業界の自主的取組みとしての経団連PRTR調査の成果は着実にあがっている。
    今後も経団連PRTR調査を継続して実施していくことによって、データ精度の一層の向上とデータ分析の実施に取組むとともに、事業者のリスク管理に資するデータを提供することを目指したい。


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